都市計画の教科書的なニューアーク
ニュージャージーと埼玉
こちらに来てから埼玉とはどのようなところか、と聞かれると
必ず「ニュージャージーのようなところだ」と答えていたのですが、
この答えは100%東海岸のアメリカ人に喜ばれます。なぜなんでしょうか。ニュージャージーはいったいどのような心理的位置づけなんだろうといつも疑問に思います。
せっかくニュージャージーにいるのですから、もっとこの州内の都市について理解したいと思うのですが、中部や南部から北部ニュージャージーに行こうとすると必ずマンハッタンを経由しなければ行けません。
そういった交通事情も埼玉に似ています。
ニュージャージー州最大の都市・ニューアークで起きたこと
そんなニュージャージー州最大の都市は空港があるニューアークです。
これまで何回もニューアーク空港を使ってNYに来たことがありましたが、ニューアークには降りたことがありませんでした。
色々ラドガーズ大学の先生から話を聞いたり、実際行ってみると
ニューアークは都市計画の教科書で習うことの縮図のような都市でした。
縮図1:都市の歴史
以下ニューアークの都市の流れを見ると、都市計画の教科書を読んでいるようです。
(1)脱工業化と郊外化による衰退
ニューアークは水運と交通で工業の拠点として栄えたまちですが、
戦後郊外への住民移動からダウンタウンが衰退化します。
(2)ダウンタウン再生の苦労
都市再生のためにアーバンリニューアル(全米で行われた大規模な都市再生)が行われますが、人口減少に歯止めがききません。
1967年にはアフリカ系アメリカ人からの警察への抗議として、
大きな暴動が起きます。(2020年のBLMと背景が類似しています)
ニューアークは治安や観光の面からも、いつも相当悪いイメージで取り上げられるようになります。
えらい言われようだな、と思いましたが、ちなみにこのとき最も評価が高い都市はシアトルでした。
(3)開発の流入とジェントリフィケーション
そしてプルデンシャル・センターの開発(2007)などで投資が流入しますが、今度はホーボーケンやジャージーシティですでに起きていたような
マンハッタンの住宅高騰を受けた住宅開発が進み、
ジェントリフィケーションも懸念されています。
ダウンタウン再生の象徴は、長年放置されていた中心部の建物に
高級スーパー「ホール・フーズ」が開業したことです。
この建物は上記のリンクのように高級住宅も併存しています。
1ベッドルームで$2850(2022年7月現在)とホームページにあるので、
マンハッタンに比べるとずいぶんお得です。
もう一つ教科書的なこととして、治安が悪化したスーパーブロックの公営住宅タワーの爆破・解体も1994年に行われたようです。
(現在は低層のアフォーダブル住宅団地になっています)
縮図2:ウォーカビリティをつくる都市環境
ニューアークの駅周辺は、東と西でずいぶん雰囲気が変わります。
東側はアーバンリニューアルが行われなかった地域で、
もともとポルトガル系移民の多い「アイロンバウンド地域」です。
西側はアーバンリニューアルが数多く行われたダウンタウンです。
アイロンバウンド地域は道も狭く、小規模な店舗が軒を連ねて歩道に直接面しています。街区も小さく、ちょうどいいヒューマンスケールで結果として歩行者量が多く(車も多いですが・・・)ウォーカブルな環境が形成されています。
一方ダウンタウンは車道も歩道も広く、高層ビルが並び、1つの街区も大きいです。1街区=1ビルのような状況は歩いていて気分の良いものではありません。結果的に歩いている人が極端に少ない、ウォーカブルとは言えない環境になっています。
かつ、週末に行ったので歩行者が少ないというのもあるのですが
このことは、例えば平日に使われるオフィスが多く、かつオフィスワーカーの需要に特化した飲食店が立地する一方で住宅が少ないなど
あまり用途のミックスが上手くいっていないということも示しています。
歩いている人がいないと怖いんですよね・・・。駅からダウンタウン中心部までライトレールもありますが、週末は頻度も20分に一回くらいですし
ダウンタウンの地下にある駅があまりにも怖くて(個人的感想ですが)
購入したライトレールチケットは諦めてバスに乗って駅まで戻りました。
ただ、ニューアークに住んでいるラドガーズ大学の先生は住む場所として気に入っているようで、飛行機を降りてすぐに自分の家でくつろげる利便性の高さが良いようです。ウォール街ともPATHという交通機関で直通していますし、マンハッタンの物件価格上昇を受けて住宅開発は今後進んでいくのだろうな、とは思います。