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桐生市の生活保護費不正支給問題のその後の動き

2024-03-26 23:10:07 | オンブズマン活動

↑桐生市役所↑

■社会を驚愕させた桐生市役所を舞台にしたこの人権軽視事件は、3月27日(水)午前11時から、第三者委員会の初会合が開催される運びになりました。この事件に関しては、当会の次のブログ記事を参照ください。

○2024年2月13日:桐生市生活保護不適切運用問題で、桐生市は第三者委の発足より関係職員の処分と刑事告訴を優先せよ

https://blog.goo.ne.jp/ogawakenpg/e/717aa1299c94723956b19e6a6ef5fa79

 そうした中、桐生市のこの生活保護費不正支給問題の先陣を切って追及していた伊勢崎市の司法書士の仲道宗弘氏が3月20日に急逝されるという報道がありました。次の報道記事をご覧ください。

**********東京新聞2024年3月23日08:02

生活困窮者を支援 仲道司法書士死去

 生活困窮者の支援に尽力していた群馬司法書士会副会長の仲道宗弘(なかみち・むねひろ)さん=写真、本人のX(旧ツイッター)アカウントから=が20日、くも膜下出血のため死去した。58歳だった。自宅は群馬県伊勢崎市。通夜は25日午後6時、告別式は26日午前11時半、いずれも同市太田町545の3、伊勢崎メモリードホールで。喪主は妻さゆりさん。

 栃木県足利市出身。2004年に司法書士登録し、09年に伊勢崎市で「ぐんま市民司法書士事務所」を設立した。13年には市民団体「反貧困ネットワークぐんま」を立ち上げて代表を務め、常に生活困窮者に寄り添った活動を続けてきた。

 最近では昨年11月、桐生市が生活保護費を1日千円に分割し、満額を支給しないという違法性が強く疑われる案件を告発。その後、申請を拒むいわゆる「水際作戦」や、不適切な支給事例が次々と明らかになり、市が謝罪して内部調査チームと第三者委員会の設置を表明するきっかけをつくった。(小松田健一)

**********

 仲道氏をよく知る当会の監事役員からは、「とても信じられない。くも膜下出血で58歳で逝ってしまうなんて。仲道先生には、前橋市の違法差押え問題について吉野晶弁護士と共に戦って頂き、差押え問題の講演も幾度となく誘って頂いた」とのメッセージが寄せられました。

 その群馬県司法書士会の副会長で、反貧困ネットワーク群馬の会長としても活動されていた仲道氏が3月7日に取材を受けて、3月13日にアップされたインターネットラジオ番組に出演時の音声を紹介します。仲道氏は、この中の9分30秒以降で、桐生市の異常性をいみじくも解説しておられます。

**********Dialogue for People 2024年3月13日

仲道宗弘さん「どうなってるの?桐生市の生活保護」Radio Dialogue 151(2024/3/13)

https://www.youtube.com/watch?v=zFgGF50bGXE

=====内容=====

冒頭でも皆さんにお伝しましたが、今日のテーマ「どうなってるの?群馬市の、あ、失礼しました、桐生市の生活保護ということで、3月7日に反貧困ネットワーク群馬の代表で司法書士の仲道宗弘さんにお話を伺った音声をここで皆さんにお聞きいただきたいと思います。

――改めてよろしくお願いいたします。あの、この群馬県の、桐生市の生活保護の対応について、特に昨年以降ですね、本当にいろんな問題が指摘をされていて、なんかもう、本当なの?これ、もうフィクションじゃないの?っていうことが、もう次々、具体的に 明らかになってきたと思うんですけれども、これまで明らかになってきたこと、非常にこう多岐に渡ると思いますけれども、どんなことが桐生市の生活保護をめくって発覚してきたんでしょうか?

これ、昨年の、私が初めて相談を受けたのが8月なんですね。で、初めて8月に相談を受けた時に、この方は1日1000円ずつしか生活保護費をもらってないと。で、8月の途中から生活保護を受けているけども1日1000円で、もう生活大変だし、暑いし、大体に、その、車っていうのは乗れないので、生活保護の場合。バスに乗って、その後歩いて、市役所まで行って、で、1000円ずつもらってます、って話聞いて、もちろんそんな冗談・・・冗談とは言わないけど、本当ですか?って思ったんです。

――そうですよ。あんまりにもひどいので、本当に起きてるんですか?って思いたくなりますよね。

いや、全くおっしゃる通りで、私は最初に人づてに聞いた時には、全くこれは信用できないというか、嘘じゃないかなと思ったので、1度ご本人とお話をさせてくださいと、いうことで1度ご本人とお電話でお話をして、毎日その1000円ずつ市役所に行ってもらってる。で、その前にハローワークに朝行って、で、ハローワークで仕事を見つけたっていうことを、ハローワークの職員にハンコを押してもらって、その紙を持って市役所に行くと、1000円、その場で支給される。で、金曜日だと土日分入れて3000円支給される。

――はい。

で、お電話でそういう話を聞いて、ちょっとこれは普通じゃないと。で、その 方にお目にかかった時に、確かにその方のメモに、1000円、1000円、金曜日3000円ってこう書いてあってですね。それにちょっと電気代とか水道代とかが、月末にその金額が支給される。請求書を見せると、そんな額が支給される、っていうことがハッキリしたので、その方と一緒に10月に窓口まで行って「一体これはどういうことですか?」と。そうしたら「本人の同意を得て私どもやっておりますので」って簡単にこう対応したもんですから、「本人にはこの間会ったけど、とてもじゃないけど同意はしてないよ」と。「冗談じゃなく、苦しくて堪らないと、そう言ってますけど」と。「私どもは同意を得てやってると認識してるので問題はないはずです」というふうに始まりました。

――なるほど、どうなんでしょう。ハローワークに行ったら1日1000円やるよっていう、その、日割りのやり方そのものも不適切ではないかと思うんですけれど、これ1日1000円となると、満額を、本来もらえる額を、満額を支給してなかったという扱いですよね?

