不死と死
とある世界の騎士団のお話
約40分
エルドナ(男)・・・見た目は26歳くらい。街の騎士団長。訳あって不老不死の体になってしまった。温和な性格。
リルテ(女)・・・24歳。エルドナの相棒。周りから見たらお似合いだが、恋人ではなくあくまでも相棒と本人は言い張っている。純粋にエルドナを支えたいと思っている。
ガドレン(男)・・・騎士団内でも古参の騎士。豪快で快活。面倒見も良い。シュームをよくからかっている。
(40~50代だったり、老騎士だったり、やりやすい年代でやっていただいてOKです。騎士団に所属して長いよというところだけそのままにしてもらうといいかなあと。)
シューム(不問)・・・9歳の少年。騎士団に入りたいとずっとエルドナに言っているが、子供なので許可してもらえない。一番セリフ多い。途中大変かも。
語り部(不問)・・・そのままです。
上記2役はどなたかが兼ね役で演じてください。
【ちょっとしたあれこれ】
・ガドレンを老騎士にする場合、シュームは彼をガドじいと呼ぶという設定です。でも「いや、ガドだろ」と思ったらガドでいいです。
・シュームの年齢は8~12歳くらいだといいかなって感じです。大体です。
エルドナ:
リルテ:
ガドレン:
シューム:
街長:
語り部:
--------------------------------------------------------------------------
語り部:死なない騎士と呼ばれた男がいた。
数多の魔物を退け、賊を打ち倒し、絶望的と言われた状況を幾度となく潜り抜け、街と仲間を救った勇士。
雄々しく、聡明。朗らかで気持ちの良い人柄に、皆(みな)敬愛の念を抱き、男もまた、皆を大切にしていた。
このまま穏やかな生活がずっと続くと 疑うことなく生きていた。
しかし、彼に黒い感情を抱いた者がいた。人々に愛され、幸せそうに笑う姿を見て、嫉妬し、羨んだ。
初め小さかった感情は、やがて大きな憎しみに変わり、憎しみは最早消すことができない程に膨れ上がり、人を狂わせる。
「なんでもいい 何か あいつを苦しませられるような呪いを」
「じゃあ、こんなものはどうだ?」
かくして 男は呪われた
その身に満ちた 忌むべき生
死なない騎士は 死ねない騎士になった
(広場のようなところでエルドナにシュームが頼み込んでいる)
シューム:お願いだよエルドナ!おいらも騎士団に入れてよ!
エルドナ:いいや、駄目だ。もっと大きくなって、強くなったら。ね?
シューム:ええ~!!でもおいらだってー
ガドレン:おーいエル!シューム!(前と被せて)
エルドナ:ガドレン!おはよう!
シューム:おはよう・・・
ガドレン:おはようさん!ん?どうしたシューム?
シューム:べつに・・・!
ガドレン:…?おい、なんかあったのか?
エルドナ:いやあ・・・シュームが騎士団に入りたいって…
ガドレン:おいおいまた言ってんのか!?
シューム:っ!なんだよぉ!だって入りたいんだもん!
ガドレン:はっは!!懲りねえなあ。お前はまだガキンチョなんだから入れないんだよ、シュームちゃん!
シューム:いっつもそうやって馬鹿にして!!おいら強いんだぞ!
ガドレン:だっはっはっは!!でもお前、ついこないだも広場ですっ転んでべそかいてたじゃねえか!!
シューム:か、かいてないよ!いつの話!?
ガドレン:ん~お前が3歳くらいの時だったかな?
シューム:なんだよ!ずっと前じゃん!!
ガドレン:俺からしたら今もそんなに変わらねえよ!
シューム:う~~!全然違う!!
ガドレン:はっは!!悪かった!拗ねるなよ!
シューム:拗ねてない!!
ガドレン:そうか(笑)でもよシューム。やっぱり、騎士団に入るのはまだ早すぎるよ。お前はまだ子供なんだからな。それに、騎士団員ってのはカッコいいだけじゃなく、危ないことや怖いことがたくさんあるもんなんだ。「入りたい!」ってだけで、「はいどうぞ」と簡単に入れるわけにはいかねえのさ。
シューム:むう・・・もういいよ!じゃあね!おいら森にいくから!
ガドレン:おう!怪我しねえようにな~!
・・・うん!元気があるのはいいこった!!
エルドナ:あんまりいじっちゃ駄目だよガド?
ガドレン:だっはっは!いやあすまねえ、ついついな。
エルドナ:もう(笑)
ガドレン:懐かしいなあ。俺も子供のころはあんなんだったぜ(笑)
エルドナ:そうなの?
