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石川県のおぜんざい

 きのう日帰り弾丸ツアーを敢行し、白山比咩神社にお参りしてきました。そのあと、駐車場の前にあった「善与門」というお店で「いなり蕎麦」を食べ、さらには「おぜんざい」もペロリと平らげたのですが、その時に、井上靖の『北の海』で主人公の洪作くんが、浪人中の身にもかかわらず、柔道をするために四高(金沢大学の前身)にやってきて、最初に食べ物屋に入り、おぜんざいがどんぶりで出てくるのに驚く、というシーンがあった、と思い出しました。洪作くんはこのあと、勉強もせず四高で柔道に明け暮れることになります。その部分が読みたくて手元の文庫本を探したところ、見つかりました!洪作くんが、柔道部の鳶永太郎と駅前のおうどん屋さんに入る場面です。

 五十年配の内儀さんが出て来ると、
「俺はぜんざい、それからいなりだ」
 鳶は言った。内儀さんの眼が洪作の方に注がれたので、
「僕は何にしようかな」
 洪作が言うと、
「俺と同じものにした方がいい。さきにぜんざいを食って、次にいなりうどんを食うんだ。この食い方以上のものはない」
 鳶は言った。洪作は言われるままに、鳶と同じものを注文した。(中略)
 そこへぜんざいが運ばれて来た。どんぶりにはいったぜんざいというものは、洪作にとっては初めてだった。大きな餅のきれが二つはいっている。
 鳶永太郎はぺろりとそれを平らげて、
「ほんとうは、ぜんざいは二つ食うものだ」
 と言った。
「じゃ、食べたらどうですか。僕は一つでいいですが」
 洪作は言った。
「お前が一つしか食わんのに、俺が二つ食うのは悪いな」
 鳶はそんなことを言ったが、
「ぜんざい、もう一つ」
 と、大きな声で奥に叫んだ。鳶は二杯目のぜんざいもあっという間に平らげ、次はうどんにかかった。そしてこれも平らげてしまうと、
「これで、おかげでひと心地がついたよ」
 と言った。

井上靖『北の海』(新潮文庫)上巻、pp.369-372

 ざんねーん!と思ったのは、昨日は「いなり蕎麦」→「おぜんざい」の順番で食べてしまい、鳶くんオススメの食べ方とは逆だった、ということと、いなり蕎麦といなりうどんがあったものの、おうどんは眠くなりそう、と「いなり蕎麦」にした、ということでした。そしてさらに、石川県はお蕎麦文化かおうどん文化かどちらだろう、などと考えもしたのでした。

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