まあ、この1人暮らしの方なので。この群馬県では各地によって生活保護費っていうのは、支給額は違うんですけども、群馬県桐生市では、1人暮らしの方で、50代後半ですけど、7万1千円ぐらいなんですね。これが生活費です。それプラス、家賃が出ます。で、7万1000円だとすると、1日1000円ずつで考えると、せいぜい3万円。電気代、水道代、ちょっと加えて3万5000円なんです。

――うんうん。

3万56000円って、半額ぐらいしか出てないっていうのは、残りはどうしているんだ、と。残りは、残りは預かっているのか?なんか、預かり証とか出ているのか?なんか、条件を満たすと、その預かり金が支給されるのか?まったく謎だったので、私は最初市役所に電話して「教えてくれ」と言ったら「ご本人にしか教えられない」と言われた。で、窓口まで行って「本人の同意を得ている。委任状もここにある」と言って、委任状を示して、こことかっていう質問、これ書面でも質問状で予め出してありましたけど。それを見せたところでも、「いや、ご本人の同意を得ているし、ご本人にしか回答できないんだ」と、こういうふうに言うわけですよ。で、私もさすがにこれはちょっとね、「冗談じゃない」と思ったので、ご本人と一緒に窓口まで行って、で、ご本人は「俺は同意なんかしてないと、何度もそう伝えているだろう」と、いうふうにそこで話して、こんな悶着がありましたけども、そこで今まで払われてない金額が払われたんです。

――ふうん。

8月の終わり・・・8月の途中から10月の初めぐらいまでの、払われてない金額。それは13万4000円ほどありまして。

――なんと。

払われた金額より多いぐらいですよね。

――そうですよね。ご相談を受けられた方以外にも、そうした不適切な支給の仕方だったりですとか、満額支給してないっていうことが、これまで発覚してきましたけれど、さっき、おっしゃったことに通じると思うんですけど、これ、満額支給してなかったとなると、これ、役所の中でその支給していない分のお金、どういう扱いにしてどういうふうに保管されてたのか、その辺りは何か分かっているんでしょうか?

今まで分かっていることは、市の発表は、これは桐生市のホームページにも載っていますけども、「手下げ金庫の中で現金を預かっていた」とされています。なので、「いやあ、本当か」と思ったんですけどね。私は、あの、帳簿上どういう処理がされているか、例えばそういう会計書類を開示させて、明らかにさせたかったんですけども、それについては「経理上は、要するに、市の会計上は、支給された形になっている」と。「だから支給されてなくて、支給はされている。7万1000いくらかは支給されている。でも実際には、そのうちの3万何千円しか渡していない。残りは金庫の中で預かっています」と。ええっ、そんなことあるのかっていったんです。この杜撰さ、酷さ。ちょっとそれは驚きましたね。

――いや、今のお話を聞いているだけでも、常軌を逸しているな、というふうに思うんですけれども。それ以外にも驚くべきことが次々と明らかになってきましたよね?例えば、これもかなり衝撃を持って受け止められたと思うんですけれども。ハンコ、これあの生活保護受けてる方の、そのハンコを大量に、これ、2000本近くというふうに報じられていますけれどね。この点については仲道さん、いかがでしょう?

もうね、「いかがでしょう」って聞かれても本当に答えようがない。

――そうですよね。

呆れる話で、例えば、これ私、あの、何本ですかっていうのは、新聞記者の方が質問したら、正直に「1944本預かっています」「いつから預かっていますか」「分からないです」と。「分からないほど前から預かっています」と。あの、これもね、本当に私、思いますけども、役所は土日やってないとすると、年間200日ぐらい。まあ、仮に開いていたとして、毎日1本ずつ預かったとして、年間200本預かったとすると、1944本預かるのに10年かかるんですよね。

――ほう、はいはい。

ばーっと計算すると。そんな10年、いや少なくとも毎日1本預からないだろうし、この7、8年預かってないというので、そうするともう20何年か前とか、30年前とか、そういう頃から皆から預かり始めて、それがいつしか1944 本貯まったと。生活保護を受ける人が、例えば、市役所まで行くのは、車なんか持っていないので、行くのが大変だから、内部的な書類については、預かったハンコを押すっていうのは全くないわけじゃないんですよね。まずその場で印鑑を預けて、で、職員が「こういう書類にハンコ押さなきゃいけないけど、ハンコ押していいですか?」というふうに確認して、で、本人が同意すれば押すことについては、問題はあまりないです。ただ、まず、市の説明だと「いつ誰の印鑑を預かったかすら、もうわからない」と。「少なくともこの7、8年は預かっていない」と。で、預けた方が生きているか、死んでいるかも分からない。そもそも誰かも分からない。ということで勝手にハンコを押すことが常態化している。で、それを押しても何の問題もないと思っているんです。えーとね、これもこういうお話で「ああ、なるほどそうですか」って言う人、いないんですよ。

――そうですね。いや、ちょっともう、理解が追いつかないレベルになっていますし。

そうです。

――そうなんですよね。やっぱりその他人の印鑑を、勝手に別の人に、こう、押したり、っていうことも報じられていて、ちょっとまあ、驚愕のことばかりが発覚をしてきた。もしかしたら、埋もれているものが、まだまだたくさんあるかもしれない、というふうに思うと、非常に恐ろしいんですけれど。まああの、どうでしょう、こう。それ以外にも、これは桐生市だけで報告されていることではないにしても。例えば、その生活保護の窓口で、例えば、申請書を渡さずに家計簿を渡して、「これで、1日800円で生きている人を見習って」みたいなことを言ってくるとか。あと、非常に担当者の高圧的な対応、まあ暴言と言っていいかもしれないんですけれども、そういった対応なども明らかになっていますが、この点については、仲道さん、いかがでしょう?

まあ、これは桐生市だけの問題じゃないですけどね。まずは、桐生市でも、お一人で行って、生活保護の申請に至った人は、そうそう、いないんですよ。これもね、本当に、あの、いろんなところで有名なんですけども、お一人でお金がない。例えば70代ぐらいのお年寄りで年金の額が少ないです、と。で、生活が苦しいです、と、月7万円ぐらいは支給されるはずなんですね。生活保護だと。年金が少なくて、月3、4万円ぐらいしかなければ、生活保護が受けられます。だけど、市役所に行くと「あなた、今まで若い時、何してきたんだ。ちゃんと仕事してきたのか?年金かけてきたのか?」と、こう始まるわけです。

――説教から入るんですか?

そうそう、そういうこと。そういうこと。で、私の、えーっと、一緒に同行した方は「あなたの親は、あなたにどういう教育したんだ?」と。亡くなった親子さんのことをね。「あなたの親子さんはちゃんとね、将来自分で生きられるような教育をしたのか?」っていうようなこと延々と言って、「本当にもう2度とあそこは行きたくない」と、言っていた方もいました。私、その方と一緒に生活保後の申請にね、先日行ってきましたけど。

――ええ。

そういうふうに発言した人物に謝罪を求めましたけども、奥の方にいて、出てきませんでしたけどね。あのう、これは、桐生市はよくあります、本当に。桐生市だけじゃないけど。桐生市では、こういった対応は日常だったようです。

――そう、でも、生活保護って、やっぱりこう最低限の生活を保証するもの、人権の最後の砦になり得るようなものかもしれない。で、その窓口で、ご本人だったり、ご家族の人間性を否定するようなことを、平気で言うわけですか?