ガドレン:そうそう。起きたらすぐ飯食って外に飛び出して遊んで・・・
それにしてもエル、ずいぶん朝早くから外にいるんだな?
エルドナ:ん?あぁ、今日の見回り当番だよ。
ガドレン:なるほど。おつかれさん。
エルドナ:ガドレンこそ、いっつもこのくらいの時間に動き出すの?
ガドレン:「動き出す」って、俺はゴーレムか…
起きてゆっくりティータイムを過ごすような柄でもねえから、外に出ちまうんだわ。シュームに小せえ頃から変わってねえみたいに言ったが、俺もこのへんは子供のころから変わってねえな(笑)
エルドナ:へ〜…なんかガドらしいや。いつまでも少年って感じ。
ガドレン:なんだよそりゃ(笑)
朝はいいぞ?空気が気持ちいいし、飯は美味いし!
エルドナ:ガドはいっつもご飯美味しいって言うじゃない(笑)
ガドレン:はっはっは!そりゃそうだ。それよりほら、見回りだったんじゃねえのか?
エルドナ:あっとそうだったよ。じゃあねガド!
ガドレン:おう!気をつけてな!
(シューム、1人で街の中をうろつく)
シューム:ふん、なんだよ2人とも…
リルテ:あれ?シューム?どうしたの?
シューム:あ、リルテだ。おはよう…
リルテ:おはよ。…どうしてそんなに不貞腐れてるの?
シューム:なんでもない。
リルテ:そう?ま、それならいいんだけどさ。
シューム:リルテは何してたの?
リルテ:んー?ちょっとした見回り。最近物騒だからね〜。
シューム:…?何か危ないの?
リルテ:魔物がよく出るのよ。街の外だけど。
シューム:魔物…
リルテ:うちの街に来る商人の隊列とか、他の街に出かけようとした人が襲われてるみたいなの。
シューム:へ、へ~。。
リルテ:街の中に出たって話は聞いたことないけど、一応警戒しとこうと思ってさ。
シューム:そうなんだ…
リルテ:ま、今日はあたしの担当じゃないんだけどね。そういえば今日って担当誰だっけ…えーっと…?
シューム:エルドナでしょ。さっき会ったよ。
リルテ:あ、そうだった。あいつのことだから色んな人と喋ってなかなか見回り進まないだろうし、ちょうどよかったわね。
シューム:・・・・・・・・・
リルテ:・・・?ちょっと、テンション低いじゃん。ほんとうになんでもないの?
シューム:・・・ねえ、リルテ。リルテは騎士団に入って、怖かったことってあった?
リルテ:何それ?どうしたのよ急に。
シューム:・・・エルドナに騎士団に入りたいって言ったらだめって言われて、ガドレンには「怖いことがたくさんあるんだぞ」って・・・
リルテ:あ~~なるほど・・・・・
怖いことかあ・・・そうね。ガドの言う通り、そういうことはたくさんあった。
シューム:リルテもみんなも、強いんじゃないの?それでも怖いの?
リルテ:怖いわよ。強い人だって怖いことがあるの。
シューム:なんで?だって、強ければ、どんな魔物や悪い奴だって、やっつけられるんじゃないの?
リルテ:うーん、やっつける・・・そういうことでもないのよねえ、、、
ねえ、シュームはどうして騎士団に入りたいの?
シューム:え?・・・・・それは、父ちゃんが「強い男になれ」って言ってたし・・・
リルテ:うん。それで?
シューム:おいら毎日鍛えてて、だから怖いものなんてないんだ。騎士団に入ったら、どんな奴が来たって全部やっつけてやるんだ!かっこいい騎士だろ!
リルテ:あっはは!!そっかそっか・・・
頼もしいけど、やっぱりまだ騎士団に入るには早いかなあ?
シューム:えーどうして!?おいらきっともっと強くなるよ!?
リルテ:どうやって強くなるの?
シューム:へ?
リルテ:なんのために強くなるの?
シューム:だから、えっと・・・
リルテ:考えてごらん。とっても大切なことだよ。
シューム:うう・・・・・
リルテ:さってと!そろそろあたしも見回りに戻らないと!
じゃあねシューム!
シューム:あっ、うん!じゃあね・・・
(その日の夜、騎士団長室にて背伸びをするエルドナ)
エルドナ:ん~~~~・・・
リルテ:(ノック音)お疲れ、エル。
エルドナ:あ、リルテ。ありがとう。そっちもお疲れ様。
リルテ:ねえ、今日シュームに騎士団に入れてーって言われてたでしょ。
エルドナ:あれ?なんで知ってるの?僕話したっけ?
