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顔の脂のしみたあんこを作って食う話

目を温める「あずきのチカラ」、コレには工業用小豆なんで食べないでねという注意表記がある。

基本的に食べれる食物なんだから工業用も、食用もないだろって思うかもしれないが、食べない前提で育ててますって言われると、どんな扱いをされてるかわかったもんじゃない。

公式に食べるなと書いてあるものは食べないのが正解である。それが大人だ。だが私は手作りで、目を温めるあずき袋を作った。中に入っているあずきは食用である。スーパーで買った。大人なのでお買い物くらい出来るのだ。

作ったのは春先頃、そこからほぼ毎日電子レンジで1分加熱、10分私の目を温めてくれた。そして冬のお餅が出回る時期が訪れた。
あずきの目を温める力に衰えは感じていなかったが、200~300回が使用限界なら、もうそろそろ限界である。

……食べれるのかな。

漠然と食べられないってことはないだろう、食用なんだし。とは思っていたが実際食べるとなると考える。大人は食あたりとか怖いのだ。
だがあずきは乾物である。言っちゃなんだが、定期的にレンジで乾燥もさせてきた。そして電子レンジで温めても、温まらないってことはないので、カッスカスに炭化しているってこともないだろう。

不安なのはダニとか、なんというか昆虫系である。だが別にそのままボリボリ食うわけでもなく、あずきは煮るし、煮こぼしという工程もある。
煮こぼしというのはあずきには苦味、エグミがあるので一度煮て、そのお湯を捨てて新しい水で茹で直すという技法である。渋きりとも言う。

私の顔、特に目の周りの油が付着して酸化したりしてるかもしれないが、そこまですれば食えそうではないか?

……やってみるか。大人だって挑戦したい時があるのだ。

そのように考えて、手作りアイマスクの縫い目をほどき、あずきを皿の上に出してみる。
別段、あずきである。私が和菓子職人だったら「何だこのあずきはぁ!! 問屋の野郎、ただじゃおかねぇ!!」と、しゃもじ片手に飛び出すのかもしれない。だがあいにくと私はそこまであずきを見たこともない。

特に変色しているわけでもないし、色が濃くなっているのかもわからんし、なんなら薄くなってるのかもよくわからんのである。
同時にものすごく乾燥しているわけでもない。あずきの表面の皮がパリパリになって剥がれるってこともない。
ふつーの豆である。悪い匂いも特にしない。むしろ無臭だ。

……うーむ。わからん。

私も食品のプロではないが、色が悪い、異臭がする……この二つが危ないのは何となく分かる。

しらべるに一年放置された米は古米になるんだろうが、食えないってこともないようなのだが、いかんせん私のあずきは毎日一分、チンした特殊なあずきである。普通の食品にやる所業ではない。
なかなかの過酷。たんに放って置かれた古米よりも拷問を日々受けた猛者である。

にしちゃ~きれいな顔だなぁ、と言った感じである。逆に不気味だ。
とはいえ、見るからにひび割れて、カスカスです!! ってのよりは食べれる目算はつけられる。

私が作ろうと思っているのはあんこである。あずきと言えばあんこ、後はぜんざい、もう一つはお赤飯だろうか。

その中ならあんこを作って、気が向いたらお湯で溶かしてぜんざいにしても良い。

えっ、ぜんざいはあんこをお茹で溶いたものじゃない? 厳密には違うかもしれないが、まあまあ似たようなもんだ。

あんこの基本的な作り方は、洗ってから茹でてぷっくり、柔らかになったらOK。
柔らかくなったら砂糖を入れ、気分で塩を入れたりすればあんこの出来上がりだ。

一応、参考にしたレシピを乗せる。Foodie(フーディー)さんレシピだ。あの三越伊勢丹グループが運営する食のメディアなので信用度は高い。

諸注意として砂糖を入れた段階からどんなに煮てもあずきは柔らかくならないという。

ほー?

これがこしあんになると、もう少し大変であるらしい。でもつぶあんならそんなものだ。砂糖のタイミング以外は要は茹でればOKなのだ。単純である。

コレなら私にも出来るぞぉ。わははは。

まずはしっかり水で洗う。水を流し、米を研ぐ用に洗い、翔太の寿司で見た拝み洗いを丁寧に行う。
この辺は気分である。こすっても小豆の皮が破けたりは特にしない。

さて、近年のあんこのレシピはあずきを水で戻さないのが主流であるらしい。

幼い頃、おばあちゃんは小豆を水で戻していた記憶がある。
確か夜のうちに漬けて、朝には煮ていたように思うから長くても12時間前後であろう。

私はここで、むしろレシピどおりに作って、このあずきは全然ダメである……という内容にしようかとも考えた。
だが、駄目なあずきなのはわかってるんだから、ちょっとは美味しくする工夫がないと「そりゃそうだろ」って話である。

そこからおばあちゃんの時間から二倍。約一日水に漬けてみることにする。
あずきたちもカスカスになっていて、もしかしたら全部浮かんでくるかな? なんて思っていたが、水を入れても普通に沈む。

冬の寒い時期とはいえ、常温で二十四時間は不安であるから半日経った時点で水も変える。なかなかの気配りである。

観察すると24時間の時点でかなり水を吸ってプックリしている。
だがどうにも……こう……ぷっくり具合がおとなしい気がする。具体的には色が薄くなってない。

インターネットだともっとブックリ膨らんでいたような……。

コレが戻っている途中なのか、そもそもそれほど水を吸いきれないのかは不明だ。きっとおばあちゃんは新鮮なあずきで作ってくれていたのであろう。ありがとうおばあちゃん。

祖母の愛には気づけたが、目の前のあずきのことはなんにもわからんのである。

とにかく、どうしたらよいのかよくわからん。ので更に半日浸けてみた。

そうするとなんと!! 変化がない!!