そう。平気で言うんですね。DVで逃げてきた女性が、DVで逃げてきた 元々のところに家具が置いてある。そうするとDVで逃げてきた、元々家に家具が置いてあって、今逃げてきた先には家具がほとんどない。「生活の実態がどっちにあるかわからないから、はっきりしない限り、申請できない」っていう対応もありましたね。

――は?

これもね、あの、DVで逃げてきたっていうのは、家具なんか持ってこれないんです。

――そりゃそうですよね。

これは常識で、普通は分かるんです。で、DVで逃げてきたその先は桐生だし、DVで逃げる元のところも桐生でしたけどね。

――うんうん。

そういうふうに逃げてきて、別にどっちに生活の本拠があるかなんて問題じゃないんです。毎日寝泊まりしてるのは逃げてきた先。これはもう明らかに本人がおっしゃってること。そして、それを調査すればすぐ分かるので。で、「今住んでるところで生活保護の申請をしてください」と言えば済む話だけど。「本拠がどこにあるか分からない。いずれ家具を取りに行くんでしょ?だからそっちに住むかもしれないね」などと言って申請を拒む。

――ええっ?

もうね、あの、いくらでもあるんですよね。お一人で行って、全く同じ話をして、私が一緒に行った時も前回と全く同じ話をして、「前回は保護が通らなくて、なんで今回、本当保護は通るんですか?」っていうふうに質問した方もいました。職員は黙り込みましたけどね。

――それはそうですよね。いや、ちょっと、あまりにも、被害だったり生活保護の実態と、窓口の対応がかけ離れているし、そのDVの専門家でなくても役所の言ってる方が、いかに非現実的かっていうのは分かると思うんですけれども。

そうですね。

――いや、あの、あとですね。また、ちょっと、生活保護の話に戻りますけれども、これもこう報じられているところですが、介護が必要になった方が、この桐生市外の、桐生市のかただったんですけれども、桐生市の市外の介護施設を紹介された。その上で、例えば、その市外に転出するとなると、じゃあ、生活保護、こう、違う自治体に移管しますね、っていう、手続き取られると思うんですけれど、そうではなくて、辞退させたというケースが報じられています。これは、仲道さんいかがでしょう?

これ、私、もう9年も近く前ですけども、この当事者の方からも、相談、当時受けたし、その手続きがなされたってのは、ちょっと後で聞きましたけども、確かに間違いなくなされたようです。この事例は本当にひどくて、まあ、報道されている通りなんです。「報道されてるいのは大げさだろう」と思う方いるかもしれないけど、何ひとつ、事実に間違いないです。あの、本当に、食うや食わずで、お一人で暮らしていて、体調が悪くて、動けない方。近所の方が見かねてですね、やっぱり保護の相談に行った方がいいと。で、お子さんにそのことを知らせて、お子さんが相談に行く。それでも全然取り合わない。申請書くれないで、家計簿だけ渡す。「1日800円で暮らしている人がいるんだよ」なんてことを言われる。で、病院関係者の方が一緒に2度ほど、一緒に行ったけども、保護の申請に至らない。で、最終的に私が、もう9年も前ですけど、一緒に同行して、保護の申請に至ったんですね。で、体調が悪いから施設に入らなきゃいけないと、いうことで、なぜか「桐生市内の施設はどこもいっぱいだ」と向こうは言って、「他の市なら空いています。じゃあ他の市に入ってください」として他の市の施設に入れて、で、なぜか辞退届けを書かせると。で、もう本当に言われるがままに、するしかないんですよね。お子さんとしては、わけは分からなくて、もう一方的に言われる、責められる。で、「なぜ保護受けたか分かるか?」と。で、「それは、生活が大変だからです」っていうふうに答えると、「そうじゃない」と。「あなたのお父さんの社会性のなさだ」っていうふうに一方的に決めつけて、役所の中で、周りに人がいるところで 大きい声で言う。やっぱりそれはもう、言われるがままにしないとお父様の命がかかっているから。で、結局、あの、「他の市に行ったから、桐生市では保護が受けられないから、ここで辞退届けに書いてください」と言われて、それを書いた。

――ま、とにかく「出てってくれりゃいいや」みたいな、そういう対応ですよね。

そうです。だから、保護を受ける人はどんどん減らしたいんですよ。あの、職員の数はどんどん減らしたので、「職員が大変だろう」っていうことで減らしてるのか、財政的に大変だから減らしてるのか。ただ、財政っていっても国から4分の3、出ているお金ですから、こんなにね、市は大変だってこともないと思います。

――なるほど。いや、なんか今の話、私、今、いわゆる反社会勢力の話をしているんだろうか?っていうふうに、聞き間違えてしまうぐらい、「えっ?これ役所の対応なんだっけ」っていうふうに、ちょっと頭がクラクラするんですけど。どうでしょう?これ。さっきの、生活保護の申請書を渡さない。暴言を吐く、等々、ハンコのことだったりですか。満額支給しないとか、いろんなことが発覚する中で、どうでしょう?これ、違法性はないのか。その違法性の認識って、市にあるのか?だったり、その点についてはどうなんでしょうか?

私の考えは全部違法だと思いますけど。まず、最初の1日1000円ずつの方にしても、他にも1週間に7000円の方も、2週間に1万4000円ずつ渡される方もいます。全額支給しないのは、これは最低限度の生活を国が決めて、桐生市では生活保護費7万1千いくらで決めているのに全額渡さない。これだけでも違法です。だけども市の方は「違法である」と認めたことは、今まで一度もないですね。分割して全額支給しなかった。これを「違法だ」とは認めない。それから「窓口でそんな大きな声は出して覚えがない」。それから「申請書渡してくれと言われれば、当然渡したけども、本人がそこまで申請はしなかった」っていうふうに、全て回答しています。

――あのう、申請書を受け取らなかったのは、本人の意思である。で、例えば、大声を出したっていうのは、「自分たちはやっていない。嘘をついているだろう」っていうような、そういう態度なわけですけれど。さっきの「出ていって、もう出ていって欲しいんだろうか」みたいな話にも通じると思うんですけれども、先ほど少しご指摘いただいた通り「とにかく、まあ、桐生市としては、生活保護を受けている世帯を減らしたいんじゃないか」と。で、実際、その、どうなんでしょう。その桐生市で、受給人数、人口あたりの受給者の割合だったり、やっぱり明らかに減っているというのは、数字でも見て取れるものなんでしょうか?