リルテ:んーん、シュームに会ったの。
エルドナ:ああ、そっか。そう、入りたいって言われたんだけどさ・・・・
リルテ:あの子も懲りないわね。
エルドナ:あはは!ガドもおんなじこと言ってたよ。
シュームと何か話したの?
リルテ:ん~~なんで騎士団に入りたいの~とかね。
エルドナ:なんて言ってた?
リルテ:お父さんが「強い男になれ」って言ってたとか、皆みたいなかっこよくて強い騎士になりたい!とかかな。
エルドナ:そう・・・そうか、お父さんが・・・
リルテ:あたし、シュームのお父さんって見たことないんだけど、どんな人なの?騎士団関係の人?
エルドナ:ああ、リルテは去年街に来たばかりで知らないよね。
・・・うん。話しておこう。
シュームのお父さんはベイクネルっていう名前で、うちの騎士団員だったんだ。
リルテ:騎士団員・・・だった?
エルドナ:そう。5年前にあった森での魔物の討伐作戦。ベイクネルもそれに参加していて、その時魔物に殺された。
リルテ:っ!!
エルドナ:討伐中に引き離されたグループの中にベイクネルもいたんだ。他のメンバーを逃がすために彼は1人で魔物とたたかって、そのまま・・・
リルテ:・・・・・・
エルドナ:本当に勇敢な人だったよ。
ふふっ、「強い男になれ」か・・・。ベイクネルらしいや。
リルテ:全然知らなかった・・・
エルドナ:仕方ないよ。知る機会がなかったんだもの。
リルテ:森って、ボロムの森でしょ?大がかりだったの?その討伐作戦。
エルドナ:うん。あの森、かなり広いだろう?
リルテ:どうしてそのメンバーは、はぐれちゃったの?
エルドナ:撹乱されたとしか言いようがない。魔物とは思えない動きだったよ。たぶん、長い間人間を見て学習した魔物たちだったんだと思う。いつの間にか分断させられていたんだ。
リルテ:でも、討伐はできたんでしょ?
エルドナ:・・・いや
リルテ:そんな…
エルドナ:かなりの数は倒せたけど、こっちの被害も大きくて、完全に討伐しきることはできなかった。
リルテ:ねえ、ここ最近被害を出してる魔物ってまさかその時の?
エルドナ:・・・わからないけれど、その可能性は高い。
リルテ:だとしたら、5年の間にまた知恵をつけて、手強くなってるかもしれないってこと?
エルドナ:それだけじゃない、このあたりの魔物は、刺激しなければあまり人間を襲うことはなかったはず。けど彼らは5年前も今も、むこうから積極的に人を襲ってる。
リルテ:それ、どういうこと?
エルドナ:過去に人間に何かされたんだ。住処を追われたか、同族を殺されたか・・・はっきりとは分からないけど、ただの強い魔物じゃない。人間を恨んでる。
リルテ:いったいどうして・・・
エルドナ:分からない、でもこんなことになるだけの何かがあったはずなんだ。とはいえ、今のところそれに関しては情報がない。今後調べてみるつもりさ。
リルテ:そう・・・手伝えることがあったら言ってね。
エルドナ:ありがとう。 さてと、もうこんな時間か。僕はまだ少しやることがあるけど、リルテは休んだら?
リルテ:う、うん・・・ってか、あんたこそちゃんと休みなさいよ。どうせいっつも団長室に籠って資料いじったりしてんでしょ。いつか倒れるんだからね。
エルドナ:あはは、バレてたか・・・鋭いなあ。
リルテ:いっつも部屋の明かりがついてるし、毎日あんたの疲れた顔見てれば、誰でもわかるわよ。
エルドナ:あっはは!そっかあ・・・ん、あれ?リルテとそんなに毎日顔合わせてたっけ?
リルテ:っ!!!知らない馬鹿!!!!
エルドナ:ええ!?何で怒るの!?
リルテ:うるさい!!おやすみ!!!!
(後日の朝、騎士団本部前を通る道にて)
シューム:騎士・・・
何のために強くなるの?か。ずっと考えてるけど、なんかよくわかんないや・・・
シューム:ん?エルとガド?二人とも難しい顔してどうしたんだろ?(物陰に隠れて盗み聞きするシューム)
エルドナ:今回も北の方だろう?