変化が微細で見て取れないのか、もっと浸けたら変化するのか? それが全くよくわからない。

たしかに最初からは変化しているが、漬け込みに漬け込んだ豆がどうなるか知らんのだ。だから足りないのかがわからんのである。
本当なら比較とか、実験とかをしたほうが良いのかもしれない。でもそれだったらレシピに従って水につけずにあんこ作るよって話なのである。

正直24時間でもおばあちゃんの倍、36時間なら3倍である。さぞやムチムチになるんじゃないのぉ? と思っていたが別にならなかった。残念だ。

過酷な拷問を受けたあずきたちは水の吸いが悪いのだけは間違いないようだが、それを踏まえて足りてるのやら、足りてないのやら、全然わからん。

そもそもこのあずきを食って良いのか、そこからわからんのだ。今更である。

なので良しということにして、次は煮る工程だ!

10分ほど煮て煮こぼし一回、そこからじっくりコトコト、お湯を足しながら煮ていく。

レシピで言うと30分で良いらしい。あずきって結構単純である。煮こぼしも含めて40分くらい火を通したことになる。

色も薄くなり、心持ち少し膨らんでツルッとしている感じがある。喜ばしい変化だ。

さてさてぇ、どうかしらと食べてみる。

ぼっそぼそ……まあ、ぼっそぼそだ。
でもガリゴリってわけじゃない。食えるか、食えないかで言えば食える。

美味いか、美味くないかで言えば……美味しくない。

ここで少し不安になる私である。食べられれば良いやとは思う反面、できれば美味しく食べたいとも思うのである。
ネットでちょっと調べると、あずきを煮る時にちょっと重曹を入れると皮が柔らかくなるらしい。

なるほどなるほど。

重曹と言えば、お掃除の際にアルカリ性にする魔法の粉である。幸い、我が家には重曹がある。しかも食品タイプ。お掃除タイプは食べないようにね。
ちなみに重曹は苦い。というかエグみがある。入れ過ぎ注意だ。あと煮こぼしでエグみをとったのに……と思わなくもないけれど、それはそれ。

科学の力を借りるのは大好きだ。現代料理といった感じである。それで言うと圧力鍋の使用も考えたのだが、変化を見たかったので鍋にした。

パラパラと入れて追加で1時間。最初煮た時間と合わせて2時間。コレで足りないってことはねぇだろうって時間だ。

そもそもあずきは水につけなくてもOKなのだ。それは茹でる間に水分が染み込むからってことなのだ。

その時間がレシピの4倍もあるのだ。グチャグチャになっちゃってもおかしくない。まあ……2時間茹でたところでお察しだが、全然崩れんのである。

オッス! 俺あずき!! 加熱ってこんなもんかぁ? 余裕余裕って感じなのだ。少年漫画の主人公みたいなあずきである。このやろう。

そして食べるとぼっそぼそなのである。あんこっていうのはもっとシットリ、なめらかなものだ。
理想をシルクの布地とするなら、やっすいトイレットペーパー……紙やすりよりはマシだが、正解には程遠い感じである。

うーん、重曹の意味はあんまりなかったようである。単に不味くなっただけだ。

ここから、更に柔らかくするために煮込めば良いのかは分からない。光熱費もタダじゃないので、じっくりコトコトをもっと続けるのもなんだかなぁって感じだ。
そもそも水に漬けて、さらに余分に煮ているのに、この有様……だが食えないことはない。あんこと思えば赤点だが、甘納豆だと思えば、まあ……。

なんにせよ、私は妥協した。タイムアップ、砂糖の投下である。

ここから煮詰めていくのだが、煮詰めるとボソボソ感がドンドン前に出てくる。豆がいい感じに潰れてないのが問題では? と、そう考え、思い切ってヘラで潰してみるがあんまり意味がない。

出来上がったのは、あんこじゃないとは言えないが、美味しいとも言えないあんこである。
コレでたい焼き屋したら3日で閑古鳥間違いなし。老後にもう一山コレで当てようと思っているなら絶対止める味である。

だが1年間、目を癒してくれた後の姿と思えば……まあ、ね。
という妥協の味である。それが豆だけで300グラム。砂糖と水分合わせて500グラム近く。ちょっとしたタッパーにミッチミチ。

言うと私の顔の脂を含んでいる可能性があるので、人に食わせたら1%くらいはカニバリズムだし、美味しいと言われたら複雑だ。
そんなお茶請けをモソモソ食うのである。緑茶によく合う。

ちなみに一人で全部食べたがお腹は壊さなかったので大成功だ。やったね!

結論:1年間、目を温めてくれたあずきは食えるけど、美味しくはない でもエコである

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