名古屋のガイドウェイバスに乗ってみた

名古屋には全国で唯一のガイドウェイバスがあるので乗ってみた。専用軌道区間は大曽根駅から小幡緑地まで。複線のコンクリート高架橋だが、ガイドウェイをつけることで高架橋の幅を狭くすることができ、建設費を安くすることができる。高架橋の幅が狭いおかげで道路の中央分離帯の幅で柱を立てることができ、モノレール並に軌道設置が容易である。専用軌道区間は複線で分岐器が無いためコンクリート橋の軌道両側にH鋼のガイドウェイがあるだけのシンプルな構造。車両への電源供給も不要なので地上設備はコンクリート製の高架橋のみで済んでいる。大曽根駅で折り返す際にはガイドウェイから外れた広場で周回して折り返す。小幡緑地駅で折り返すバスは小幡緑地駅から一般道に接続する部分でガイドウェイの無い場所で転回する。

専用軌道が建設された動機は、この区間の道路の渋滞がひどく、バス路線として機能していなかったことである。バス専用の安価な高架橋を構築して専用軌道とすることで道路の混雑に影響されない定時運行が可能になった。専用軌道なので信号待ちもなく、地下鉄や新交通システムと同じような調子で走れる。駅間の高架橋を単線にすればさらにコストを安くできそうだが、駅に分岐器が必要になりシステムが複雑になるのであまりメリットなしと判断されたのだろうか。複線の輸送力は単線の輸送力の4倍なので、ある程度需要が見込めるなら複線にした方がよい。

駅は公営の新交通システムと同様にエスカレーターやエレベーターのついたバリアフリーの立派な駅だが、ホームが低いことや架線や第三軌条が存在しないことから、乗降口以外のホームに柵がついているだけのシンプルな構造。ホームはバス2台分の長さがあるが、乗降口は1台分しか無い。今後乗客が増えたら連接バスを導入する余地はありそうだが、そのためには郊外の道路で連接バスが走れるよう整備が必要である。ホームの床が低い分、バス車内にはステップがある。案内車輪を格納するスペースが必要なため、ノンステップにできない。せっかくホームまではバリアフリーなのに、肝心のバスに乗るところがバリアフリーでない。これはガイドウェイバスの数少ない弱点の一つである。専用軌道を走るだけなら高床式にしてしまえば段差が無くなるが、そうすると郊外で一般のバスとして走れなくなってしまう。

ガイドウェイバスの真骨頂は一般道に出た後は普通の路線バスとして運行可能なことで、小幡緑地から先は3系統ある。動力源にも柔軟性があって、現在の車両はすべてディーゼルエンジン駆動だが、ガイドウェイバスとしての仕様を満たせば蓄電池式だろうと燃料電池式だろうと可能である。専用軌道走行中に充電できる仕組みにすれば蓄電池バスでも充電のための時間を取らずに運行可能だが、そのためには地上設備・車両の両方で設備投資が必要である。

混雑する区間では高架の専用軌道を走り郊外では一般の路線バスとして走るというのは、Bus Rapid Transitの本来の形に近い。新交通システムやモノレールよりも汎用性が高く安価に構築できるという利点がありながら、なぜ他の地域に広まらないのだろうか。おそらく輸送力と地上設備のコストとのバランスだろうか。幅が狭いとはいえコンクリートの高架橋を道路の上に作る必要があるし、駅にはホームやエレベーターやエスカレーターが必要なので通常のバス停に比べてかなり大がかりになる。交通量の少ない路線なら普通の専用道路の方が安くつく。交通量の多い路線なら地上設備に投資する余地があるかもしれないが、1両当たりの輸送力は普通の路線バスと同じなので、輸送力を増やそうとしたらバスの台数を増やす必要がある。しかし昨今の乗務員不足の時世に、バス1台ごとに乗務員をあてがうのは難しい。比較的やりやすのは連接バスの導入である。日本の複数の都市で導入実績がある。自動車の自動運転の技術が発達したら新交通システムのような無人運転(実際には輸送指令からの遠隔監視運転)も可能になるだろうか。自動運転を導入するとしたら攪乱要因の無い専用軌道が最も適しているので、まずは自動運転の実証実験をしてみればよいのではないだろうか。

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