「朝令暮改は素晴らしい」ということについて

 全国に感染が広がる中、政府はGoToキャンペーンの前倒し実施を「決めたことだから」と押し通そうとしていた。ところが、今日になって「東京発着は対象外」ということを打ち出した。これについては「大阪はどうなのさ」という盛大なツッコミを入れたいところだが、少なくとも「決めたこと」を貫かなかったことだけはよかったと思う。

 ここで、先日、noteに掲載されていた神戸大学の岩田先生の本についての記事を紹介しておきたい。(https://shinsho.kobunsha.com/n/nf7b63d934f28)

 この記事の主旨は、岩田先生が出版した『ぼくが見つけたいじめを克服する方法』に関することで、主に「いじめの構造」についてのインタビューであり、一番大切なことは「日本の社会は基本的にいじめの構造」ということと、「その構造を誰も変えようとしない」ということである。いじめに関しては、私の持論は「いじめる方が100パーセント悪い」、「人をいじめるような人間は滅びていい」なのだが、それはここでは主張しない。言いたいことは、「変えることの大切さ」ということである。

 岩田先生は、このインタビューの中で、イギリスが集団免疫を獲得しようとしていたことを挙げる。これはスウェーデンで実施されており、思いもかけない数の死者が出て、提案者ですら「こんなに死者が出るとは思わなかった」と言っている戦略なのだが、これについて、イギリス国内では異論が出た。これに対し、ジョンソン首相はあっさり対策を変えた。これを岩田先生は次のように評価している。

科学的であるっていうのは、首尾一貫していることではなくて、間違っていることが分かったらそれを認める。そしてちゃんと議論をして、反対意見も出て、それについて、また反論するか同意するかして、で、やり方を変えるときは変える。これが、基本的に論理的な考え方だし、コミュニケーションの仕方なんです。

 つまり、先の見えないケースでは、朝令暮改バンザイ、なのである。これを読んで思い出したのが、朝日新聞「折々のことば」で鷲田清一氏が紹介している平田オリザ氏の言葉である。その言葉とは、「ディベートは、話す前と後で考えが変わった方が負け。ダイアローグは、話す前と後で考えが変わっていなければ意味がない」というものだ(『折々のことば』1027)。対話を重ねながら現状を鑑みて、おかしいと思ったらすぐに変える。これこそが対話の意味である。「決めたから」と貫くことは美徳でもなんでもなく、ただの「見極めの効かない人」なのだ。岩田先生は、このような同調圧力に屈することは「滅びの道」であるとまで言う。

 三月に消費税減税の声が上がった時に、二階幹事長が「「消費税というものをつくった時にどれほどの苦労があったか」「仮に下げた場合に、いつ元に戻すのか、責任は誰が負うのか」と発言したそうだ。岩田氏によれば、このような「みんなで頑張ってつくったものだから変えられない」という論理は、「極めて間違っている」ものであり、「一番やばいパターン」だそうだ。

間違っていたら、撤回して、直すっていうことは、いちばん初歩的な、小学生ぐらいで覚えるべきことです。それを大人ができない。日本は本当に、大人が子供です。それはやっぱり、ディベートとかディスカッションみたいな訓練を全然されていないからだと思います。

 これに対して私は全面的に賛成である。その場の流れを読み、それに同調してはみ出さずにいるだけでは、全体がズレていた時にどうしようもない(ここで何度でも主張しておきたいのが、『ワンダーウォール』における「全員一致」の法則だ。話し合いを重ね、細かく変更することで全員の着地点を見つける)。この後の部分で岩田先生は、あるテレビ番組を例にとり、自分が変わることをせず、主張を繰り返すだけで、それが議論だと勘違いする、という傾向についても語っているが、これこそまさに平田オリザ氏のいう「考えが変わっていなければ意味がない」ではなかろうか。

 そんなわけで、少なくとも今回のGo To キャンペーンにおいて、東京を対象外にする、という見直しがなされたことだけはよかったと思っている。「決めたこと」で突っ走った戦争の悲劇を繰り返さないでほしいと思う。




 







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