見出し画像

0が1になるとき

私が応援しているとあるサッカークラブが、先日行われたリーグ戦でリーグ9試合ぶりの勝利を決めた。

昨年念願果たしたリーグ昇格。
「J2昇格おめでとう!」の文言とともに喜びを分かちあった余韻もほどほどに、今年のチームの戦績はなかなか奮わなかった。

データにもある通り、このチームは今期引き分けが多い。

先制点がなかなか取れず、早々に失点したのちボールを追いかけるだけの展開。その中でギリギリどうにか同点弾を押し込み、勝ち点を分けて終了する。
もしくは、先制したのち後半、「このまま勝てるかもしれない」とチームへの期待が高まった中での呆気ない失点。
1−1。飽きるほど見たスコアだ。

ついにはリーグ降格圏にまで落ち、長年勤め続けた監督も解任。
新監督就任直後も勝てず、引き分け、負けを連ねるばかり。

そんなチームが、ようやく勝利を手にしたのだ。
2ヶ月もの間つかめなかった勝点3を、ようやく。

戦況を追っていくと、最初に得点が動いたのは相手のゴールだった。
東北の地からはるばる訪れたらしいアウェイサポーターの声援が画面越しからうすら聞こえる。
ああ、先制されてしまった。今日もいつもの感じかなと思った。

後半、点を取り返した。華麗なヘディングが決まった。
同点弾が打ち込まれたのは80分を回ったあたりだったと思う。
相手のペースに飲まれながらも、なんとか取り返した1点。
後半の後半という時間帯も相まって、こちらのサポーターの声援が一層増したのを画面越しに感じた。

私が目を丸くしたのはここからだ。
1点を取り返したチームは、見るからに勢い付いていた。
リスタートが一段と早くなった。ボールの動きが変わった。
まるで違う試合を見ているような感覚だった。
まるでもう1点決めそうな感覚になった。

そして後半アディショナルタイムに突入。声援は最高潮だった。
サポーターは腕を左右に交互伸ばし、お決まりのチャントを歌い続ける。まさにここがホームたらしめる光景であった。

アディショナルタイム4分。決めたのはベテランの背番号5番。途中投入された彼が、右サイドから放たれたフリーキックを確実に頭で捉えた。

燃えるような歓声。後半終了間際というタイミングも相まって、スタジアムのボルテージは最高潮だった。
歓喜に顔をほころばせる選手たち。ゴール裏からピッチに喜びの声を叫ぶサポーター。監督の表情はどうだったのだろうか。

そして甲高いホイッスルが響き、試合は2−1で勝利を収めた。9試合ぶりの勝利。待ちわびた勝利。


0が1になる瞬間から、途端に展開が変わるのがフットボールである。
さまざまな試合を見てて不思議に思うのは、どうも点を決めた瞬間からはペースが上がり出すのか、ということである。

実は今回のような展開、フットボールの世界では当たり前である。
得点を上げたチームは、その瞬間からプレーに勢いがつく。私たちをワクワクさせてくれる、魂のフットボールが見れるのだ。


0→1になる瞬間。
選手たちは何を思うだろう。
自信がついているのかもしれない。喜びによるアドレナリンで勢いづいたのかもしれない。サポーターやベンチからかかる一際大きな感性に背中が押されるのかもしれない。あるいは、この試合で何も残すことができないかもしれない、というプレッシャーから解放されているのかもしれない。

私たちサポーターはそんな彼らを見て、さらに1点、もう1点と思いを乗せてチャントを歌い続ける。


そうして、ホイッスルが鳴り響く時、両手をあげて喜べる瞬間を待ちわびているのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?