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マンガ休暇

今月に入り、あと数日で入試が始まるというタイミングで、まさかの発熱に見舞われてしまった。
結果的には3日ほどで熱は下がり、事なきを得たのだが、念のため家庭内で隔離生活を送り、その間は夫にはLINEで、娘にはメールで指示を出しながら、家事と勉強をわたし抜きでこなしてもらった。

発熱といっても微熱で、普段36度あるかないかというところに、36.8度〜37.2度という数字をいったりきたり、とくに強い倦怠感もない。日々の行動に感染の心当たりはなく、味覚も嗅覚も正常、咳の症状もないとあれば、今すぐPCRをという発想にはならなかったが、さすがに体温計の表示が37度を過ぎた時点で、感染の可能性がちらついて不安に襲われた。

夫も感染予防には日々かなり気を使っているし、わが家の構造上、隔離は一応可能ではある。
布団類をマットレスごと娘の部屋に運び込んで娘と寝床を交換し、その部屋を出てすぐの位置にある2階のトイレと洗面所はわたし専用、娘と夫は1階の方しか使わないことにした。お風呂は昼間、2人が出かけている間に入り、タオルや洗濯物も自分のものだけお急ぎコースで洗い、彼らの帰宅前に干して、また部屋にこもる。

6畳の子ども部屋に、ノート型PCとスマホとiPadと充電器、入試関係の書類、体温計と白湯を入れた水筒、あとは着替えの類を持ち込み、食事はフェイスシールドとマスクをした夫が日に3度運んでくれた。

ベッドに座り込み、この熱が37.5度を超えたら、それが4日下がらなかったら、やっぱり病院に行って検査しないとかな……と思いながら日に何度も体温を測りながら過ごしたのだが、結局熱は37.5度を超えることなく下がり、ホッと胸をなでおろした。
おそらく、入試が始まるプレッシャーとストレスが、慢性的な疲労に重なった心因性の発熱だったのではないか、と思っていて、でもおかげで、いよいよ本番を迎えて心身をすり減らす前に、たっぷり休養がとれたともいえる。そのぶん夫はヘトヘトになってしまったけれども。

話題の受験マンガを一気読み

前置きが長くなってしまったが、その隔離部屋で何をやっていたかというと、中学受験マンガ『二月の勝者』の一気読みである。

え、今さら? 今まで読んでなかったの? というツッコミがあって当然なくらい、中学受験に臨む親にとっては「常識」ともいえるこのマンガ。
もちろん読みたいとは思っていたのだけれど、作品の存在を知ったときはすでに7巻くらいまで出ていて、そんなの読む時間は今ないわ……と見送っていたのだった。

が、ここへきて突然の隔離生活。読むなら今でしょ、とKindleで次々とダウンロードしながら読み進めていった。こんなに集中してマンガを読んだの、何年ぶりだろう!

それで、この『二月の勝者』。噂通りの面白さとリアリティでぐいぐい引き込まれた。
わが家の受験は、最難関中学を目指す上位層の塾や子どもたちの世界には無縁とはいえ、自分の経験や耳に入ってくる情報と照らし合わせても、「さすがにこれはオーバーでしょ」と白けてしまうような極端に誇張されたエピソードや描写も見あたらない。むしろ、なかなか成績が上がらない下位クラスの保護者のジタバタぶりは、まさか自分の生活をのぞき見されているんじゃないかってくらいのリアルさで、ぞわっとしたくらいだ。

このマンガをもっと早く読んでいたら、成績低迷に悩んで個別指導を入れることはなかったかなぁ……いや結局、同じ道筋しか辿ってこれなかった気もする。だって、その時々で、とことん悩んで考えて、行動してきたことはたしかなのだ。それでもこんなに迷うし、あがくし、苦しい。そんな中学受験の壮絶さが克明に描かれている。

驚くほどリアル、そのなかで気づいたこと

9巻まで一気に読んで、あぁ続きが読みたい!と思った数日後に10巻が発売になり、予約して発売日に読んだ。いよいよ入試直前の秋冬まで季節が進んできて、成績上位タイプの子にも下位タイプの子にももれなく、それぞれの事情で壁が立ちはだかり、各家庭(というか母親)が抱える悩みもMAX状態。マンガの登場人物のなかには、わたしの分身が何人もいた。

でも一方で、気づいた。ざっと10人くらいの、成績も性格もさまざまな子どもたちが登場するなかに、わが娘の分身はいないということに。

女の子だけどコツコツと真面目なわけでもなく、自分に自信がもてなくて思い詰めるタイプでも(まったく)なく、友達同士でつるんではしゃぐタイプでもなく、マイペースではあるけれど自ら計画的に勉強できるほど自立心があるわけでもない。男の子にも、似たタイプはいなかった。
こうして書いていると、娘はシンプルでわかりやすい性格のようで、実はとらえどころがない子どもなのかもしれない。いや、自分の子どもだからそう感じるだけだろうか。

とにかく娘のような飄々&淡々&それでいて甘えんぼキャラは登場しないせいか、わたしのようにつきっきりで勉強を見ている、というか子どもといっしょに勉強している親も出てこなかった(開成合格まっしぐら、子も親も優秀なスパルタ家庭の悲劇は描かれているけれど、それとはまた全然ノリが違うし)。

以前もその素晴らしさを書いた『偏差値30からの中学受験合格記』のタコ太くんには「娘とそっくり……」とかなり共感を持ったんだけどなぁ。
薄々思ってはいたけれど、娘ほど手のかかる面倒くさい中学受験生も、わたしほどあきらめの悪い親もレアケースってことだろうか。

いよいよ入試の局面を迎えるであろう『二月の勝者』次巻の発売が、われわれ親子の受験が終わった後、というのが残念ではあるものの、とにかくおもしろいことは間違いない。
とくにこの先、中学受験をしようかどうしようか迷っている人は、事前に読むといろいろ覚悟ができていいと思う。
わたしみたいに「っていうか、大変とは聞いてたけど、まさかここまでなんて……」と途方に暮れることは、このマンガを読むことで、ある程度は防げるはず。いや、そう単純な話でもないのかな、いざ当事者になったら。

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