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本の感想『トム・アンデルセン会話哲学の軌跡』

今回は、
『トム・アンデルセン会話哲学の軌跡』著・訳 矢原隆行 著 トム・アンデルセン
の感想を書いていきます。

まずはざーっと目を通してみて、この本、オープンダイアローグ初心者の読む、三冊目に選ぶもんじゃないなと、ちょっと後悔。
しかし、私のなかで、「リフレクティング」というのが、どうしてもうまくできない、理解できていない、厄介なものとなっているため、それについて深く語ってくれているらしいこの本に力を借りたいと。
背伸びして、読みました。

ある程度、学んでないと、興味をもってのめりこんで読めないような箇所については、「理解が追いつく日がきたら、また!」という気持ちで通り過ぎつつ。

面白いなと思ったのは、著述と訳とをしていらしゃる矢原さんの文章が読む層向け相応に難しくて、トム・アンデルセンさんの言葉をそのまま訳されたところは哲学的だけれどわかりやすい、というかすっと心に入ってくるような文章だったこと。

そして、矢原さんの熱意というか、トム・アンデルセンさんを学ぶ姿勢の真摯さが、すごく伝わってくるような本でした。
私のようなものが、感想を書いてもいいのかな。くらい。

私にとって、心が動いた部分を拾い上げて書くと、

アンデルセンさんは、自身の臨床実践における変化のすべてが「居心地の悪さ」から生じたものであると述べていて、その「居心地の悪さ」とは、

p84
「不快であるという感覚は、何事かが倫理的、または、美的、あるいは、その双方の基準と不調和となっているときに生じると思われる」

と言っていて、彼にとっての倫理というものは、どんなか、それらしいものを書き出すと、

p113
「存在論の次元に倫理の次元が先立っている」
「自らを表現することを通して、人は他者や自分自身に情報を伝えるのみならず、実際、その瞬間において自分自身を形づくり、おそらく、次の瞬間にはいくぶんか異なる自分自身を形づくっていく。聞き手として、私は他者の自己形成にた立ち合うのである。このとき、私にはしばしば、自分が神聖な場にいるよいうように感じられる」

P114
アンデルセンが提示するひとつの倫理的なあり方は、「協働を開始する前に、いかにわれわれが協働し得るのかを他者と話し合う」

彼の三つの構え

(1)僕は、話したがっている人すべてと話したい。けれど、それよりもずっと大切なのは、話したがっていない人とは話さないことだ。
(2)僕は話したがっている人の話したいことについて話したい。けれど、それよりもっとずっと大切なのは、彼らが話したくないことについては話さないことだ。
(3)僕は、他者が話すにまかせるのを好む。だから、僕は彼ら自身が好むことばのうちで形作られる。

p115
「アンデルセンがなすべきでないと考えていた最も重要なこととは、つねに他者を辱めないこと。実にシンプルなことだ」


書き出してみたなかで、一番心に残ったのは、他者の自己形成に立ち会うのに「神聖な場にいるように感じられる」くらいだったということ。
これは、他者を(自分のやり方で)なんとかしてあげたい、という考えの対極のような気がして。
たんに相手を尊ぶというような簡単な言葉では、表現しきれない境地なのだろうなと。

彼の姿勢は、真似できるものではないけれど、リフレクティングを行うさい、忘れないようにしたいです。

他にもこれはとういうのが、

p136~137
「変化は外からではなく、内から生じる、僕らはたぶん気づかぬうちに、変化は外からくると信じてしまっていた。(中略)つまり、個人であれ、家族であれ、組織であれ、生きているシステムというものは、内側からのみ、自身の理解と強さによってのみ変化することができる。多くの人は、助言を介してにせよ、指令、禁止、脅しや強制を介してにせよ、変化は外から来ると信じている。僕らはもうそんなことを信じていない」

私はこの文章の、自身の理解と強さによってのみ変化することができる、いう部分が好きで。
アンデルセンさんは、クライアントとかかわって、その人たちがよい変化に向かったとき、彼ら自身の理解と強さがそうさせたのだと、感じていらっしゃたのかなと。
とくに、この「強さ」という言葉に、救われます。

クライアントの中に、またはあらゆる生きたシステムのなかに、変化が起こるなら、それ自身の「理解と強さ」がそうさせる。
そんなふうに思ってくれて、ありがとう。
私も、常にそう考えるように、努力したいです。


もちろん、心に残っているのはほかにもあるのですが、きりがないし、私なんかでうまく書けるか自信がないのでこのくらいで。

この本を読んで、トム・アンデルセンさんの大切にしていた在り方を、尊んで、これからリフレクティングをしていけたらいいなって思いました。
一朝一夕には、どうしょうもないですが。
これからまた、勉強と経験を積んでいって、改めて読みたい本です。

次に感想を書く本は、『オープンダイアローグとは何か』著、訳、斎藤環です。はじめのほうだけ読んだけど、この方の文章は、非常に読みやすい。引き込まれる。まっ先に読んでおけばよかった。

ながながお付き合い、ありがとうございました。
もし興味がありましたら、ぜひまた、遊びにいらしてください。

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