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博士課程と卵子凍結、海外在住・未婚女性のある選択

唐突な話になるが、筆者は2022年の夏、卵子凍結をした。

ちなみに筆者は2023年現在、拠点は海外、博士号取得に向けて博論執筆中、パートナーなし、結婚・出産の具体的な予定なしの30代女性である。

これについては特に隠すこともなかったのだが、特に詳しく話そうとしようともしてこなかった。

というのも卵子凍結には、薬による副作用や高額な費用という問題がある上に、卵子凍結をしたからといって必ずしも将来、その冷凍した卵子を使って妊娠することができるとは限らないからである。

親しい友人たちからどのようにして凍結したのか、その方法や費用について知りたい、書いて欲しいということは直接言われ続けてきたが、もし書いたとしたらそれを推奨していると受け取られないか、今まで色々悩んできた。

卵子凍結から1年が経った2023年の夏、凍結卵保存のための更新料支払いの通知を受け取った。

「そうか、もう1年経ってしまったのだな」と思うと同時に、今まで頭の中を漂っていた言葉からするするとプロットが出来上がったので筆を取ってみたわけである。

この記事では、卵子凍結を私のキャリアである博士課程・研究職というキーワードと結びつけつつ書いていきたいと思う。



1. 卵子凍結を決めた理由

卵子凍結を決めた理由は次の二つである。

  1. 病気が見つかったから

  2. 将来子供を産むという選択肢を残したかったから

病気については、30代に突入してすぐに見つかったものであり、全身麻酔による手術の必要はあったものの命に別状はないものだったので、そこまで深刻なものではない。

とはいえ、これをきっかけに自分がいつまでも健康であるわけではないと気付かされたわけである。

また筆者は「自分一人でできることはできるところまで進めておこう」というスタンスなので、「子供を産むという選択肢」を自分一人で残せるものとして即座に卵子凍結が思い浮かんだのであった。

このような理由から、日本に比較的長く帰ることができる夏休みを狙って卵子凍結を実行することに決めた。

そうとなれば病院やクリニック探しなのだが、これにはかなり苦戦することになる。


2. 未婚で健康な女性が卵子凍結する難しさ

2021年夏、筆者は卵子凍結のための病院を探し始めた。

まず通いやすさを重視し、筆者の実家がある福井県で探したのだが、結論から言うと2021年の時点では未婚、かつ健康な女性が卵子凍結できる場所は福井県内では一つもなかった。

不妊治療で有名なあるクリニックに電話をかけると、「未婚で…」と言った瞬間、「当院では既婚女性で不妊治療を行なっている人の卵子凍結しか受け付けていない!」と早々に電話を切られた。

大学病院に行ってみると「癌の治療中の人のみ、未婚であっても保険適用で卵子凍結をやっているのだが、健康な人には保険適用外であっても卵子凍結はやっていない」と申し訳なさそうに言われてしまった。

この時、初診料を払うつもりで紹介状を持たずに大学病院に行ったのだが、対応してくれた医師の方は「ただ話しただけだから」と言って初診料は要らないと言ってくれたのはとてもありがたかった。

他のクリニックや病院に電話をかけるものの、その不妊治療で有名なクリニックや大学病院でやっていないということならば福井県内でできるところはないだろうという回答をいただいた。

これは2021年の話なので今はどうか知らないが、筆者は地元で卵子凍結をすることを諦め、首都圏の病院を探すことにした。

卵子凍結のオンライン相談をやっていた東京と大阪、二つの病院に相談し、大阪の病院で卵子凍結をすることに決めたのであった。

このオンライン相談というのが、県境を跨いだ移動が難しかった2021年夏の時点ではとてもありがたかったのを記憶している。

大阪の病院に決めた理由は、地元の福井県からの通いやすさを重視したからであり、特に東京の病院と技術や費用面での差を感じたわけではない。

卵子凍結をするとなると、注射や検診、検査のために病院に通わねばならないので、福井から東京に行き、さらには宿泊先を予約するよりは、福井から大阪まで日帰りした方が負担が少ないと考えたからである(しかも夏休み中だと青春18きっぷが使える)。

2021年夏はこのように情報を収集しただけで終わってしまったのと、県境を跨いだ移動が難しかったのとで、実際に卵子凍結をするのは2022年の夏にすることにした。

2022年夏に決行した卵子凍結について、そのスケジュール、費用、方法、麻酔、薬の副作用などなど、一つ一つ書いていけばとても長くなってしまうので、それは必要があれば別のところで書くことができたらと思っている。