ガドレン:うちに向かう行商人のキャラバンがやられたとさ。
エルドナ:ふむ・・・
ガドレン:魔物のやつら、前より勢いが増してきやがった。
エルドナ:ああ。だんだん襲われる回数が増えてきてる。
ガドレン:団員が見回りをしちゃあいるが、それにも限界がある。街のすぐそばならいいが、街道まで巡回はできねえしな。
エルドナ:うん。特に今月に入ってからは動きが活発だ。これ以上被害が続くと街の皆の生活も厳しくなっちゃうよね。
ガドレン:特に食い物はうちの街ですべて賄うなんてのは到底無理な話だ。どうしたって外との連携は必要不可欠。しかしそれがこうも断たれちまうと・・・
正直今の時点でギリギリだろうぜ。
店の連中は表にゃ出さねえが、な。
エルドナ:魔物の住処は・・・
ガドレン:十中八九、ボロムの森だ。
エルドナ:ふうむ・・・ガド、森のことならガドが一番詳しいだろう?一旦二人で話し合って、大まかな作戦を決めたあとに団内の皆を交えて本格的に討伐作戦について話し合いたいんだけど、どう?
ガドレン:任せろ。今夜にでも話し合おうぜ。できるだけ早く街のみんなを安心させてやりてえ。
エルドナ:そうしたいけど、エインシャグナで確認したいことがあるんだ。それが済んでからにしよう。
ガドレン:北のエインシャグナか・・・・・・わかった。
(本部内に歩いて行くエルドナ)
シューム:・・・・・・・・・
ガドレン:お?シューム、何してんだそんなところで?
シューム:へっ!?ううん!何も!?おはよう!
ガドレン:・・・?おはようさん。
シューム:・・・ねえガド。魔物を倒せばおいらも騎士になれるかな
ガドレン:ん?お前、もしかしてエルとの話聞いてたのか?お前は気にしなくていいんだ。魔物は騎士団がなんとかしてやるから!
シューム:う、うん。
ガドレン:・・・・・
(その日の夜)
ガドレン:うっし!そろそろ晩飯でも・・・っとと?はいはいどちらさん?
おや、シュームのお母さん!ちょっと落ち着いて、どうしましたそんな・・・
ガドレン:・・・・・何!?
(騎士団本部にて)
ガドレン:エルドナー!!くそ、おい誰かいねえか!?
リルテ:ガド!?何よどうしたの!?
ガドレン:エルドナは!?
リルテ:あいつなら、団員とエインシャグナに行ったわよ。少し確認をしてすぐ戻るって言ってたから、今頃戻ってる途中じゃない?なんで?
ガドレン:シュームがいなくなった。
リルテ:はぁ!?
ガドレン:あいつ、今朝様子がおかしかった。多分俺とエルドナの話を聞いたんだ。
リルテ:話って?
ガドレン:ボロムの森の魔物の討伐について。
リルテ:それとこれと何が関係あんのよ!?
ガドレン:多分、自分で魔物を倒しにいったんだ。
リルテ:どういうこと?
ガドレン:あいつの部屋に置いてあった木刀がなくなってるってシュームの母ちゃんが言ってた!きっと俺たちの話を聞いて騎士のつもりで倒しにいったんだよ!
リルテ:あの馬鹿…!!
ガドレン:リルテ、お前はエルドナ達にこのこと伝えにいってくれ。俺は行けるやつと森に行く!
リルテ:わかった!
(ボロムの森にて)
シューム:はぁっ、はぁっ・・・うう・・・
シューム(M):2人の話を聞いて、森に来て、魔物を倒してやるって思った
シューム:ひっ!!うわあぁぁあ!!
シューム(M):でもそんな気持ちは、魔物を前にしたら、一瞬でどこかに行っちゃって
シューム:はぁっはぁっはぁ!!っ…!!はぁ!はぁ!
助けて・・・誰か・・・!!
シューム(M):どのくらい逃げたんだろう。走って、助けを呼んでも誰も来なくて、また走って
シューム:はぁ・・・はぁ・・・
シューム(M):いくら逃げて隠れても、あいつらの吐息が追いかけてくる
シューム:はぁ・・!!嫌だ!!誰か!!
(魔物に追い詰められ、後ずさりするが、もう動けない)
シューム:助けて!!!!!
(帰路の途中のエルドナたち)
エルドナ:ん?止まって!!誰か来る。
リルテ:エルドナ!
エルドナ:リルテ!?どうしてここに!?
リルテ:シュームが一人で森に行ったかもしれない!
