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都市の高級化(ジェントリフィケーション)の境界線

スーパースターシティ・シアトルの拡大

シアトルの滞在もあと少しになりました。

シアトルは人口が中規模の都市の中で唯一「スーパースター・シティ」とされています。ちょっと和製英語っぽく聞こえますが「スーパースター・シティ」とはGyourkoらによる「Superstar cities」という論文で示された概念であり、以下のような都市を指します。

住宅価格の伸び率が住宅建設戸数の伸び率よりも高い地域は、「スーパースター」と呼ばれる

Joseph Gyourko, Christopher Mayer and Todd Sinai "Superstar Cities"
American Economic Journal: Economic Policy, November 2013, Vol. 5, No. 4
(November 2013), pp. 167-199, p.169から引用(筆者訳)

シアトル市は住宅価格の伸び率(1950〜2000)が第3位とされています。
そんなシアトル市ですが、経済成長が続くことで都市圏の人口はこれからも拡大していく予測がされており、広域調整のための行政機関でもあるプージェットサウンド・リージョナルカウンシルでは2050年までにさらに180万人の人口増加を予測しています

このような状況の中で、新しいコンドミニアムの建設地域は拡大していきました。そのことは、新規の高所得者層の流入とジェントリフィケーション(都市の高級化のこと。既存住民の追い出しを伴う)の地域を拡大していきました。
ジェントリフィケーションに関して、話題の中心となっているのが
アフリカ系アメリカ人の地域とされていたセントラル・ディストリクト
といわれるところです。

セントラル・ディストリクトと変化の象徴


ここ数年、かつてはアフリカ系アメリカ人の地域だったセントラル・ディストリクトに多くの新規住民が流入するようになりました。

このニュースによると、1960年代に90%だったアフリカ系アメリカ人の割合は、現在10%まで減少しているとのことで、代わりに白人の住民が増えたとのことです。

大規模なコンドミニアムの開発が進む
(アフリカ系アメリカ人によるアートがファサードにデザインされている)
低所得者向け住宅も含まれた開発。一階にはPCC(スーパー)が入る
新規開発エリアの周辺は以前からの雰囲気を残すが、カフェなども増えてきている

ジェントリフィケーション(高級化)には目に見える象徴があると言われています。つまり、○○が出店したらその場所はジェントリフィケーションが進んでいると言われるものです。
以前は、ジェントリフィケーションの象徴はスターバックスや
ホールフーズ
(高級スーパー)でした。

さて、セントラル・ディストリクトではなんでしょうか?

UWの先生と話していたら、この地域に
PCC(Puget Consumers Co-op)
ができたことに驚いたと言っていました。これは、「ローカル」を意識した、シアトル発の「コミュニティ・マーケット」です。

行ってみたのですが、オーガニックで素敵な商品が並んでおり、なんとホールフーズよりさらに高い!!
(ホールフーズはパーソナルブランド(PB)が多く、PB商品は手頃です)
牛乳1パックが400円ですよ・・・。超高級スーパーですね。
現地の歩行者も白人の中間層、という感じの方がほとんどでした。

また、逆の意味で「教会」の存在もジェントリフィケーションの象徴になります。人口動態が変化することで信者が減り、教会の閉鎖が進むこともジェントリフィケーションの象徴とされるようです。セントラル・ディストリクトでも同様のことが起きているようです。
(シアトルタイムズ 2021年8月8日の記事 Nina Shapiro「Plan to close Catholic churches stirs sadness, anger, resistance」参照)

開発で直接的に追い出されなくても、じわじわと人口流入が進む中で、家賃の上昇だけでなく店舗の高級化などによる必要なサービスへのアクセスの悪化など、ジェントリフィケーションは間接的な「追い出し」を伴って進んでいきます。セントラル・ディストリクトは現在のシアトルのジェントリフィケーションの最前線とも言えますが、高級化の境界線は今後も次の地域に移動していくようです。
すでにそれまであまり立地していなかったところにコンドミニアムが建設され始めている様子が見られています。

リトルサイゴンと呼ばれる地域(手前には店を守るフェンス、奥には新しい集合住宅が見えます)