このように、未婚で健康な女性が、将来子供を産む選択肢を自分に残したいと思った時、卵子凍結を実行するまでに様々な壁が立ちはだかっていたというのは事実である。


3. 博士課程と出産

現在、筆者は海外(イタリア)の博士課程に在籍し、博士号を取ろうと奮闘中である。

人文系の、しかも海外の歴史学専攻ということで、他の専攻よりも博士論文の完成に時間がかかってしまうという言い訳をしたいところだが、筆者の場合、同じ専攻の人に比べても時間をかけて博士論文に取り組んでいることは否定できない。

まだ日本の大学にいた頃、「博士課程まで進むと結婚や出産のプランが立てられなくなるから、私は修士で(研究室を)出ます」と言った人が研究室にいたが、まさにその通りで研究にこだわり始めるとどんどん博士課程の出口が見えなくなってくるのである。

その上に、博士課程および博士号取得後の研究者は、大学や研究機関で常勤のポストが見つかるまでは派遣社員のようなもので、任期付きのポストや期限付きの給付型奨学金を確保しつつ、様々な都市や国を転々としなければいけない。

また、これは言ってもしょうがないことをあえて文字化しているだけだが、男性研究者の場合は少し状況が異なってくる。

博士課程という不安定な身分であっても、パートナーと話し合いがうまくいった人は、留学先にそのパートナーを帯同する、あるいはパートナーを日本に置いて海外に留学する男性研究者もいる。

ところが女性研究者の場合、パートナーを留学先に連れて行ったという人は今のところ一人も聞いたことがない(別の専攻の人だといるのかな)。

博士課程という不安定な状況であることや海外で給付型奨学金を獲得し続けながら生きるという待遇は男女ともに変わらないはずなのに、この違いは何なのだろう。

これはイタリアに拠点を移す前から考え続けていることだが、考えてもどうしようもないことなので今は考えないことにする。

このことについてもっと議論できる時代になったら他の人と意見を共有してみたい。

さて、周りを見渡してみると、博士課程の途中に結婚・出産をした女性研究者、博士号を取得してから結婚・出産をした女性研究者などなど、そのパターンは人によって様々である。

しかしながら博士課程の進学先として日本人があまり選ばないイタリアに来てしまった、しかも博士号取得後は、日本とヨーロッパ両方でポストを探すことを意気込んでいる身としては他の人はどうだったからというのは全く参考にならない。

極論を言うと「他の人がどうしたか」など心底どうでもいい

それくらい、いつも研究ややるべきことに日々追われているのであり、モデルとなるプランは何もない。

また卵子凍結をしておきながら、筆者自身、そこまで結婚という制度を信用しているわけではなく、今目の前に優先すべきことがあるならば別居婚でも事実婚でも構わないと思っている(子供や財産を法的に守るため、必要が生じたら籍を入れればいいだけの話だし)。

こういうスタンスで生きているせいか、日本を拠点に生きている人とは縁が薄いし、かといってイタリアやフランスにいる時に会う人とはそこまで深い話をするに至っていない(言い訳がましいけど本当に時間がない、というか時間を作ってまで会いたい人は今いない)。

私自身、とても不器用な人間なので、博士号をとりつつ、かつパートナーときちんとした関係を築いている女性はすごいと本当に尊敬している。

こんな感じで諸々私生活が破綻した私でもできることの一つが卵子凍結であったわけである。

でも正直、近い将来、一緒に家族を作るという深い話まですることができるパートナーに出会えるかという自信や確信は、これを書いている2023年の時点ではあまりない(とかいって数ヶ月後には状況が変わっている可能性もある)。

そうなってくると、自分のキャリアを爆走しながらも、一人で子供を産むという道もありかなと思う。

なぜ子供が欲しいのかという問いについては、またゆっくり語らねばならないが、私の場合、自分一人のためだけに生きる人生ではなく、血を分けた、守る存在が欲しいからである。

でも一人で子供を産んだ場合、その子供に「なぜ父親がいないのか」と聞かれた時の理由をきちんと説明できるようにしておかなければならない。

それだけではなく、自分一人で子供に貧しい思いをさせることなくお金を稼ぎ続けることができるのか、また子供に寂しい思いをさせることなく親として接する時間を確保することができるのか、その見通しも立てねばならない。

そのためにそれがちゃんと自分の中で見つかるまでは、その選択はしないつもりである。

とりあえず研究者としてキャリアを積みたい、パートナーはいない、いつできるか分からないような私でもできるだったのが、卵子凍結であった。

色々なリスクを考えなければならないので、私は卵子凍結を積極的に人には勧めない。

それでも自分は天は自ら助くるものを助くという言葉を信じて行動し続けたいし、これからもそうするつもりである。


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