そうですね。あの、数字では本当に大幅に減ってまして、2011年度は1163人、保護を受けている方、いましたけども、2022年度、直近の調査だと2022年度は547人なので。

――おお、激減。

はい、半分以下に。

――そうですね。

だからこんなに減らしたところっていうのは、そうそうないんですよね。あの、リーマン・ショックの頃に保護の申請は増えました。で、その後少し減りましたけども、あの、コロナ禍の時に保護の申請数っていうのは、全国的には増えた。今も増え続けています。で、群馬県内でも他の市では、概ね申請件数は横ばいから増えていくんですけども、桐生市は、まだ、こう大幅に半減していると。桐生市ほど減った自治体っていうのは、そうはないです。

――これ、その明らかに異様な減り方なわけですけれど、桐生市としては、自治体としては、なんで減っているのか。どういう説明をされているんでしょう?これ。

桐生市の説明は、一貫として、「保護を受けている人は高齢者が多いので、高齢者が亡くなっていきました」っていう。

――すごい勢いで。

はい。だから高齢者がダーって亡くなってく。ま、もちろん高齢者、亡くなっていきますけども、新たに保護を申請する人は増えていくわけだから、全体として、ものすごく減るっていうことは、普通どこの市でもないんですよ。桐生市の説明は「受給者が亡くなっていきました」これが説明です。これだけです。だから、申請している数がなぜ少ないのか、あるいは、申請して却下だとか取り下げだとか、途中で辞退だとか、そういった数が多いのに、その多い理由について説明することは全くないです。

――あの、この明らかに人数が激減していることに対する、その言い分っていうのも、非常に不自然ですけれど。どうでしょう、これまでこう説明していただいた一連のケース。ハンコだったり、満額支給していない、日割り。パワハラ的な対応だったり、そうしたこう発覚した数々について、桐生市としては、担当の部署と言ってもいいのかもしれないですけれど、何かこう、具体的な説明をしたりですとか、あるいは、具体的な対処はこれまでしてきたんでしょうか?

――あの、これが発覚したのは、昨年の11月に、私が所属している群馬司法会の方で文書を出して、桐生市の方にこれは要請したわけですけども、その後12月の18日に市の方は「今までのは、不適切だ」という、私からすれば違法ですけども、そういった点については説明をして、私どもは問題にした事案を、3つの事案がありまして、その事案については「こういった経緯で、こういった不適切がありました」ということをホームページの方で発表しています。

――うん、うん。

ただ、発表していますけども、ま、確かにその本人にも謝罪をしたり、とか、あるいは、全額支給してなくって、市の方が預かっていた公費は渡しました、とか、色々書いてありますけども、この説明だけでは全く納得できない。「本人が同意したから全額渡さなかった」、「本人とこちらの間に認識のずれがあった」あと、「こちらとしては適切な対応した、という記憶だったけども、本人の方にそれが伝わらなかった」などというようなことが、まあ、つまづま書いてあります。でも、これはどう考えてもですね、全額渡さないとか、あるいはその最初に申請を拒んだり、あるいは申請してから保護費を渡すまで50日もかかったり。

――ええっ?

あのですね、これもう、本当に信じられない案件があるんですけども。

――2ヶ月近くですか?待たされるんですか?

ええ、そうですね。で、役所の方は「本人が来るの、待っていました」で、「何言ってだろうな」ってやっぱ思うんですよ。そういうのを聞くたびにね。

――はい。

「来ると聞いてましたから、来るのを待ってました」で、「50日近く経って来ないので連絡、電話させていただきました」だから、そうじゃないんですよね、やっぱり。感覚が全くずれているんです。「自分たちは違法だ」とかいう認識は何らないんですよ。で、それは公務員っていうのが皆さん全員そうだ、と私は言わないんだけども、「日常的にこれが当たり前だ」と継続してやっている。業務が、実はいつしか不適切だったり、違法になっていたり、っていうことはあり得ることです。で、それは市民から指摘されれば、それを正さなきゃいけないし、で、その例えば、この生活保護の問題なら、市でやっていることを県が監査して、で、不適切なところは正さなきゃいけない。あるいは厚生労働省が関わって厚生労働省の査察なりをして、正さなきゃいけない。ただ、そういったことを「今まで県は何をやってきたのかな」って私は思いますね。もう何年も前から大幅な減り方もしているし、問題事案を市議会議員なんかが告発しているのに、なんら改善されなかった。まあ、市の説明はホームページをご覧いただければ分かりますが、これ読んで納得できる方いないと思います。

――いや、本当に、仲道さんたちが関わった、その個別の事案が非常に特異だったケースではなく、本当に長年にわたって構造的に、しかもエスカレートしていくような形で繰り返されてきた問題という意味では、これも「市がホームページにチョロッと載せて終わり」ではなくって、やっぱり、第3者委員会のような形で、もう徹底的にその根本問題に切り込んでいく。いわゆる膿を出し切る、ですよね。が必要だと思うんですけれど。この点については、何か進んでいるんでしょうか?

あの、当初の市の発表だと、昨年12月、市長が知者会見した席では、「今年1月に第3者委員会を組織して調査するんだ」と。で、「それまで内部調査もいたします」と、いう話ですから、昨年12月から内部調査は始まっていて。今年1月に第3者委員会ができるという予定だったと。で、これまで内部調査の結果の中間報告などはただの一度もないです。それから、今年1月に組織されるはずだった第3者委員会は、今、3月の初めですけども、未だにできてないですね。

――えっ!

