救世主

夏の特別暑い日。
扇風機を付けても、生温い空気をかき混ぜるだけでちっとも効果がない。
なるべく節約したいから、エアコンは付けない。勿論身体に良くないのは分かっている。
でも、お金がない。バイトとはいえがむしゃらに働いて、家賃も出来る限り抑えてボロアパートに住んでいる。ギャンブルもしないし、何かに課金したりもしないのに、何でただ生きているだけでこんなにもお金が無くなるのか。
親は借金に塗れて消えた。「借金だけはするな」そう重々言われた。そのたった一つの教えを馬鹿正直に守っていて、どんなに金がなくても借金だけはしないようにしている。

バイト先の餓鬼に、「休みの日って何してるんすか」なんて当たり障りない話題を振られた。
「別に何もしていない」
これは嘘でもなんでもなかった。本当に何もしていなかった。
「そんな事あります?寂しいっすね」
ふっと鼻で笑う感じが腹が立った。自分が楽しけりゃ、それでいい。世の中には「色んな人」がいるなんて知らない。知ろうとしない。そんな風に見える。
「……別に、寂しくないけど」
そんな彼を軽蔑するが如く冷たい調子で言ってみる。
「寂しいって言ったっていいんすよ」
こいつは何を一丁前に言ってるんだと思った。
「寂しいと言ったら君は何かしてくれるのか?」
彼は黙って何も言わなかった。どうせそうだろうと思った。

救世主になってくれないなら、どんなに綺麗事を並べ立てても何一つとして響きはしない。
言葉で言うだけなら簡単だ。

我儘か。我儘だろう。でも、それくらいの我儘も言ってはいけないのか。
私を救えなど言っていない。ただ、綺麗事言うならせめて私を救ってからにしてくれと言っているにすぎない。

帰ってきて、室内の黴臭さを、窓を開け放して入れ替えようとしたが、さほど効果はなかった。
帰ってくるまでの間にすっかり生温くなった缶コーヒーを一息に飲み干す。

生きるも死ぬも、そんな事考える余裕は今の自分にはない。
多分、一生。

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