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助けてくれたのは紙だった

12月5日に発売する最新刊『すこやかなほうへ 今とこれからの暮らし方』(集英社)の執筆と校正の作業が、ようやく手を離れた。

と同時に、12年前のブログを電子書籍化する作業に取りかかっている。

それはわたしにとって最初のブログで、娘が1歳10か月のころからスタートしている。
当時エディターとしての仕事先だったキッズファッション誌から、ブロガーとして声をかけていただき、他の大勢のママクリエイターやママモデルの方々と並んで、育児日記の投稿を始めたのだった。

ブログを始めてすぐにわかったのは、これは目的や形式を自分のなかではっきりさせないと続かない、ということだった。
気が向いたときに、とか、できる範囲で、とか、曖昧な姿勢でやっていてはまず続かないだろう、と。

このnoteにしてもVoicyにしても、わたしは新しい活動を始めるとき、更新頻度、曜日、時間といった「型」を先に決めることにしている。

そしてやると決めたら、公表(公約)してしまう。
そうすれば状況がどうあれ、やるしかない。
やるかやらないか、やるならいつやるかをはっきりさせないと、できない理由なんていくらでも出てくる。それで結局、最初に思ったようなペースではできていない、ってことになる。
これは経験上、自分の性格的にそのパターンに陥りがちな人間だとわかっているから、だったら最初に逃げ道をふさいで、やらざるを得ない状況に追い込んでしまえと、編み出した方法である。

まぁ、このやり方が広く適用できるものではないとは思いつつ、とにかく12年前にブログを始めた当初のわたしが設定した「型」は、ブログの更新は毎日、目的は、離れて暮らす名古屋の義父母に初孫の成長記録を届けるため、とした。

すると義父はこちらが予想した以上にブログを喜び、それどころか日々の生きがいとして、毎日更新を心待ちにしては、記事をプリントアウトし、義母や曽祖母にも回覧してから、几帳面にファイリングしはじめた。

結局、そのブログは2年近く続けたのだけど、ウェブサイトリニューアルによってブロガーも一新することになり、それまで続けてきたブログは閉鎖されることになった。

希望者にはデータを渡すという通知がきて、何度か依頼したものの、編集部の異動などで担当者が変わったりしたこともあり、気づけばわたしのもとには今もデータが届いていない。

けれど、すでに自分のウェブサイトで新たなブログをスタートしていたこと、過去のものには執着しない性格もあって、深追いはしなかった。
データをもらったところで、今すぐそれをどうするという予定もない。
あのブログは、当時の義父母を喜ばせ、わたしのなかに取材ライターではなく自分の暮らしを書く人として生きていきたいという目標を芽生えさせた時点で、役割を果たしたのだと納得していた。

ところが、8年前に義父が亡くなり、遺品の整理をするなかで、大量のブログのプリントアウトの束が見つかった。

毎日毎日それを束ねていた義父の姿を想像して胸を熱くしながらファイルしなおし、アルバムと一緒にわが家の書棚におさめていたのだが、今年になって、そのファイルを引き抜き、仕事机で開くこととなった。

なぜなら、Voicyのリスナーさんからのリクエストをきっかけに、古いブログを再編集して電子書籍化する、という新たなミッションを得たからだ。
義父がプリントアウトしてくれていたものを転記し、写真は古いSDカードやROMから引っ張り出してきて、文章と写真を読みやすくととのえる、という作業を、コツコツと1日分ずつ進めている。

編集部からデータをもらえていれば、もっとラクだっただろうか。
いや、きっとそうじゃない。ゼロからやり直していることに、たぶん意味がある。このほうがいいものになるはずだ、という気がする。

ペーパーレス化が進み、用紙の価格も高騰し、紙の書籍をこの先いつまで出し続けていけるのかわからないし、わたしが再編集して出版するブログも電子版にすると決めている。

一方で、わたしは今まちがないなく、紙に助けられている。
義父が毎日ブログの更新を楽しみに待ち、パソコンとつないだプリンターで出力して、義母と曽祖母にも回覧していた、その紙に。
ファイルの束には、ときどき裏紙や、間違えて注文してしまったという色付きのコピー用紙も混じっていて、そこに書き込まれた、懐かしい義父の文字と、意味を解読できないメモ書きに胸がツンとしながら、作業を進めている。

この先何年もかけてシリーズ刊行していく第1巻目は、今年中にリリースするつもりだ。

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