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ウィーアーリトルゾンビーズの感想(ネタバレあり)

一度目はTOHOシネマズ二条で鑑賞。そこそこ入っていたと思う。

二回目はT-JOY京都、やっぱT-JOYは明らかに音が良くて没入感がアップした。

ほとんど前情報知なしで行ったけど、とても好きな映画だった。
語り口も映像手法もとても新しいアイデアが沢山あって枠に収まらない感じなのだけど、それが主人公であるヒカリの若々しい世界の見え方と一致していて話との親和性がめちゃくちゃ高い。おまけに登場人物全員が凄まじくキャラが立っていて普通に素晴らしい完成度の作品だと思う。

あと境遇は全く違うし、とてもフィクション的な存在なのに、こないだ感想を書いたアメリカン・アニマルズの4人と根っこの部分で近いモノがある気がした。自分の存在を肯定するまでの物語。

13歳から観た世界

前半の彼らの境遇の説明からして本当に色々と奇抜な演出で語ってくる。ただこの話はあくまで13歳目線で語られる映画なので子供から見た世界の切り取り方としっかりリンクしてて語り口として効果的に感じる。

まずタイトルが出るオープニングのアニメから愛らしくて最高。二回目に観るとここで映画のポイントがすでに紹介されているのが分かって、結構泣いてしまった。
中盤のライブシーンで現実が飛躍していくのが最高。単純に曲も良かった。ワンカットでiPhoneで撮影しているらしいけど、お金を使わずアイデアだけで何もない彼らが勝負するやり方としても説得力があると思った。

素晴らしいキャスティング力

主人公であるヒカリ。演じている二宮慶多君の役の繋がりで言うと、「そして、父になる」のケイタがかなり地続きのキャラクターだと思う。
もし福山雅治がちゃんとした父になれずあのままあそこの家で育って両親とも死んだらどうなるか、みたいな設定になっている。
親側から「繋がり」を提示出来なかったせいで「愛されている」という感覚がなく、両親に与えてもらったゲームをやる事で彼側から「繋がり」の様なものを感じとる事しか出来ない。
他の3人もそうだけどそういう状況に傷ついてない訳じゃなくて、というか傷ついてるからこそ物事を俯瞰的に見る事で心を守ってる様にも感じる。デッドプールとかに近い人生観だと思う。

イクコを演じた中島セナさんはとにかく存在感が凄まじくて、今後日本映画の大物監督から引っ張りだこになりそう。
早熟な魅力が彼女自身の意志と関係なく肉親含め周りの男を狂わせていく、というか男側が勝手に狂っていく。他の三人からも母親の象徴のヴィーナスみたいな扱いを受けたりするんだけど、そういう男が押し付けてくる想いに対して「いや、知らねえし、私は私だし」と全く動じない姿がひたすらかっこいい。

イシ役の水野哲志さんはマスコット的な魅力でひたすら可愛い、なんでドラム出来るのか分からないけど、どうでもよくなる位可愛い。
佇まいだけで絵になるタケムラ役の奥村門土さん。目付きの鋭さで大人びた印象がするんだけど声変わりしたての声に可愛らしさもあって、なんていうか今しか見れない姿を切り取ってる感じが良かった。

この4人が全然ベタベタしないというか、どこまでもドライなのが素敵。本来めちゃくちゃ悲惨な話なので突き放した撮り方をすれば、観てるこちらもかなりしんどい気持ちになりそうなのに、彼等の主観で撮る事で「別に哀れんでもらわなくて結構です」と宣言してるみたいで本当ロックな目線な映画。

脇を固める大人キャストも本当豪華。豪華さの基準にもよるけど普段映画ばっかり観てる人程ニヤリとしてしまうチョイスばかりじゃなかろうか。4人の両親の選ばれ方も完璧、確かにその親ならこの子だ!というのぴったりハマる。特にイクコの両親とか途中まで全く想像できてなかったけど菊地凛子と永瀬正敏が出てきた瞬間に笑った。それなら全然ありえる凄まじい説得力。

キラーフレーズてんこ盛り

言葉選びもものすごく印象的なものばかりでキラーフレーズばかり。特に好きなのはモノクロから色を取り戻した大自然の描写の所で言われる「自然、画素高けぇ!」。あそこからラストまでの解放感が素晴らしいだけに、彼らがどんな言葉で表現するのかと思ったら予想の斜め上をいかれた感じ。笑っちゃうけど本当にその通りだ。

ラストに「絶望だっさ」という彼等からしか出ない言葉で、世の中の理不尽を否定する様に言い放つシーンは、最早神との対話になっててめちゃくちゃ熱い。ここでもう一度ヒカリが悲惨だと思っていた自分の人生の中の、文字通り小さな「光」を拾い集めていくシーンで泣かされる。

映画は終わるけど私たちの人生は終わらない!というラストの俯瞰ショットの美しさ。決して彼等を映画の中だけの記号的な存在として終わらせないし、映画を観てるあなた達の話でもあるんだよ、という視線で語ってくる様で凄まじく感動する。

情報量演出てんこ盛りなのがそのまま作品の魅力になっていて、なのに作品のメッセージはシンプルなまでに生きることの肯定。
大林宣彦作品を引き合いに出す人が多いのも納得で、長久監督今後も凄い作品沢山発表してくれそうで本当楽しみ。

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