旅客として船に乗る際のちょっとしたコツ

海が穏やかなときならよいが、時折海が荒れることがある。そんなときにはなるべく楽に乗りたいものである。小さい船だと、船首が浮き上がって重力が抜けてから船体が海水に叩きつけられるように着水するので、体に負担がかかる。

1.なるべく大きな船に乗る

波の高さが同じでも大きな船の方が揺れにくい。全長の長い船の方が船の傾きが小さいためである。揺れには左右方向を回転軸とするピッチ、垂直方向を回転軸とするヨー、前後方向を回転軸とするロールがあるが、船は前後に細長いので、ヨーはほぼなくて、ピッチは全長が長ければ長いほど小さくなる。残るはロールで、船は細長いのでロールがあまりにも大きいと転覆するおそれがあるが、大型船はフィンスタビライザーをつけてロールを抑え込んでいる。新日本海フェリーは全長200m超の巨大船を就航させ、フィンスタビライザーをつけているので、多少の荒天であっても荷崩れを起こさずに就航できている。その代わりトレーラーはワイヤーでしっかりと固定するが、乗用車は輪止めをつける程度である。

ジェットフォイルや高速船は小さいがフェリーは大きいので、同じ航路で高速船とフェリーの両方が就航している場合にはフェリーの方が揺れにくいし欠航しにくい。

最近の高速船の主流は波の抵抗が小さく客室を大きく取れる双胴船だが、双胴船は横方向の揺れ(ロール)に対しては安定しているが、横幅の割に全長が短いので縦方向の揺れ(ピッチ)に対してはさほど安定していない。

2.速度が低い方が揺れにくい

波に突っ込む速度が高ければ、単位時間当たりの船首の上下の動きが大きいのでその分揺れやすい。そのため、悪天候時には大型フェリーであっても減速航行するので到着が遅れる。悪天候が予想される場合には、到着が遅れる可能性を織り込んでスケジュールに余裕を持たせておかないとスケジュールが破綻する。

同じ航路に高速船とフェリーの両方が就航している場合、フェリーの方が遅いので揺れにくい。

3.船尾側よりも船首側の方が揺れる

船は波を受けるものだし、船尾側には重いエンジンがあるので船首側は大きく揺れるが船尾側はさほど揺れない。船が揺れるときにはなるべく後ろに行く方が楽である。

船が大きく揺れるときには船尾も揺れるので、一般には中央が最も揺れないとされているが、船の重心は中央よりもやや後ろだし、船の客室は前側にあるものが多いので、客室の中ではなるべく後ろの方が楽である。

4.追い風よりも向かい風の方が揺れやすい

向かい風のときには波の接近する速度が高いので、単位時間当たりの船の上下動が大きい。反対に、追い風のときには波の接近する速度が低いので、単位時間当たりの船の上下動が小さい。ドップラー効果である。強い向かい風だとかなり揺れるが反対方向では強い追い風なのでさほど揺れない。同じ航路で同じ日に乗っても往復で印象が全然異なってくる。海上の風の状況を予め調べておいて、追い風の航海なのか向かい風の航海なのか当たりをつけておくと心の準備ができる。

5.船の動きを予測できる方が構えやすい

これは車の運転でも同様だが、同乗者が車酔いしても運転者は車酔いしにくい。運転者は車の挙動を予測して構えることができるためである。

6.座っているよりも立っている方がふんばりやすい

立っていれば船の動きに合わせて踏ん張ることができる。座っているときには動きが限定的である。横になると完全に受け身になり踏ん張れない。航海時間の短い船なら立っていても苦にならないが、船中泊を伴う航海では夜には横にならざるを得ない。新日本海フェリーや東京九州フェリーや太平洋フェリーなら全長200m超えなのでさほど揺れないが、東海汽船や小笠原汽船といった離島航路は船があまり大きくないので、海が荒れていると揺れる。

ちなみに、離島の大半は内海ではなく外洋にあるし、港湾インフラに制約されて大きな船が就航できないので(同様に島には大型トラックが走行できる道路インフラも無いので、フェリーではなく貨客船が主体である)、小さい船で外洋を航行せざるを得ず、基本的には揺れるものである。さらに遠方の島へは夜行便が多いので、揺れる船内で寝ることになる。

7.船体が浮き上がるような揺れなら横になる方が楽

小さい船で大きな波を越えると、船体が持ち上げられて重力が抜けてから自由落下して船体が海に叩きつけられる。叩きつけられる方は構えていれば耐えられるが、船体が浮き上がって重力が抜けるのは内蔵に来る。立っていたり座っていたりすると内蔵が上下に揺さぶられるが、横になると内蔵にかかる力が前後方向または左右方向になるので、少なくとも上下方向の揺さぶりは避けることができる。

8.横になるときは前後方向ではなく横方向の方が楽

船の揺れは主に上下方向のピッチングなので、前後方向に横になっていると、波を越えるたびに頭が下がってつらい。横方向で横になっていれば波を越えるときでも体を軸に回転運動するだけなので比較的楽である。横波を受けるときにはロールもあるが、新日本海フェリーや太平洋フェリーといった外洋を航行する15000トンクラスの大型フェリーにはフィンスタビライザーがついているのでロールが抑え込まれている。外洋の離島航路の与那国島へのフェリー(750トンクラス)や多良間島へのフェリー(500トンクラス)や青ヶ島への貨客船(500トンクラス)も、小さい船ながらフィンスタビライザーがついていて、これらの航路の荒天時の揺れ具合を想像させる。となると残るピッチングの対策をすればよい。

9.寝る前に酔い止めを飲む

揺れる船で寝るなら、とりあえず酔い止めを飲んでおけば楽である。酔い止めの中には眠気を催すものもあるのでフェリーを下りた後で車を運転する場合には酔い止めを飲むタイミングに注意が必要。

船内の売店が医薬品販売のライセンスを持っていない場合には船内で酔い止めを購入することができないので、船中泊を予定しているなら事前に酔い止めを購入しておいた方がよい。


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