もし東八道路の下に地下鉄があったら

東八道路は地元では30m道路と呼ばれている道幅の広い道路で、現在は都道だが全通したあかつきには国道20号日野バイパスと接続し、甲州街道のバイパスになる予定である。全通までは新府中街道と甲州街道の間の約1kmを残すのみである。このエリアは中央線と京王との間の鉄道空白地帯なので、せっかく道幅の広い道路が通っているならここに地下鉄があったら便利かなと思った。実際、過去に三鷹市がこの区間の地下鉄建設を要望したことがあったらしい。しかし、両端で既存の鉄道と接続しなければ鉄道として機能しないので、実現可能性を考慮せずにどこでどうつなげられるだろうか考えてみた。

接続で重要なのは東京側だが、これが難しい。素直に伸ばすなら首都高速新宿線の下をそのまま通して笹塚駅で京王新線につなげると、そのまま都営新宿線に直通でき、新宿笹塚間の複々線を活かすことができる。しかし京王線は笹塚から仙川まで高架化工事中で、笹塚駅で新たな線路を受け入れる余裕がない。都営新宿線の引上線の少し先までは既に高架なので、引き上げ線を地下へのアプローチ線に転用するにしても、高架下の路地を分断することになる。都営新宿線と直通する場合、軌間は京王と同じく1372mmなので、他の狭軌路線とは直通できない。

他の候補となると富士見ヶ丘の車庫用地を活用して富士見ヶ丘で井の頭線に接続とか方南町で丸ノ内線方南支線に接続とかもありうるが、いずれも輸送力が小さく、新線の旅客の受け皿になりえない。中野駅で東西線とつなげる場合、途中に地下鉄建設に適した手頃な道路がなく、民有地の下を通す必要があるので用地の確保が大変である。

では府中側はどうだろうか。最も利便性が高いのは立川駅まで乗り入れることである。立川は交通の結節点であり乗客が多いし、新宿立川間で中央線のバイパス線にもなりうるからである。南武線の谷保駅から立川駅まで南武線に乗り入れれば建設費用をその分安くできるし、線路を共用したくなければ南武線の下に建設するという方法もある。普通に地下鉄として建設する場合、国立市内に手頃な道路がない。よしんば国立市内で区画整理して道路を確保したとしても、立川駅付近に手頃な道路がない。

駅候補地としては、まずは環八交差部。環八から笹塚の間は京王の駅に近く競合するし、速達性確保も必要だからである。次が玉川上水の先。その次は東大三鷹寮の前。別に東大のためではなく、杏林大学附属病院の最寄りだからである。その次は武蔵境通との交差部。バスとの接続が良いだけでなく、この付近は道路幅も広いので駅を設置しやすい。その次は府中の運転免許試験場前。その次は東芝府中事業所北口前だが、途中にもう1駅くらいあってもよさそうである。その次は谷保駅。南武線との接続のためである。谷保と立川の間は既に南武線の駅があるので建設費用削減および所要時間短縮のため、駅を設置しない。ここまでで途中8駅。新宿立川間では幡ヶ谷と初台を通過すれば途中9駅である。新宿立川間の中央特快は途中3駅停車だが、快速は中野立川間各駅停車なので、中央特快よりも少し時間がかかる程度ならバイパス線として機能するのではないだろうか。

笹塚から立川まで25km強。km当たり300億円+1駅300億円として、少なく見積もって1兆円規模の事業である。建設費用が巨額なので、事業主体は東京都を主体とした第三セクター以外は考えられない。京王やJRの乗客を減らすので、そこに京王やJR東日本が数%出資する形だろうか。東京都の事業なら都営新宿線と接続させると何かと都合がよい。

尚、つくばエクスプレスの建設費用が8081億円。つくばエクスプレスは開発余地の大きい土地に線路を通して開発利益を取り込める形にしたから実現できた。都内は地下線だが郊外では高架線だし、もともと地価が安かったエリアである。それに対して多摩地区は既に宅地化された地域であり、沿線住民にとってはメリットのある路線になりうるものの、開発利益を取り込む余地が乏しい。

運賃収入を中央線に準じて超ざっくり試算してみると、だいたい2万人くらいが笹塚立川間を1日1往復するとして延べ4万人。笹塚立川間の運賃を仮にJRに準じて500円とすると、1日の運賃収入が2億円、1年間で73億円。途中駅からの利用も含めて1年間で100億円くらいだろうか。鉄道事業には建設費用だけでなく車両の購入費用と維持費や運転費用や電気代といった様々な費用がかかるので、仮に粗利を運賃収入の半分とすると、1兆円の建設費用を回収するだけでも200年かかる。たとえ運賃を倍にしても100年かかるし、同様に沿線人口が増えて乗客数が倍増しても100年かかる。便益に対して費用が明らかに上回っている。やはり全区間地下鉄では建設費用がかかりすぎる。郊外では高架線にして建設費用を下げないと厳しいが、東八道路の真上に高架橋を設置するようなスペースがあるようには見えない。

新宿立川間のバイパス線と位置づけるとしても、三鷹立川間の地下急行線建設費用が3600億円とされており、新線建設の3分の1の費用でできることになるが、複々線化事業は連続立体化事業と異なり鉄道会社が建設費用を全額負担するので、これでも投資回収できる仕組みが必要とされている。三鷹駅から立川駅まで230円、新宿立川間でも約500円。楽観的に1日1万人の乗客が増えたとして、年間運賃収入増は36.5億円。甘めに見て粗利が毎年20億円だとして投資回収まで180年。超楽観的に1日2万人の乗客が増えたとしても投資回収まで90年。建設費用を運賃に上乗せして前払いしてもらったとしても、JR単独事業として採算に乗るようには見えない。

やはり鉄道建設は不動産開発と一体でやらないと厳しい。もう一つの考え方としては、道路事業の代替として鉄道を整備するというものである。多摩地区は道が悪くて道路が混雑するし、いまさら用地を取得して道路を拡張するのにもお金がかかる。東八道路は東西方向の道路だが、それによって南北方向の自動車やバスの交通量を減らせる可能性がある。しかし、1兆円の建設費用の8割を道路予算から補助するとして、多摩地区の道路予算が毎年400億円もあるかというと、それも難しそうである。

東八道路が国道20号のバイパスになったあかつきには交通量が増えて周辺住民に迷惑がかかるだろうから、その補償として近隣住民の徒歩圏内に鉄道を設置するという考え方もありうる。ではその金額は毎年200億円もあるのかとなると、いくら東京都といってもそれは厳しいのではないだろうか。

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