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この世の大魔王


僕はこの世の大魔王のことをよく知っています。それは「時間」です。「数字」と言ってもいいかもしれません。大魔王はやはり大魔王ですので、とても怖い存在です。毎日、毎朝、お母さんは「ひゃーもう、7:54だ〜」と言って家の中を駆けずり回っています。お父さんは怖い顔をして、時計を睨み付けたり、顔をしかめたりしています。4つ離れた弟はまだ大魔王の存在を知りません。

僕が大魔王の存在に気がついたのは、遠くの学校に通うようになっていからです。遠くの学校にいくのはとても不安でしたが、「大魔王との約束」さえ守っていれば何も怖いことはないということを知ったからです。何があっても「大魔王との約束」さえ守っていれば、恐るることは何もありません。

大魔王は僕のことをよく知ってくれています。なぜなら僕は「大魔王との約束」をきっちり守るからです。町の大きな駅の時計も確認し、おじいちゃんに買ってもらった腕時計でもしょっちゅう確認します。

だから、お母さんにも「大魔王との約束」についてもう少し説明して、もう少しお話してあげようと思っています。僕の頭の中で整理をしっかして、ゆっくり説明すれば、きっとお母さんも大魔王のこともわかると思います。また「大魔王との約束」を僕の様にきっちり守ることができれば、きっと大魔王もお母さんのこともわかってくれると思います。

でも、僕はなかなか整理して話すことができません。時間の数字ばかり先に話をしてしまいます。先日父兄参観日の日に、ざわざわしている教室で、パソコンに向かっていると急に頭が整理できて、パソコンの授業が始まる時に「あ!今なら説明できる!」と思って、お母さんに話しかけようと、お母さんの方を向いて話してあげようと思って、振り向きました。「お母さん!」「お母さん」「ちょっと!ちょっと!」と手招きしたのですが、お母さんは「目の前の事に集中して!!」といって手を振るばかりでした。

お母さんは「集中!集中!」と僕に言いますが、お母さんはやっぱり「大魔王」のことも「僕」のことも少々勘違いしています。説明が必要です。なぜなら僕は「集中」するのがとても得意だからです。

おわり

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