見出し画像

低迷期を財産にする方法

2年前の今ごろは、いよいよ娘の中学入試が目前に迫ったストレスで、耳が聞こえづらくなったり、一日じゅう重たいため息をついていたりで、心身ともにボロボロだった。

その続きにある日々とは思えないくらい、昨年も今年も、うれしいことや楽しいことがいっぱいの毎日である。
もちろん日々の解像度を上げてみれば、悩みやストレスは、ちょいちょいある。でも、入試が近づくにつれて目に映る風景がどんどん色彩を失っていったような、あの日々にくらべたら、すべてがごほうびに思えるくらいだ(子どもの受験くらいでおおげさな、と思われることは重々承知ですが、上の記事を読んでいただけると、当時のわたしの異常な状態がご理解いただけると思います)。

人生は長く、運気にもバイオリズムがある。
いい波が次々にリズムよくやってきて、それらにスイスイ乗れるときもあれば、波に乗り損ねて渦に飲み込まれておぼれそうになるときも、また海底に沈みながらまた浮かぶチャンスをじっと待つようなときもある。

娘の中学受験期のことを、暗く長いトンネルによく例えているわたしが、そのトンネルを抜けてすぐに著作活動を再開させ、さらに音声配信Voicyや自宅でのワークショップなどの新しい活動を始めた起動力について驚かれることがあるが、これはもしかすると、沈んでいる間にやっていたこと、考えていたことのおかげかもしれない、と思う。

海底で潮目が変わるのを待ちながら


わたしの40代は、人生前半における低迷期だったと思っている。
「自分はこんな本が出したい」という気持ちだけが強くあって、ゼロから企画を立て、プレゼンし、なんとか出版させてもらってきた。
そうしてなんとか著作は出し続け、並行して家族のために時間と体を使いながらも、自分が社会から求められている実感も、社会のために役立てている実感もなかった。

いつか自分の本を出すのが夢、と考えている人は多いと思うけれど、本を出すこと自体は、自費出版なら誰でもできる。わたしが2010年から2021年で出版した10冊の著作のうち、3冊は自費出版だ。

ただ、やはり物書きを名乗る以上、商業出版でどんな本を出してきたかが他人からの評価の対象となるのが現実だ。
だから商業出版のタイトルが少ない時期は、企画を通してもらう壁も高かった。
著者としての知名度が低くても、たとえ1冊しか本を出していなくても、それがベストセラーとなれば、次の出版依頼も舞い込むだろう。
でも、わたしがつくる本、つくりたいと思う本、自分の作品として誇らしく思える本は、よい本ではあるけれど地味で、書店員さんが個人的に気に入ってコーナーに面陳してプッシュしてくれることはあっても、時代に合ったキャッチーなタイトルで客の心をつかみ、何か月間も平台で売れ続けるような本ではない。
著作が年1冊ずつ増えるたびに、その現実に向き合わされた。

と同時に、「ベストセラーでなくても著作が増えてゆけば、きっと潮目が変わるときがくる。だからコンスタントに出し続けることが大事だ」と自分に言い聞かせながら書き続けた。それがわたしの40代だった。

今年からVoicyを始めて、「失礼ながら小川さんのことはVoicyで初めて知りました」というリスナーさんの声がたびたび届くようになり、そのたびに「ふふふ」と微笑んでしまう。

失礼でもなんでもない。
わたしのことも、著作も、知らなくて当然だから。
それくらい、わたしも作品も、ひっそりと存在していたのだから。

低迷期は準備期でもある


とはいえ、じっと息をひそめていたわけではない。
自分なりにめいっぱい声を上げていたし、それに気づいて価値を認めてくれる読者だってちゃんといた。
その方々がわたしに心のこもった感想を送ってきてくれたから、わたしは自分の文章に自信を失うことなく書き続けることができたし、次の企画を考えることもできたのだ。

だから低迷期といっても、海底にじっと沈んでいたわけではなく、いや、側からはそう見えていたとしても、よくよく見てみれば、実は手足をばたつかせ、なんとか海面から顔を出そうとあがいていたんだなぁと思う。その運動のなかで、わたしは全身に筋肉をつけ、肺活量がアップし、心身ともに強くなれた。トンネルを抜けてからの起動力は、きっとその賜物なんだと思う。

だから今、人生における運気のバイオリズムの低い地点に自分はいるなと感じているとしたら、わたしから伝えられるのは、いずれまた上がるときが必ずくるから、そのときに備えて心身を鍛えておくといいよ、ということだ。低迷期だと思っていたけど、実は念入りな準備期間だったのだと、のちのち振り返れるように。

今、沈んでいるという現実を無理やりひっくり返そうとすることにエネルギーを使うのではなく、いつかまた必ず人生が上向く、そのときのために、粛々と今やれることをやる。
なにも重量挙げみたいなハードな筋トレじゃなくたって、たとえスクワットからでも、毎日やれば、強い体は着実につくられていく。

そうして低迷期から抜け出してみれば、実は低迷期の経験こそが「持ちネタ」という財産にもなっている。持ちネタがおもしろい人はモテるし、モテる人生は、さぞやしあわせなことだろう。

そんなふうに考えながら、低迷期を前向きに過ごしていこう。

*最新刊『すこやかなほうへ 今とこれからの暮らし方』が12月5日発売です。
発売前からAmazonの住まい・インテリアのエッセイ・随筆カテゴリのランキング1位を獲得しました。ご予約くださったみなさま、本当にありがとうございます!
今作もnoteの文章が原案のエッセイを多数収録しています。試し読みページとご予約はこちらから↓

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?