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長い、長い、休日 第6話

 カネチカがタナカの思い出した女性についてアレコレ質問していたが、案の定雲を掴むような曖昧なことしか分からなかった。そのため、一度船に戻り、この先どうするかを決めてくることになった。俺とタナカはここに待機することになり、今は二人きりだ。

 今の俺は、非常に曖昧な状態だ。一応、緊急の任務中での事故でこうなったわけだが、担当をしているわけでもない。それに、緊急避難で原生生物(ヒト)の装備をしている。端から見たら死者が生き返ったように見えるだろう。なので、うかうか外を出歩くわけにはいかない。ヘタにこの体を知っているヒトにでも見つかったら厄介だからだ。
 それにしても、目が悪い。見えない。ピントが合ってない。不快だ。中途半端に修復されたようだ。
「あの、目…どうかしたんですか?」
 タナカが恐る恐る聞いてくる。
「ああ…視力が悪いようで見づらいんです」
「元のヒトが視力が悪かったのかも知れませんね」
「まだ装着して間もないし、馴染んでないので影響が残ってるんですよ」
 俺のレベルになると、原生生物(ヒト)の装備だとしても自分に合うように調整できる。経験上原生生物(ヒト)の装備をしたのは初めてではないので、今の所馴染むまで待つしかないし、他の原生生物(ヒト)に会わないようにすれば良いだろう。
 ふと、タナカがなにか言いたげにモジモジしていた。ハッキリ見えないが、動き?がそんな気がする。
「なにか?」
「えっと………お名前、何とお呼びしたいいのか…その…」
 その質問に、俺が固まっていると。


「めけめけ王子」


 忌々しい声が響いた。
「え?」
 タナカが慌てて振り返る。そこには、俺の会いたくないキャプテンの姿があった。筋骨隆々で、キャプテンらしいたくましさを感じるが、オネエである。
「彼の名前はめけめけ王子よ」
 なんで、キャプテン自らこんなところに。………いや、俺に対する嫌がらせだろう。昔からコイツはそんな奴だ。キャプテンがすることではないが。
 と、キャプテンが片手で俺の頬を挟み、非常にブサイクな様になったのをバカにした目つきで見やる。
「久しぶりね。めけめけ王子」
「———ふがふが(離せ)」
 俺が振り払う前に、奴はスッと身をひくとタナカに顔を向けた。
「さて、———今は便宜上「タナカ」と呼ぼうかしら。記憶は戻った?」
「えっと………あなたは?」
「アタシはレスキュー隊のキャプテン・シリウス。もう一度聞くけど記憶は?」
「——いえ、まだ…その…」
 タナカが言い淀むと、シリウスが腰の銃に手を伸ばした。俺は反射的にソレを手で押さえ、タナカの前に立った。
「よせ。シリウス」
「邪魔をしないで。どちらにせよタナカは助からないわ」
「何の話だ?」
「邪魔立てするなら、あなたごと撃つわ」
 何か俺の知らない情報を知っての行動なのだろう。だが、極端すぎる。
「待て、話を聞きたい。どうしてそんな結論になった?」
 俺の背後では、タナカの荒い息づかいが聞こえる。突然現れた奴に銃を向けられ、あんなことを言われたら動揺するのも無理はない。
「めけめけ王子くんには関係ないわ」
「勝手に呼び出して、あんなことさせといてそりゃないだろ。カネチカの責任者はお前だ」
 その言葉に、ふっと緊張を解きキャプテンは両手を広げた。
「わかったわよ。優秀なめけめけ王子のおかげで被害は最小限に食い止められたし。その礼に教えてあげるわ」
 奴はわざと俺の名前を連呼する。俺が嫌がっているのを十分承知しているからだ。
 
「彼は寄生種なの。今はタナカになりすましているけど、ヘタをすると我々にも手を出すかも」

「は?……寄生?」
 俺が問いただした瞬間、ガシッと後ろから羽交い締めにされた。驚き振り向くと、そこにはタナカのようでタナカじゃない不気味な顔が口を開けてするどい牙を向けていた。

 なんだ、これ。

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