で、これも、ですね、いつ作る気があるのか。「今、あの、人選しています。人選しています」と1月の末日に私どもが問い合わせた、1月31日に問い合わせたら、第3者委員会設置要綱っていう紙をペラッと渡されて、1枚の紙。で、「第3者委員会は以下の通り設置する」っていうんで、設置要綱がちょっと書いてありましたけども。ま、その時には「委員は4名、4名以内とする」とか、「学者とか、あの、行政経験者とか、弁護士とか、そういうところから選ぶ」とかっていうことは、ただ書いてあっただけで、「今人選中です」っていうのを2月中ずっと言ってて、まだ、人選中のようですけども。

――ほう、検討に検討を重ね。

あ、そうですね。だから。

――でも、「1月中に第3者委員会を立ち上げる」が、まさかこう「要綱だけを制定する」だとは思わないですよね。

そうなんですね。私は、要綱は昨年中に作ろうと思えば簡単に作れた話だし、その人選っていうのは、例えば弁護士会なら弁護士会に人選をお願いする、社会福祉なら社会福祉会に人選をお願いする。で、学者であれば県内の、あるいは県外の大学等にそれを、照会をかける。そんなに大変な話じゃないと思いますね。

――そうですね。

だから、それが今もできないでいる。で、だんだんこういったことを関心が皆さん失われてくるかもしれないし、忘れてきて、ほとぼりが覚めれば、また、ただ元に戻るだろう、というふうにしかね、ちょっと思えないところあるんですよ。

――そうですね、本当に、こう忘れられるのを待っているかのような態度ですけれど、一方で、県の、県により、その特別監査が続いているということ、報じられていますが、県としても、もっと早く具体的な対処ができたはずだろう、ということも、あると思うんですけれども。それも含めて第3者委員会の早期設置というのは、まず、必須だとしても、今後、桐生市としては、自治体としてはどういう対応を取るべきだというふうに仲道さん、考えていらっしゃいますか?

私はまず、今までの起きた事案について、これはもう第3者委員会の調査に、ただ委ねるんでなくして、自分たちもですね、全ての資料を出した上で、自分たちは内部調査をしているんであれば、その結果をしっかりと、中間報告をしながら、違法であったかどうかということを、主にね、調査するべきだと思うんですね。自分たちがやっていたことは、いつしか違法だったんじゃないかっていうふうに、違法性があったかどうかを、明確にまず、調査をした上で、今、その窓口に行ってですね、申請をしようとすると、前よりも少し対応が優しいんですけどね。

――うーん、問題が発覚した後だからって、いうことなんですかね?

そうですね。あの、毎日のように相当数の抗議の電話があったようなので、今、少し対応が優しくなっていますけども。彼らとしてはですね、困難なケースもあると思うんです。例えば、お金を管理しなきゃいけないっていう風に彼らがなぜ思い始めたのか。依存症などで、あっという間にお金を使ってしまうような人は仮にいたとすれば、そういった方は依存症の対応を、医学的に、あるいは福祉的にしなきゃいけないので、困難なケースが生じたら、法律専門家とか、福祉の専門家だとかと連携しながら、対応を取ればいいんですね。彼らには、そういうふうに外部とちゃんと連携しよう、っていうところがあまりないんです。それともうひとつは、やはり職員が、ですね、何が正しい対応か、何が誤った対応か、厚生労働省ではこの点どう言っているか、こういったことをちゃんと研修を受けながら学ぶ必要があるんですよね。だから私は、今までの案件は、まず市民からですね、広く調査して、「相談に行ったけど追い返された」とか「保護の申請をしたけど、取り下げを求められた」とか、そういった案件は徹底的に市民からまず調査をする。で、市民からの調査を自分たちもちゃんとした上で、その1つ1つの事例を、第3者を交えて検証する。で、違法な対応というのはなぜ起きたのか、ということをしっかりと認識、把握した上で、今後は、困難なケースは、民間の法律専門家や福祉の専門家なんかと連携しながらですね、チームを組んで対応する。それと職員については、しっかりとした研修を、あの、定期的に行って、自分たちの行為が違法にならないかどうか、これを常にチェックする必要があると思います。そういったことをやっていればですね、こういったことはね、起きないんですよ。で、他の市でも、もちろんいくらかの問題はあるんだけども、全額渡さないなんてことはちょっと考えられないことです。もう本当に、恫喝するのもそうだけども、あるいは、申請を拒むような対応もそうだけども、保護を受けているのに全額もらってない。市が預かっている。でも、市の経理上は全額渡したことになっているなんてことは、普通は起きちゃいけないことなんですよね。

――いやあ、本当に前代未聞と言ってもいいかもしれないですけれど、やはりそれをナアナアにして、また、ほとぼりが覚めましたね、世間の関心離れましたね、じゃあ元に戻っていいや、っていうふうにさせないために、今ちゃんと、根本部分に切り込むということが不可欠だと思うんですが。

そうですね。

――あの一方でどうでしょう。先ほどの、例えば窓口で申請させないみたいな、いわゆる水際作戦ですよね。で、これはもう桐生市に限らず起きてきたことというのは、先ほど仲道さんもおっしゃった通りだと思うんですけれども、それを踏まえると、特段、桐生市の対応がひどかったというのもあると思うんですけれども、もっと大きな枠組で見た時に、生活保護、最低限の生活を保証するという仕組みだったりです、とか、そこに当てられる予算や人員かもしれないですけれど、今後どういうこう改革が必要なのかっていう点については、最後に仲道さん、いかがでしょう?

そうですね。あの、市の職員、桐生市の職員に限らず、他の市でもそうですけども、生活保護の担当職員に本音を聞いてみると、「これは国が直接やってくれないかな」っていう方いるんですよね。「我々はその、国から委託されて、こういったことやっているけども、本来、国が直接やってくんないかな」なんていうふうに本音言う方もいるんですよ。あの、私はでも、国が直接やるって、現実にできるかできないかはともかく、市の職員はですねもちろん人員が少なくて1人あたり100人ぐらいの保護の受給者を抱えている。100人とか150人とか。で、本当にその窓口対応でも疲れ果てているような方もいらっしゃるし、だけども、人員をね、ちゃんとやっぱり増やしていく、というのは、1つまず必要であるということと、職員がしっかり研修を受けて教育を受けて、自分たちのやっていることが違法でないかどうか確認する、というのも必要だし、私はあと、その、ですね、生活保護の仕組みそのものも、ちょっと考えなきゃいけないのは、手持ちのお金が本当に2万だ、3万円だとかにならない限り、申請ができないような状況だったり・・・。

――そうですよ。もうギリギリ、もうもう生きられないっていうところまで 追い詰められないと受給資格と言いますか、申請できないっていう構造になっていますよね。

そう。ま、やっぱりそこは法律を変えた方がいいと思うんですね。例えば10万円、20万円ぐらい持っていて、でも仕事が今ありませんと。生活が来月どうなるかわからないと。今10万円ぐらいは、20万円ぐらいはある。でも来月の今頃、再来月の今頃は分からない、っていう時に、あらかじめやっぱり受けられるような仕組みが必要なんじゃないかな、と思いますね。それと、生活はギリギリやれるけど、病院代がないっていうような人。これは医療だけは無料で受けられるようにすると。あともう1つは、これはもう東京と都市部で全く違うんですけども、例えば桐生市もそうだし、私がいる伊勢崎市っていうとこもそうですけども、自動車がないと全く生活ができない場所です。

