中央線三鷹立川間の複々線化は可能か

開業前加算運賃制度を年間旅客収入1兆円超の企業(JR本州三社)にも適用できるよう制度が変更されることになっている。そうなれば中央線の三鷹立川間の複々線化もできるのではないかとされているが、本当にそうだろうか。仮に新制度によってJRの金利負担が軽減されて財務の問題が緩和されたとしても、そもそもこれから輸送力を増強して乗客が増えるのかとか、所要時間短縮による経済効果をJRが取り込むことができるのかといった経済的な問題がある。

それに加えて、現状を所与として単に三鷹立川間を複々線化しても効果が乏しいというのもある。中央線の中野三鷹間が複々線化された際、快速のオレンジ色の電車が結局各駅に停車することになった。これは中野駅での乗り換えがあまりにも不便なためである。中野駅には黄色い電車の車庫があるうえ東西線も乗り入れてくるので配線が複雑で、新宿方面へは三鷹発の電車は5番線発、中野折り返しの電車は2番線発だし、三鷹方面へは新宿発の電車は1番線発、東西線からの直通列車は3番線発とまさにカオスである。高円寺、阿佐ヶ谷、西荻窪の乗客がオレンジ色の電車の停車を求めたとしても、一概に地域エゴとは言い切れない。

この状況で三鷹立川間を複々線化して、黄色い電車を立川まで延伸し、オレンジ色の電車を現在線の地下に建設される急行線経由にしたらどうなるだろう。国分寺駅ではホーム対面で緩急接続できるので、国立駅からの乗車であればさほど不便ではないが、武蔵境、東小金井、武蔵小金井の各駅からの乗車の場合、三鷹駅での乗り換えも中野駅での乗り換えもホーム対面でできずに不便なので、オレンジ色の電車が通過することに反対されるのではないだろうか。かといって地下急行線に駅を設置するとなると、ただでさえ建設費用の高い地下線なのに駅設置費用までかかってしまう。地下急行線に駅を設置して停車列車を設定したら、現在の中野三鷹間と同様に特急や特別快速のスジが寝てしまうので所要時間短縮効果が限定的である。また、オレンジ色の電車から黄色い電車への転移が進まなければオレンジ色の電車の混雑は緩和されない一方で黄色い電車は空いているので、複々線化によって生じた輸送力を十分に活用できない。このまま複々線化しても中野三鷹間を複々線化したときと同じ問題が起きる。

そこで現実的にオレンジ色の電車を三鷹立川間で現在の緩行線と地下の急行線とに振り分ける場合、今度は列車本数を増やすことができない。特急と特別快速の僅かな所要時間短縮のために巨額の費用を投じて地下線を建設することに意味があるのだろうか。設備投資をするならそれに見合った経済効果が得られなければ収益増に結びつかない。受益者に広く負担を求めるとしても、そもそもの受益がなければ負担のしようがない。

バブル期には京葉線東京駅から三鷹駅まで地下急行線を建設するという構想があり、もし実現すれば三鷹立川間の地下急行線は東京駅から三鷹までの地下急行線とつながり、東京駅から立川までの地下急行線となるので、オレンジ色の電車の輸送力が飛躍的に増大するし特急も含めて所要時間が大幅に短縮されるが、これは三鷹立川間の地下急行線以上に巨額の費用を要するので、今となっては絵空事である。尚、東京三鷹間に地下急行線を建設するなら東京駅から信濃町までは道路下(皇居外苑下を含む)、信濃町から新宿までは現在線直下、新宿駅付近は上越新幹線の新宿乗り入れのために確保してある地下空間を活用し、そこから先は現在線直下ではないだろうか。さすがに全区間大深度地下ではお金がかかりすぎるし、新宿駅付近で東西方向に横切るとなると駅設置場所を確保できない。新宿駅に停車しない中央線などありえない。

