NHKオンデマンドはなぜ課金するのか

NHKには良質な映像コンテンツが多数あることから、「NHKオンデマンド」という有償のネット配信サービスを提供している。番組単独で購入可能であるほか、一定の月額で見放題のサブスクリプションサービスも提供している。他にも、Hulu等の動画配信サービスにもコンテンツを供給しており、それらのサービス経由で見ることもできる。

それ自体は結構な話だが、それらの映像コンテンツの制作費用はどこから出たものだろうか。それは放送法に基づいてテレビ保有者から強制的に徴収した受信料である。すなわち、NHKのコンテンツ群は本来は国民の共有財産である。再エネ賦課金は電力料金に転嫁され国民負担となっており、したがってFIT制度によって発電された再エネ電力の環境価値は国民に帰属するとされている。同様にして、国民負担によって制作されたNHKの映像コンテンツの著作権は、形式はともかくとして実質的には国民に帰属するはずである。

にもかかわらず、受信料を払った者ですら、過去に制作された番組を見たかったら追加でお金を払わなければならないというのは一体どういうことなのか。ネット配信のための追加的なコストがかかると言いたいのかもしれないが、ネット配信のための追加的なコストなんて莫大な受信料収入からすれば取るに足らない金額で、それなのに地上波契約の月額受信料と同等水準の料金を貸すのは二重課金ではないか。たとえ形式的にはNHKが著作権を有するとしても、実質的にはコンサルが顧客に納品した成果物を同じ顧客に再度売りつけているのと同じである。どんな理屈をこねようとも商取引としては不当である。しかも放送法に基づいて強制的に受信料を徴収している組織がそのような不当な取引を強要するのは優越的地位の濫用である。強制力を持つ組織は監視されなければならない。「嫌なら購入しなくて結構」と言うこともできるかもしれないが、一旦それを言ってしまったら同じ理屈で「嫌なら受信契約を締結しなくて結構」という理屈を認めることになってしまうので受信料を強制的に徴収する大義名分を失うだろう。

NHK受信契約の案内を見ると「地上契約」「衛星契約」「特別契約」しかない。このうち「特別契約」は離島等の地上波の受信が難しい地域向けのものなので、実質的には「地上契約」と「衛星契約」しかない(かつては白黒テレビのみの普通契約とカラーテレビ向けのカラー契約とに分かれていたが、事実上白黒テレビが存在しないので、2007年に白黒テレビのみの契約が廃止された)。それが何を意味するかというと、NHK受信契約締結者向けに過去の映像コンテンツを割安で提供する契約パッケージは存在しない。

お金を取れるレベルのコンテンツを制作できるのは大したことなので、コンテンツに課金する代わりに受信料は取らないというのなら理解できる。コンテンツ制作で商売している会社はいくつも存在する。民間のビジネスとして展開するなら、どのように課金しようとも自由である。しかし、しかしNHKは放送法を根拠に受信料を強制的に徴収している公共放送である。コンテンツに課金するが受信料も取るというのは公共放送の領分から外れているのではないか。

コンテンツを外国に売るのならわかる。外国の居住者はNHK受信料を負担していないからである。また、日本に居住していても自宅に地上波や衛星放送を受信できるテレビがないという理由で受信契約を締結していない人に課金するのもわかる。しかし日本に居住していて受信料を負担しているのにさらに課金されるのはおかしい。少なくともコンテンツビジネスの収益に見合った分だけ受信料を値下げして強制的な負担を軽減すべきではないか。いずれコンテンツビジネスだけで採算を取れるようになれば、受信料を徴収する必要がなくなり、受信料徴収のために徴収員を雇う等の費用をかける必要もなくなるので、NHKの財務にとっても有利なはずである。

(追記)2020年4月からNHK受信契約締結者向けにNHK+が追加料金なしで提供されていたようである。現状では地上波しか視聴できず、肝心の衛星放送番組が見られないのは残念である。また、過去のコンテンツをすべて視聴できるわけではなく、見逃し配信として過去7日分を視聴できるだけなので、NHKオンデマンドとは棲み分けられているようである。

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