――でも贅沢品のような位置付けになってますよね。

そうですね。私、あの、日常的な生活の足として自動車を生活保護の方が持つことは、やっぱりもうちょっとこう、要件をね、緩くして認めなきゃいけないと思いますね。そうじゃないと、車上生活を選ぶ人もいるぐらいです。地方に行くと大きな道の駅っていうのがあって、その広い駐車場の一角で生活している人いるんですよね。アパート代はもう払えない。でも車がないと暮らせないから、車の中で寝泊まりし、で、ギリギリの生活をしている。こういった方はね、やっぱり健康でもなきゃ、文化的でもないですよ。生活の水準としてね。やっぱりそういった方が自動車を手放さなくても生活受けられるよう、生活ができるように、生活を受けられるように、国の仕組みを変えた方がいいと思いますね。だから、単なる生活保護っていうような本当に最後の最後にこれしかないんじゃなく、もう少し間口を広げて、あるいは、その要件を緩やかにするなり、広い意味では、生活保護じゃなくて、生活を保証するという大きな枠組の法律を作って、こういった場合は家賃だけ出ますとか、こういった場合は医療だけ無料で受けられますとか、生活費がない時にはいくらか手持ちのお金があっても受けられますとかね。変えてくことは必要だと思います。

――その大きな枠組をどうしていくのか、という議論もやはり待ったなしで進めていくべきですし。で、そしてやはり、桐生市が、ほとぼりを覚めさせないということですよね。それにやはり、桐生市民からの目というのが、関心というものが不可欠になっていくと思いますので、引き続き私も注視していきたいと思います。

はい、そうですね。あの、このケースは最悪。本当にひどかったケースですけども、今、生まれ変わってね。例えば本当に制度を改革するきっかけになるかもしれないし、あとは、その困難なケースが生じたら民間の専門家なんかと一緒に解決するっていう、そういうチームを作れるかもしれないし。ある意味ではチャンスかもしれないです。そういう意味でやっぱり我々外部の専門家も取り組まなきゃいけないと思いますね。

――本当にそれを具体的な変化として、どういうふうに落とし込んでいくのか。それも含めて私たちも見ていきたいと思います。

はい、ありがとうございます。

――仲道さん、ありがとうございました。

ええ、とんでもないです。ありがとうございました。

**********

■このように桐生市の生活保護制度不正運用について、実際に長年にわたり被害者に寄り添っておられただけに、この問題の本質について、的確な視点でコメントされていることがわかります。

 併せて、この問題に当初から取り組んでいる東京新聞のシリーズで特集した記事を次に紹介します。

**********東京新聞2024年2月16日17:00

首都圏ニュース【連載・砂上の安全網】

 生活保護は「最後のセーフティーネット(安全網)」とも呼ばれる。国民の生存権を保障した憲法25条を根拠とする制度だからだ。しかし、桐生市では保護費を1日1000円に分割した上に満額支給しなかったり、受給者から預かった印鑑を無断押印したりするなど、違法性を強く疑われる運用が表面化した。黒田さんの体験から問題点を洗い出す。(この連載は、小松田健一と福岡範行が担当します)

<砂上の安全網 ①>

これが生活保護の水際作戦…電気も水道も止められているのに「家族で支え合って」と突っぱねた市職員

 「お父さんが大変なことになっているので、すぐ見に行ってください」

 2015年7月、群馬県桐生市に住む黒田正美さん=仮名=の携帯電話が鳴った。声の主は同市福祉課の職員だった。

◆木くずで起こした火で煮炊きしていた父

 当時、黒田さんは30代後半。父の杉本賢三さん=仮名、当時(61)=と市営住宅で同居していたが、結婚で独立し、杉本さんは単身生活を送っていた。駆け付けると、ライフラインは全て止められ、石油ストーブの燃焼筒に外で拾い集めた木くずを入れてマッチで着火し、わずかに残ったコメを煮炊きしていた。窮状を見かけた近所の住民が市へ通報したのだという。

 杉本さんは料理人として働いていたが、心臓疾患などによる体調悪化で就労困難な状態が続いていた。黒田さんは市福祉課に相談したが、「家族で支え合って」「実家に戻りなさい」と相手にしてもらえなかった。同年8月、杉本さんはやむを得ず市内の実家で暮らす妹、黒田さんにとっては叔母の家に身を寄せる。

↑黒田さん(仮名)が書きとめていたメモ。父親の困窮と桐生市の対応が記されている↑

 しかし、以前から折り合いが悪かったため、杉本さんは母屋に入れず、隣接する廃工場に身を置いた。猛暑で知られる桐生市でエアコンも風呂もない住環境は、ただでさえ万全ではない体力を奪った。

◆「家計簿をつけて」「1日800円で生活」

 叔母は無職、黒田さんは当時子育て中で働いておらず、夫の収入も父親を養うだけの余裕はなかった。窮状から脱するには生活保護以外に道はなく、黒田さんは父と叔母の生活保護を申請するため、市福祉課を訪れた。しかし、担当職員は「1カ月、家計簿をつけてください」と告げる。「生活保護を受けている人で1日800円で生活している人もいる。見習うように」と申請させなかった。いわゆる「水際作戦」だ。

 さらに、同課職員が自宅に来て夫の通帳を見て収入を確認し、家賃や車のローン残額などを聞き出した。「なぜそんなことまでされないといけないのか」と憤ったが、ここで職員の機嫌を損ねたら、さらに不利な扱いを受けるかもしれない、という懸念から何も言えなかった。

↑群馬県の桐生市役所↑

 見かねた友人から、黒田さんは困窮者支援に取り組む仲道宗弘司法書士(群馬県伊勢崎市)を紹介され、窓口に同行してもらったことで、同年9月にようやく保護が決まった。

◆暴言「社会性のなさから生活保護になった」

 その際、担当職員は窓口で黒田さんに「お父さんの社会性のなさから生活保護になった」と、大声で暴言を吐いたという。窓口は個室ではなく、執務フロアで周囲に大勢の職員や他の来訪者もいた。黒田さんは「悔しくてたまらなかった」と振り返る。

 黒田さんは仲道司法書士の助言で、一連の経過をメモで記録していた。

 「町でぐうぜん父の姿を見かけ、びっくりする。ホームレス状態」「市へ電話をすると、『家族で支え合って』『実家にもどれ』の一点ばり」

 生活保護が決まってからも、杉本さん、黒田さん父娘にはさらなる試練が降りかかった。

**********東京新聞2024年2月17日17:39

<砂上の安全網 ②>

「市を訴えるってこと?」・・・福祉課職員に怒鳴られた娘、尊厳否定され死んだ父 生活保護めぐり心に傷

 2015年9月、桐生市からの生活保護受給が決まった黒田正美さん=仮名=の父、杉本賢三さん=同、当時(61)=は、直後に心臓疾患の治療のため市内の病院で手術を受けた。

