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特急列車の車窓から

 8月初頭の一週間を夏季休暇に充て、朝早くから電車に揺られて県下の城下町へ。始点ではほとんど貸切状態で、中間地点でようやくぽつぽつと乗客が増えてきた。それでも平日の朝は空いている。うっかり寝てしまうことのないように、お気に入りの文庫本一冊を携えてきたが、内容に引き込まれているうちに電車旅もあと十数分というところまで来ており、あまり真剣に読むのも考えものではある。

 山間地にかかり、あの大雨のせいか倒木の姿があちこちで見られた。木の幹が裂けて、内側から痛々しいほど彩度の高い色が見える。トンネルを抜けると何とやらなどというが、あれは雪景色に限られたものではなく、夏の鬱蒼とした山並みに対しても圧倒されるところがある。

 暫く走ると片手に山、もう一方は海と、両方の景色を満遍なく楽しむには頭がひとつ不足してしまうロケーションで、しかし三半規管が弱いわたしは、忙しなく左右に首を振るわけにもいかず、手元の本に目を落としながらちらりと眺めるに留まった。

 目的地に到着し、知人Bと合流。

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