猫とショローと 2021年 第1話
2021年 ヤムヤム
浦那智勝浦町浦神生まれ
わーは、ここ浦神で生まれたんやよ。
家族はかぁやんとにぃやん、ほんでもここに入ってからは会うてない。
かぁやん、にぃやん、どないしてるかな?
と思って、1度外に出て探したんやけど、どこにも見つからんかった。きっと、そういう時期が来てたってことや。ほやから、そう決めてからはもう外に出んと過ごしとるんよ。
ファーストコンタクト
どうやって、ここに入ったかって?
どうやったかなぁ……。たしか、夏が終わって、夜が長うなって、すこーしずつ寒うなってきたころ。
ある日、路地を歩いていたら、たまたま石垣の隙間からこの家の様子が見えたんよ。
ここはまだ入ったことなかったなぁ。
手前に野菜畑があって、その先に大きな納屋があった。
左手には白いしっくい壁の蔵がスッと建っている。
その奥にも建物があって、そこからなにやらほわーんとした猫の氣配が漂っていたんよ。それからわーは、石垣を飛び越え、野菜畑をツンツンと横切り、家の北側に入り込んだ。北門を越え、プロパンガスが並んでいる横を通り抜けると、すぐ右に金網の小屋があった。
その中に、ひゅっと大柄な茶白の猫が降って湧いた(ように見えた)。
うわっ! なんやのん?
ちぃーと、ブルったわ。
よく見ると、その金網は家の中とつながっていたんや。
ふーん、運動場みたいなもんやな。
中の猫が、わーに氣づいた。
どっしりとしたからだの右腰にポツンと白い点がある。
このおっちゃん、なんやらのほほぉーんとしとる。
「おっちゃん、こんちは、何しとるん?」
「君、だれ?」
「わー? わーはわーやよ」
「わーって名前? ここに来たの初めてだよね? どこから来たの?」
「塩竃神社の先を、海のほうに行ったとこの浦神漁協の方から来たんよ」「そんな詳しい説明聞いても分からないな。要するに地元の子か、そっか、そうだよね。そうやって外を歩いているんだもんね」
おばちゃん登場
いつの間にかにすぐ近くに、ニンゲンのおばちゃんがいて、わーを見てニカッと笑って言った。
『君はどこかの家の猫かな? 遊びに来ただけかな? 昨日大声で鳴いていたのは君かな?』
こんなふうに面と向かって人語で話しかけられたのは初めてやった。
おばちゃんは相変わらずニッカニッカしとる、わーは固まったままやった。
(ねぇねえ、おっちゃん、このおばちゃん、なんてゆうとるん?)
横目でおっちゃんに助けを求めたんやけど、おっちゃんはムゲーッムゲゲーと、コンクリの地面を転がっとるだけで、知らん顔や。
(おっちゃん、おっちゃんってば、このおばちゃん、なんてゆうとるの?)
けど、おっちゃんの答えを聴く前に、わーのからだが勝手に動いた。
次の瞬間、わーはすぐそばの石垣を飛び越えとったんよ。
はぁ~、びっくりした~。
着地した路地で息を整えながら、耳を澄ませていると、さっきのおばちゃんの独り言が聞こえてきた。
『あーぁ、写真撮ろうと思ったのにいなくなっちゃった。さすがに子猫は身軽だわ~。また明日来るかな? こりゃ、茶白クン、聞こえてる? 怖いことしないから、明日も遊びにおいでよ~』
言ってる内容は分からんかったけど、おばちゃんから出る空氣は全然とがっていなかった。
(つづく)
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