 退院後に実家の廃工場に戻れば、再び体調を崩しかねない。主治医は施設入所を勧めた。ただ、桐生市が提示したのは前橋市北部の介護施設だった。桐生市内から車で1時間以上かかるため、子育てに追われる黒田さんは難色を示して近隣施設の紹介を求めたが、担当者に「桐生市内はどこもいっぱい」と断られた。

◆保護辞退届書かされ、居場所と収入失いそうに…

 担当者はさらに、杉本さんの生活保護を廃止し、前橋市で改めて申請するよう求め、黒田さんに保護の辞退届を代筆させた。受給者が転居する場合は「移管」手続きで、保護が途切れないようにするのが通例だ。黒田さんは釈然としなかったが、制度に関する知識が乏しかったこともあって、父を施設へ入れることを優先し受け入れた。

 ここで問題が生じた。入所に必要な桐生市の介護認定手続きが未了だったため、施設に入所を断られる。居場所を失うばかりか、前橋市から生活保護を受けるまで一時的に完全な無収入になってしまう。

 辞退届は入所と引き換えだったため、黒田さんは電話で桐生市の担当者に辞退の撤回を懇請する。しかし、担当者は「施設のご案内をしただけで入れとは言ってない」などと話し、らちがあかなかった。

◆担当者との間に存在する上下関係

 黒田さんが書き残したメモにはこうある。

 「○○(担当者氏名、メモでは実名)黒田さんは何をしたいの? 桐生市をうったえるって事?」

↑保護の辞退届撤回を求めた黒田さんに、担当職員が「桐生市をうったえるって事?」と詰め寄る様子がメモに記されていた↑

 「そうやって○○さんとかにせめられてつらくって市に行く事やtelがくると調子が悪くなっちゃうんですよ」

 黒田さんは市福祉課の窓口でも、他の来訪者や職員に聞こえるような大声で怒鳴られたことが複数回あったという。「(担当者と自分に)上下関係が成立していて、逆らえなかった」

◆「まだそんなことをやっていたのか」

 杉本さんは施設入所後に若年性認知症を発症し、17年5月、63歳で亡くなった。黒田さんは一時、市の担当者から電話がかかると体が震えるほど強い精神的ダメージを受け、これまで父のことでは家族にも口を開くことがなかった。

 しかし、昨年11月、生活保護費を1日1000円しか渡さなかった事例が報じられると「まだそんなことをやっていたのか」と驚き、尊厳を否定された父の無念を晴らしたいと取材に応じた。

 桐生市は昨年12月、制度運用に問題があったと認めて荒木恵司市長が謝罪し、内部調査チームと第三者委員会の立ち上げを表明した。黒田さんの事例について小山貴之福祉課長は「記録が廃棄されており、詳細な把握が困難な状況。引き続き調査し、第三者委員会や内部調査チームに報告したい」とコメントした。

 黒田さんは「今ならば、あのころの自分に『もっと周りを頼りなよ』と言う。表面化した問題は氷山の一角と思うので、第三者委員会で徹底的に調べてほしい」。

**********東京新聞2024年2月18日17:00

<砂上の安全網 ③>

生活保護、水際作戦が常態化? 桐生市の「異様さ」がデータで見えた 「最低水準」の背後に何があったのか

 群馬県桐生市に住む黒田正美さん=仮名=が、父・杉本賢三さん=同、2017年5月に63歳で死去=の生活保護を申請しようとした際、司法書士が窓口に同行するまで、市がかたくなに申請を拒んだことは前回までに詳述した。いわゆる「水際作戦」に、黒田さんは「父が救いを求めたとき、親身に対応してくれればもっと長生きできたと思う」と、悔しさを語る。

◆「保護率」2011年から10年で半減

 桐生市は10年ほど前から、生活保護を開始した世帯の割合が群馬県内の他市に比べて明らかに低い状態が続いてきた。生活保護の申請を受け付けた割合も、同時期から低水準が続いた。水際作戦は常態化していた可能性があり、研究者やケースワーカーでつくる「生活保護情報グループ」と本紙が連携し、県作成の資料から分析した。

 桐生市は、人口に対する生活保護受給者の割合を示す「保護率」が11年度をピークに一貫して低下し、22年度までにほぼ半減した。11年連続の低下は県内の市で唯一で、受給者も11年度の1163人から、22年度は547人と半減した。

 生活保護の申請や開始は世帯単位で行われる。分析では、申請や開始の件数を当時の世帯数で割って、各市の推移を比べた。

 結果、桐生市は申請、開始ともリーマン・ショックの影響が現れた09年度ごろは県内トップクラスの水準だったが、11~14年度に大幅に低下し、最低水準に定着した。申請を受け付けても開始に至らないケースも相次いでいた。

 一方、生活保護を受けた世帯数に対する保護廃止の割合は、記録を確認した05年度以降ずっと県の平均値に近かった。

 生活保護情報グループのメンバー桜井啓太・立命館大准教授(社会福祉学)は「急速に申請、開始が減っている。窓口に相談に来た段階で申請する意思をくじくような説明をするなど、申請権の侵害がなかったかを総チェックする必要がある」と指摘する。生活保護の受給者らへの市の厳しい対応が知られていたことで、相談に行きづらい雰囲気があった恐れもあるという。

◆「数字をコントロールしたことはない」と桐生市

 近隣地域は、主な産業や高齢化率などが似ているため、保護率や保護開始の割合などは似た推移をたどりやすい。桜井准教授は「保護率を見ているだけでも桐生市の異様さは分かる。県の監査が形骸化していなかったかも検証が必要だ」と、県の桐生市に対する指導姿勢も疑問視した。

 市福祉課は保護率が低い理由について、昨年12月18日と今年1月15日の記者会見で、それぞれ「高齢者世帯の死亡などによる保護世帯の自然減によるもの。数字をコントロールしたことはない」とコメントしている。

**********東京新聞2024年2月19日17:00

<砂上の安全網 ④>

生活保護の「水際作戦」の背景には偏見 国はマイナンバー並みの熱意で「正しい理解」の普及に努めるべき

 桐生市による生活保護制度の不適切な運用をめぐっては、同制度が憲法に基づいた国民の権利であるという根幹部分への無理解が浮き彫りとなった。生活困窮者支援の活動に取り組むかたわら、フリーライターとして精力的に生活保護をめぐる問題の取材を続けている小林美穂子さん(55)=前橋市出身=に、一連の問題の背景などについて聞いた。

