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「死者は二度死ぬ」 リメンバーミー評

桜も散り、初夏の日差しがまぶしいこの頃。春服とはいつ着るものなのか。着始めた時期には寒さをカバーできず、日差しが強いと着ていても邪魔になる。春服とは商業的PRによってのみ成り立つ。富裕層向けの贅沢品である。今後、春服を買うことは決してないだろう。

ディズニーピクサーの新作が上映中だ。予告編やCMは見たが、映画館まで行く気が起きなかった。モアナもスルーしたが、ディズニー映画で白人以外の主人公を見るとなぜかわくわくしない。これも戦後自虐史観と言うのだろうか。三島由紀夫が死者の世界で嘆いている顔が浮かぶ。

死者の世界。今回のリメンバーミーはそれを題材としている。映画館で1800円の料金を払ってまで旬な状態で見る必要はないと思っていた。ニートだし。お金もあまりないし。だが、SNSを開くとリメンバーミーに関する絶賛コメントが並び、その中にはnoteを運営するピースオブケイクス代表の加藤貞顕さんの声もあった。

コンテンツを扱う人が大絶賛しているという事実。同時に徒歩圏内のバルト9は平日の夕方割りで大人1300円で鑑賞できるという新事実。天気もよかったので観に行ってきた。


死者は二度死ぬ

HUNTER×HUNTERの作者である富樫先生はルールメイクの天才である。幽遊白書の「禁句(タブー)の力」では物理バトルなしでの心理戦を展開し、HUNTER×HUNTERの「グリードアイランド編」では複雑なゲームルールを活用した物理バトルを巧みに展開した。

ディズニーピクサーも同様にルールメイクの天才集団と言える。劇中で主人公のミゲルは死者の世界に迷い込むことになる、そこで登場する死者の世界のルールがおもしろい。
※ここからはネタバレに近い内容も含んでますのでご注意ください


リメンバーミーでの死者の世界のルール

ルール1:現世に写真が飾ってあれば、年に一度の死者の日に現世に行くことができる(現世の人間から死者の姿は見えない)
ルール2:現世で死者を記憶する人が居なくなると、死者の世界で死ぬ(姿が消える)

この2つを巧みに使うことによって、リメンバーミーは感動の物語に仕上がっている。現世で存在を忘れると、死者の世界でも死ぬ。死者は二度死ぬ。ルール1で序盤は展開するのだが、ルール2が感動を増幅させるポイントである。

死者の世界と生者の世界を行き来する感動の物語といえば、「ゴースト/ニューヨークの幻」が真っ先に頭に浮かぶ。

「ゴースト」では愛する恋人と喧嘩をした矢先に、彼氏(パトリック・スウェイジ)が暴漢に襲われて死んでしまう。死者の世界から現世の恋人(デミムーア)に対して自分を殺した相手を伝えるとともに、伝えられなかった最後の愛のメッセージを伝えるというラブストーリーである。
リメンバーミーもゴースト同様に愛する家族と喧嘩した主人公が死者の世界に迷い込むのだが、ここからの流れが多層的に展開されるところがディズニーピクサーの凄みである。


生とは何か?死とは何か?

ディズニーピクサーは本作を通して、大切な人を忘れないでいて欲しいという強いメッセージを大衆に届けるとともに、生涯感動を生み出し続けた「ウォルト・ディズニー」の意思を引き継いでいるというメッセージも発信している。

また、本作では誰にも愛されないで家族に写真を飾ってもらえないで現世に帰れない男(ルール1の象徴)と記憶から消し去られて死者の世界から消える男(ルール2の象徴)が出てくる。これは死者の世界の話ではあるが人ごとではない。

なぜなら、私たちは誰しも死者の世界に行く運命なのだから。