例に漏れず

寝相が悪いので、明け方は布団を被っていないことが多い。真夏以外は肌寒くて目が覚めるから、いつも隣には布団をかけてくれるヒデ爺か、きちんと布団を被った愛しい人がいてほしい。そっと潜り込んでくっついて、解凍させていただきたい。


もうずいぶんと昔、大好きな恋人がいるのに好きになりかけた人がいた。
その人とは二人で会ううちに当たり前のように家に上がり込んで深い仲になったけど、その後も付き合ってる人がいるかどうかはお互い聞かなかったし、そもそも昼間に二人で会うことは殆どなかったと思う。

何度目かの夜、明け方に冷えきった私の身体を触って「刺身を置くのに丁度良さそうなくらい冷たい」などと意味のわからないことを言って笑って抱きしめてくれた。


お互いが実家暮らしだったほぼ同い年の恋人より、上京して一人暮らししていた歳上のその人の事を大人だと思っていたくらいには浅はかだった。
でも例えば同じシャンプーの匂いをさせて一緒にコンビニへ行くことや、華奢なアクセサリーをわざと置き忘れて帰るなんてことはその人から教えてもらった。と思う。
次第に、昼間のカフェで待ち合わせして手を繋いでみたり、知らないバンドのライブにも連れて行ってもらったりした。そうやって少しずつ、順序を戻すように仲良くなった。
それでもやっぱり昼間より夜に待ち合わせする方が圧倒的に二人には似合っていたと思う。



ちゃんとしようと思って。
夜、いつも通り家に向かって二人で歩いていたら急にそう言われて足が止まって、車が止まっていないコインパーキングで二人でしゃがんで話をした。

君は付き合ってる人がいるね?
という破壊の言葉。
どれくらい付き合ってる人なの、と。
聞かれたら話すと決めていたから正直に話し始めたけれど、
今までのことを本気だったのか遊びだったのかを問われて何も言えなくなった時、そんなに恋人のことが好きなら僕には壊すことはできないと言われた。そのあとの沈黙は本物の沈黙。
じゃぁあなたに恋人はいないのかと聞いたら、いなかった。だから、ちゃんと責任を取ろうと思ったと。
責任とは。

恋人はいなくとも好きな人がいるのか聞けなかったのは、いないと言われて傷付くことも好きと言われて応える自信もなかったなんてほんとクソどうしようもない人生とはこのこと。

さよならする間際、もしもこの先惹かれる人と出会ったとして、良い関係性を築きたかったら相手と寝ることを急いではいけないと言われた。
今更そんなこと言われてもなぁ。とその時も今思い出しても可笑しくて笑ってしまうよ。



何年も経つうちに好きな人ほど簡単に触れられなくなって、それはあの時の罰のようだとまた笑う。そしてそんな全てをもう一度壊してくれる人が現れたら、大人になった自分はどうするんだろう。


めちゃくちゃどうでも良い話。


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