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魔法使いの家にホームステイする⑥ (最終回)


魔法使いの家を後にして、お二人ともお別れしたはずなのですが、

なぜだか、こう、ぽっかりと穴が開くような虚しさみたいなものが全くないことに驚きました。


あ、つながるってこういうことなんだな

と初めて感じました。


一緒にいてもいなくても、
もう、つながっちゃってるんです。

特に妖精さんとは、なんというか同じ種族に出会った悦びのようなものがあり、
勝手に一体化しているような気分なのです。

だから寂しさを感じませんでした。

ただただ胸の芯からあたたかく、
「ほんっとうにすごかった!拝ぼーろだった!」
と感心しつつ感謝がびしゃびしゃと溢れつつ、
車を走らせておりました。


高速道路の深夜割引を狙っていたため、
遅い時間のせいか周りには不安になるほど車が走っていません。

いざ、有料道路に入り、側道のない片道一車線の道を進んでいたら、すぐさまアイツがやってきたのです。

そう、尿意です。


もー、だから遠出するときはトイレに行っておきなさいって言ったでしょ!

と何度も耳にしたセリフが脳裏をよぎります。
ごめんなさい。


次のPAかSAで止まってもらおうと運転している姉を見ると、なんだか様子がおかしい。


「高速だっていうの忘れてたわ。あはっ。周りに車いないからめっちゃのんびり走ってたー・・・え?ん?あれ?いやいやいや、ねえ。あ、やば。これやばいわ。やばいやばい!」

ちょっと慌てすぎてて何を言いたいのかうまく聞き取れない。
私はトイレに行きたい。
減速していく車。
私はトイレに行きたい。
ふいに二車線に広がる道。
私はトイレに行きたい。
すいーっと雲の上を滑るように路肩に停まる車。

私はトイレに行きたい。


あわあわしている姉が
「ガソリン。ガソリンが!・・・もうだめだー」


この時、出発して以来初めてガソリンのメーターに目が行きました。

わーお。からっぽ。

普段からガソリンはメーターが半分をきったら入れるようにしていたのに、今回はまったく気にも留めていなかったことにびっくりしました。

「ごめん!お姉ちゃんガソリン確認してなかった!」
「いや、私も全っ然見てなかった!」

あわあわしている姉を横目にふと見ると、ちょうど真横に非常電話がありました。

SOS

明るく光る緑の電気に吸い寄せられるように、非常電話をかけに行きました。

何の選択肢もなく、一択です。


内心はちょっとワクワクしてたかもしれません。

高速道路で路肩に停まるのも初めてだったし、
高速道路で車から出るのも初めてだったし、
非常電話を使う日が来るとは思ってもいなかったし、なにしろ、ガス欠で車が止まるなんて!

ほんとに、すいーん、ぷすんと止まったのがなんだかおもしろく感じてしまいました。

でもここで笑ってしまうと、あわあわしている姉に怒られるのでちょっと神妙な顔で車を降りたわけです。

これまた電話で優しい対応を受け、給油の手配をしてもらいました。
アドレナリンが出ていたのか、外でずっと電話でやりとりをしている私を心配して姉が防寒具を持ってきてくれるまで寒いことに気がつきませんでした。
しかし、寒さは着実にそこにあったようで、気づいた時には尿意のメーターがMAXになっておりました。


ひとまず給油を待つ間、少しでも暖をとるために車内で待機。

私はトイレに行きたい。

薄暗い路肩のガードレールの奥に視線が吸い寄せられる。

いやいや中年女性として、公の場でのお尻ペロンは是非とも避けておきたい。

尿意と倫理が熾烈な争いを繰り広げます。


すると姉も
「私はトイレに行きたい」
と言うではありませんか。

その上、
「ほら、いまならさ。いけると思うの。」
と真剣に訴えてくる。

「いやいやいやいや。
仮に用を足してしまったとしてですよ。
まさに最中!っていうときにJAFさんが来ても
止められないでしょ。途中では。」

「いや、でも今なら・・・」

「待って待って。意外とJAFさん早いから。
来るって言った予定より大体早く来てくれるから。」

謎の攻防戦を繰り広げつつ、車内の熱気は少し上がったような気さえしてきます。

「とりあえず、雪椿、食べよう」
「あ、そうしよう」

と、まるで薬でも服するかの如く、マスターあんこに頂いた有平糖を口にします。
なんだか落ち着いてきたら、やっぱり笑えてきてしまって、
「とりあえず、旅の写真を夫妻にシェアしよう」
と写真を送りまくります。

