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朝ドラから見る「戦争のあと」

 今朝の『カムカムエヴリバディ』、時代が10年飛んで、1975年になった。るいの娘、ひなたが10歳になり、夏休みが始まる、という設定である。そこで「夏休みと言えば祭り」、「夏休みと言えばラジオ体操」、「夏休みと言えば花火」と夏の風物詩が語られるのだが、そのときに「夏休みと言えば高校野球」というのが来る。しかし、そこで見せられるのは、試合そのものではなく8月15日正午の黙禱だ。錠一郎、るい、吉右衛門、と皆が黙禱するのを見ていると、この人たちが全員、戦争にまつわる辛い思い出を持っているのだと知って呆然としてしまう。あの時代を生きた人々の頭の中には、一人残らず皆、戦争のことが入っているのだ。

 一方、BSで再放送中の『カーネーション』はようやく戦争が終わったところで、勘助、泰蔵兄ちゃん、勝さんを始め、「好きな人らがみんな」死んでしまう。ヘタレの勘助がおばちゃんの元に無事に帰ってきたと思ったら心を失くしていて、その重大さを理解していなかった糸子がかさぶたを引き剥がすようなことをし、そのためにおばちゃんは「あんたの図太さは、毒や」と言い放つ。つまりおばちゃんもまた心を失くしていくのだ。泰蔵兄ちゃんの死後、八重子さんが涙ながらに「お義母さん、うちに死神を連れてきた言うたんや」と糸子に伝えるのだが、そこで糸子はおばちゃんの悪口を言うのではなく「正気やないんやな」と返す。その後、八重子さんがパーマ機を買い、安岡洋裁店を一人で切り盛りしても、おばちゃんは頑なな心を抱えたまま二階で寝ている。

 そんなある日、奈津がパンパンになっていることを知った糸子は、旅館の借金を知った時のように奈津にまくし立ててしまう。糸子に上からお説教をする気持ちがあるわけではないのだが、それこそ「ひなたの道を歩いていく人」である糸子は、闇に落ちるしか手立てがなかった人に対して「黙って寄り添う」ことができない。それができるのは、幼い頃から奈津が弱いところを見せられる人、そして自身も弱さを抱えた人である安岡のおばちゃんだけなのだ。

 今日は、糸子が決死の思いでおばちゃんのところに「奈津を助けて」と頼みにいく回(第85回)が放送された。おばちゃんは「今のウチに他人を救う余裕なんかあるかいな。アホらし」と言うけれど、数日後、奈津のために立ち上がってくれる。この時、おばちゃんの中で何かがほどけたのだろう。そして奈津は、初めて人に寄り添ってもらえる。奈津の中でも何かが溶ける。いろんな形の闇の世界にとらわれた人も、何かがほどけることで前に進む。

 



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