◆「自分たちがルール」と言わんばかりの運用は憲法無視

ーー生活保護費を「1日1000円」に分割した上、決定額を満額支給しなかったり、持ち主が分からない印鑑を職員が書類に無断押印したりするなど、桐生市で明らかになったさまざまな問題点をどう考えますか。

 「多くの自治体へ生活保護の申請に同行した経験を踏まえても、桐生市の対応は突出しておかしなことばかりです。憲法や生活保護法を無視して『自分たちがルールだ』と言わんばかりの運用がされていたことに驚きました」

◆人員不足で「申請を受け付けない」力学が働く

↑生活保護制度の課題などについて語る小林美穂子さん=東京都練馬区で↑

ーー桐生市の例は典型ですが、生活保護を求める人を窓口で拒んで申請させない「水際作戦」は、なお後を絶ちません。なぜでしょうか。

 「まず、生活保護の実務を担当するケースワーカーが慢性的な人員不足で、過重労働に陥っていることが挙げられます。厚生労働省はケースワーカー1人当たりの受け持ち目安を80世帯としていますが、実際には100世帯を超えることも珍しくありません」

ー-生活保護制度が複雑なことも、職員の負担を重くしていますか。

 「その通りで、処理しなければいけない書類が非常に多く、心理的、身体的な負担を軽くするため、申請を受け付けないようにするという力学が働きます。職員の増員が必要です。多忙ゆえに制度や人権に関する研修が不十分で、十分な知識を蓄積できない問題もあります。制度利用の要件を満たしている人のうち利用している方は現状で2割程度です。必要な人にすべて行き渡らなくては制度の意味がありません」

◆国会議員によるバッシングが偏見を助長した

ー-生活保護制度には「楽をしてお金をもらっている」といった誤解や偏見が根強くあります。なぜでしょうか。

 「以前から『働かざる者食うべからず』といったスティグマ(他者が押し付ける負のイメージ)はありましたが、2012年ごろに一部の国会議員が制度利用者に対して激しいバッシングを行い、より助長されたように思います。群馬県のように保守的な地方ほど、その傾向は強いと感じています」

 -制度の改善にはどのような施策が必要でしょうか。

↑群馬県桐生市役所(資料写真)↑

 「短期的には、国がマイナンバーカードの普及宣伝と同じぐらいのエネルギーを注ぎ、生活保護制度に人びとが正しい理解を得るよう努めてほしいと思います」

 「中長期的には、現在は生活扶助や医療扶助などが全てパッケージになっていますが、個人の事情に応じ、例えば住宅が必要な人には住宅扶助だけを実施する『単給』を導入し、より利用しやすくすることが必要だと考えます。負のイメージが定着してしまった生活保護という名称も変えていく必要があるでしょう。市民のスティグマ解消や人権意識の底上げも必須です」

〇小林美穂子(こばやし・みほこ) 前橋市出身。幼少期をインドネシアやケニアで過ごし、成人後はニュージーランド、マレーシアで働き、帰国後は自動車会社の通訳者となる。2014年から生活困窮者支援団体「つくろい東京ファンド」(東京都中野区)のスタッフを務める。単著に「家なき人のとなりで見る社会」(岩波書店)、共著に「コロナ禍の東京を駆ける」(同)がある。 

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■そして、令和5年度末ギリギリとなったこの期に及んで、桐生市は第三者委員会の開催にこぎつけたのでした。

**********東京新聞2024年3月22日

桐生市の生活保護不適切運用を検証 第三者委人選に疑問の声 監査側の群馬県OB2人と専門外研究者

↑桐生市役所の庁舎。東京新聞提供↑

 生活保護制度の不適切な運用について検証するため群馬県桐生市が設置する第三者委員会の人選に対し、生活困窮者支援に取り組む関係者や専門家らから公平性、実効性を懸念する声が上がっている。委員4人=別表参照=中3人が、市を監査する立場だった県の幹部OBと、かつて市政への提言にかかわり、社会保障は専門外の人物のためだ。(小松田健一)

 4人のうち川原、新木両氏は元県職員で、川原氏は2017年4月から、新木氏は10年4月からそれぞれ2年間、県健康福祉部長を務めていた。同部は年に1回、県内福祉事務所で生活保護制度が適正に運用されているかを監査するが、桐生市の保護利用者、保護率は両氏在任中にも急減しており、監査が有効に機能していたのか疑問視されている。

 小竹氏も専門分野は政策立案過程などを研究する公共政策論で、社会保障や社会福祉ではない。また、市が18~19年、地域の価値を高める施策を検討するため設置した「シティブランディング戦略会議」で委員長を務めていた。

 桜井啓太・立命館大学准教授(社会福祉学)は「群馬県健康福祉部長という職は、県内自治体の生活保護監査の所管部長だ。元部長の2委員の在任時期は、市による激しい『水際作戦』が疑われる時期で、第三者という意味で公平性を持って調査、議論できるのか。学識経験者は、生活保護でも社会福祉の研究者ですらない。最近の他自治体で設置された第三者委員会の委員選定と比べても異様な人選だ」と指摘する。

 昨年発覚した東京都江戸川区のケースワーカーが、亡くなった生活保護利用者の遺体を長期間放置した問題で、区が設置した再発防止のための検討委員会は委員8人中、区議会、地元民生委員、人権擁護委員の代表を各1人、残る5人を第三者枠とした。うち3人が社会福祉の専門家、残る2人は医師と弁護士で、都OBや区政に関与した人はいない。

 第三者委員会事務局の桐生市人材育成課の雨沢浩史課長は「公平、公正、中立の立場の方ということを考え、各団体に推薦をお願いした。各委員の皆さまは今回の件を重く受けとめている。川原氏は行政経験、新木氏は社会福祉士として福祉関係の知見を有し、小竹氏は本市を含めて多くの自治体で委員などを務め、行政運営の見識が高い」とコメントした。

  ◇ 

 第三者委の初会合は27日午前11時から美喜仁(びきに)桐生文化会館で開催予定。原則として市民や報道関係者に公開する。報道関係者を除いた定員は40人。詳細は市ホームページで。

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 当日、当会会員らが委員会を傍聴する予定ですが、抽選となるかもしれません。仮に傍聴できた場合、後日、委員会の様子をレポートしたいと思います。

【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】

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