心配してくださっているマスターあんこからは「心配で目に入りません 笑」
と返信が。

早寝早起きのお二人にご迷惑がかからないようにと、家を出たはずなのに、心配させて結果眠れなくさせてしまうという・・・


天使のように優しいJAFのお兄さんによって無事に給油が終わりましたが、優しいお兄さんは、この先の給油ポイントまで今の量だともたないかもしれないこと、この少し先のICで降りればすぐ近くに24時間のガソリンスタンドがあることなどを丁寧に教えてくれました。

お兄さんの優しさに感謝しつつ、再び車を走らせます。

そして、

私たちはトイレに行きたい。


限界を越えようとしている姉は、IC手前で急に脇にある管理棟のような建物に向かって行こうとします。

「違うよ。あれはトイレじゃないよ。」

なんとか姉を諭してICを出ました。

目の前に明るく輝くコンビニが。
でも右側にある。

ナビの表示によるとガソリンスタンドまではあと2分。

姉は一分の迷いもなく、ものすごい正確さで中央分離帯の隙間を見つけ、真っ直ぐにコンビニに向かってハンドルを切りました。

「・・・お姉ちゃん、もう限界だから!」


ついていくよ。
だって私もトイレ行きたいから。
結構前から。


入ったコンビニのトイレは女性用・男性用と扉に書かれていました。
姉は迷わずに女性用のトイレに駆け込みます。
しかし私も限界をかなり越えたところにいます。




便器は人を選ばず。



そう唱えて男性用をお借りしました。


その後は無事に給油を終え、交代しながら帰りました。

姉の運転中、仮眠をとらせてもらい、
じゃあ交代しよう
と運転席に座ると、ガソリンのメーターが残りわずか。

今いる場所から、しばらくはSAがない。

とたんに蘇るSOSの緑の光。

でも、もうかなり地元近くまで来ているはず。
やはりここは、早めに下道に降りるしかない。
またもやぷすんとなるならせめて下道で!
出来ればトイレの近くで!

交代で眠りにつく姉を乗せ、次なるガソリンスタンドを目指し夜の闇を走り抜けました。




仮眠をとりつつだったので、家に着いたのはお昼前でした。

家に着き、玄関を閉める。




ああ、すごかった。
魔法のような1泊3日の旅。

本物の魔法は、効果がずっと続くようです。

魔法使いの家に到着したときから、
ほんわりとあたたかいものが
お腹の中に灯り続けています。


散策途中で見つけた冬咲の桜も、
むかし何かの魔法にかかっちゃったのかもしれません。


今回のホームステイで私は

つながるの魔法

を習得しました。


ひょっとしたら、寝てる間にマスターあんこと妖精さんが枕元に来てこっそり授けてくださったのかもしれません。


つながるって、なんか、
自分だけど、自分じゃなくて、
それぞれが別々に違うことをしても共有できて、
だからこそ、自分にはできないことがあってもよくて、嬉しいことも失敗しちゃったぜっていうことも、空にぽんと投げてみたら、どこかで誰かの星になってたりして、

なんか、おっきいです。




相手をおもうこと

そのために動くこと

それを形にしていくこと

この旅を思い返すと、目の前におじいちゃんとおばあちゃんがみちのために作った森がぶわぁあっと広がったような気がして、


あー。またしても、マスターあんこは・・・


と、じんわりとにんまりと旅を終えたのでした。







なんてね。

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