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『モヤさま』テロップに唸る夜

最近ますますラジオ志向が進んでいる生活のなかで、日曜夕方から夜にかけての時間帯だけは、テレビを観る。
『ちびまる子ちゃん』→『サザエさん』→『モヤモヤさまぁ~ず』→『麒麟がくる』の流れに、平和な気持ちで浸るのだ。

テレビのバラエティ番組はいつのころからか、画面の下に、意味があってもなくてもずっとテロップが出ているのが気忙しいのと、出演者が多すぎるうえに全員が大声なのが落ち着かなくて、すぐ消したくなるようになった。

しかし『モヤモヤさまぁ~ず 2』のテロップだけは、大好き。

多くの番組のテロップは、出演者の発言をただ文字に書き起こしているだけ(少なくともそういう印象)なのに対し、『モヤさま』のそれはまったく違うから。
潔いほど少ない文字数で状況を要約するテロップが、最高のタイミングで挿入される。
そこに、卓抜したコピーライティングのセンスと編集力を感じるのだ。

意外な一言に不意を突かれて大笑いしながら、言葉選びのセンスのよさに思わず唸ってしまう、そんなスマッシュ的名テロップが毎週のように飛び出すのだけど、3月15日放送の高輪ゲートウェイ駅周辺の回でも、それはあった。

たまたま入った古めかしい店構えの洋裁店の女性店主が、実は芸能事務所にも所属する女優さんとわかり、みんなびっくり、という場面だった。

60代?と見える店主は、言われてみればたしかに目鼻立ちのはっきりしたかわいらしい顔立ちで、声にもハリがあり、役者と聞いて納得。その後、三村氏のムチャぶりの即興芝居にも見事な演技で応えてくれるという、最高に面白い展開だった。

最初、さまぁ~ず一行は何も知らずに入店し、店主としばらくやりとり。すると店主本人が「実はわたし、事務所にも所属しているのよ……売れてないんだけどね(苦笑)」「もう芸歴だけは長いわよ……売れてないけどさ(苦笑)」と自嘲気味に「売れていない」と繰り返しながら、じわじわと素性を明かしていく。そのとき画面に大きく映し出されたテロップが

「売れ待ち。」

わたしは思わず吹き出しながら、「あぁ、これぞモヤさま!」と感動した。

そう、これですよ、これ。
込み入った流れを整理しつつ、誰もけなさずして、そのシーンに潜むおかしみを短い一言でバシッと伝える。
絶妙なさじ加減の毒とユーモアで、状況にやんわり突っ込みを入れながら大人の笑いで救い、ほんのり癒す。
発言をそのまま文字に起こしただけのテロップより、視聴者を100倍楽しませ、しかも画面に映し出す意味のあるテロップだと思う。

もちろん、あの番組の面白さはさまぁ~ずの二人の面白さあってのものなのだけれど、鋭く的確なテロップが果たしている仕事はかなり大きい。少なくとも(あるいは物を書く仕事の性なのか)、わたしにとって『モヤさま』の楽しみの半分くらいは、あのテロップへのワクワク感が占めている。

あのテロップは誰が書いているのかなぁ。
構成作家や放送作家と呼ばれる方だろうか。
いずれにしても、すんばらしいコピーライティングの技の持ち主だと思う。どうやったらあんな見事な言葉を繰り出せるのか、その秘訣を取材させてもらいたいくらいだ。

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