緩急分離型複々線の最大の課題は緩行線の活用である。大正時代に複々線化された中央線の御茶ノ水中野間は快速線と緩行線とで乗客数に大きな差がある。国鉄時代に複々線化された総武線や常磐線は快速線が新設されたこともあり、各駅停車と快速との乗り換えを敢えて不便にして輸送需要の平準化を図った。常磐線各駅停車は地下鉄千代田線直通となり、北千住駅での乗り換えが不便なことから迷惑乗り入れと言われた。京阪の複々線も緩行線の方が空いており、ラッシュ時には緩行線経由の区間急行が設定されているが、それでも十分に活用されていない。小田急が複々線化した際には朝ラッシュ時に緩行線経由の優等列車を設定したり、千代田線乗り入れ列車を緩行線経由にしたりして輸送需要の平準化を図った。中央線を複々線化するなら、黄色い電車に集客するための工夫が必要である。

オレンジ色の電車の通過運転に根強い抵抗があるなら、逆転の発想で黄色い電車の中野立川間で快速運転をするのはどうだろう。三鷹立川間の地下急行線も黄色い電車が走るようにする。これなら三鷹立川間で快速列車が新設されるだけでオレンジ色の電車の方には影響がないので、比較的受け入れられやすいのではないだろうか。黄色い電車の線路は途中で追い越しできるような駅がないが、黄色い電車はすべて快速運転すれば問題ない。

新宿立川間であれば大久保と東中野に停車するだけなので、オレンジ色の電車よりも所要時間が短くなる。御茶ノ水までだと停車駅がさらに6駅増えるので、中野御茶ノ水間の所要時間の差は8分。一方、中野立川間で快速運転すれば7駅通過できるので、立川御茶ノ水間の所要時間は互角である。さらに荻窪と吉祥寺も通過するならあと2分短縮できる。東西線直通列車が東西線内でも快速運転すれば、都心までの所要時間をさらに数分短縮できる。これならオレンジ色の電車から黄色い電車への転移が進み複々線を有効活用できる。オレンジ色の電車の乗客が減ったら快速を少し間引きして特急や特別快速のためのスジにすれば特急や特別快速を増便したり所要時間を短縮したりできるので、こちらも便利になる。

しかしまだ車庫問題が残っている。三鷹立川間で列車本数を増やすなら、普通なら車両の数も増えるので車両を留置するスペースが必要である。かつては、箱根ヶ崎にオレンジ色の電車の車庫を新設し、武蔵小金井の車庫を黄色い電車向けに転用することが想定されていたようだが、箱根ヶ崎の車庫建設は猛禽類の営巣木が見つかって頓挫してしまった。車両の置き場所を確保できなければ車両を増やすことができない。

そこで黄色い電車の中野立川間の快速運転である。小田急が複々線化した際も、小田急線内ではこれ以上車両の留置場所を確保できなかったが、所要時間短縮や地下鉄直通拡大によって増発を実現した。現在中野三鷹間を各駅に停車して所要時間14分、三鷹立川間が所要時間17分で計31分。黄色い電車を立川まで延伸する場合、単純計算では往復35分増えて5分間隔換算で7編成の増備が必要である。中野立川間で快速運転して7駅通過すれば往復21分増に留まり4編成の増備で済む。さらに荻窪と吉祥寺も通過すれば往復17分増にまで減らすことができる。中野立川間の特別快速の所要時間は22分なので、44-28=16分増となり、あながちおかしな数字ではない。3〜4編成増なら東西線直通用のE233系800番代の仕事を増やせば吸収できそうである。

中央線が立川まで複々線化したあかつきには青梅線との直通運転が可能になるが、青梅線直通列車をオレンジ色の電車にするか黄色い電車にするかは悩ましい。新宿方面への速達性を重視するなら黄色い電車と直通運転する方が有利だが、黄色い電車とオレンジ色の電車とが混在してわかりにくい。一方、オレンジ色の電車と直通運転するなら青梅特快でなければ所要時間が長くなってしまう。オレンジ色の電車はもともと青梅線直通運用をまかなえるだけの車両があるが、黄色い電車の車両には余裕がないので、オレンジ色の電車が直通する方が現実的だろう。速達性を確保するなら立川駅や国分寺駅で黄色い電車に乗り換えればよい。

地下線を建設するとなると地下水への影響が発生しうるし、中央線沿線住民は環境問題に対して物申す傾向があるが、幸い三鷹立川間は扇状地である武蔵野台地であり地下水位がかなり低く(そのため水田耕作できない)、武蔵野台地の伏流水が湧出するのは井の頭池である。そのためこの区間については地下水への影響はさほどなさそうである。どのみち環境影響評価をすれば判明することである。

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