エルドナ:え!?
リルテ:今ガドレンが何人かで森に探しに行ってる。どこにいるかわからないけど・・・!
エルドナ:ガドたちが・・・!急いで僕たちも行こう!!
間に合ってくれ・・・!
(魔物に襲われ、うずくまるシューム)
シューム:・・・・・?
(目を開けると、ガドレンが魔物の攻撃を受け止めている)
ガドレン:っ!!!(魔物を蹴り飛ばす) 大丈夫かシューム!?
シューム:はっ・・・ガド?どうして?
ガドレン:よく一人で今まで逃げ切った。頑張ったな。
シューム:あ、あの、ごめんなさ・・・
ガドレン:今はいい!とにかく一緒に逃げるぞ!
シューム:あう、うん!
2人:(走っている息遣い)
ガドレン:森の入り口まで頑張れ!
シューム:はぁ・・・はぁ・・・!
ガドレン:はぁ・・!森を出たところで信号弾を打つ!そしたら他の団員達も来てくれるはずだ。
シューム:はぁ・・・うん・・・!
(馬で森へ向かうエルドナたち)
リルテ:エインシャグナでの確認って、魔物についてだったの?
エルドナ:・・・30年近く前、街で「狩り」が流行ったんだ
リルテ:狩り?
エルドナ:魔物を悪者に仕立てて、狩っていたんだよ。まるでゲームのように。。!
リルテ:!? それって・・・
エルドナ:ああ。魔物は何も悪くない。ただ森で静かに生きていただけだったのに、突然一方的に殺されただけさ。
大義もなにもない、ただ楽しむためだけに。それが森の魔物たちの、人間への恨みの根源だ。
リルテ:ひどすぎる・・・ で、でももう30年も前の話でしょ!?
エルドナ:恨みは受け継がれていく。人間と同じだよ。
リルテ:そんな・・・
エルドナ:もう少しで森に着く。ガド、シューム、無事でいてくれよ・・・!
(森の入り口近くにつくガドレンとシューム)
ガドレン:はぁ、よし!(信号弾を真上に打つ)
馬を停めたところに・・・出られりゃ・・・よかったんだが・・・!
シューム:はぁ・・・!はぁ・・・!
ガドレン:大丈夫か?怪我は?
シューム:大丈夫・・・
ガドレン:そうか、よかった・・・
とりあえず団のやつらが見つけやすいようにもう少し街道のほうへ・・・
(歩き出して振り返ると、まだ歩き出せないシュームに魔物達が近づいている)
ガドレン:!?シューム!!!(走り出す)
シューム:え?
ガドレン:くっ!! ぐぅ!!!(シュームを突き飛ばし魔物に引き裂かれる)
シューム:っ!!あ、、ガド、、!!
ガドレン:く・・・はぁ・・はぁ!!(地面を這いずり、シュームを抱きかかえる)
シューム:は・・・ガ・・
ガドレン:大丈夫・・・だ・・!!は、くっ・・・!!
(シュームを守る背に魔物から攻撃を受ける)
お前は・・・俺が守ってやる・・・
お前まで失ってたまるか・・・・・!!!
(ガドレン、魔物の攻撃にしばし耐える)
エルドナ:その人たちから離れろぉ!!! (魔物を切りつける)
リルテ:シューム!ガ・・・ド・・!
エルドナ:リルテ!ガドレンをここから連れ出して!早く!!
リルテ:う、うん!パンディノ!テン!手伝って!
シューム、あんたは歩け・・・
ガドレン:待て…!
リルテ:ガド!?
ガドレン:エルドナ・・・森の魔物は悪くねえ・・・
エルドナ:分かってる!!だから、団の皆には手を出さないように言ってあるよ!!・・・けど!!!
ガドレン:エルドナ!!!!!
エルドナ:っ!!
ガドレン:俺で最後にできるかもしれない。
エルドナ:・・・・・・!!
ガドレン:エルドナ団長・・・!
エルドナ:・・・・・・わかった。
さあ、向こうで治療を。
ガドレン:・・・いいや。ここで見届けるよ。
エルドナ:・・・・・・・(魔物を見据えて深呼吸)
魔物たち!過去に人間がお前たちにしたことを、許してくれとは言わない!
だが!この土地の人間と魔物のこれからのために!
もう一度やり直させてくれないか!!
人間はもう2度と、お前たちの命を理不尽に奪いはしない!!
(魔物のボス エルドナの体を爪で貫く)
エルドナ:・・・っ!!!
信じてくれ。(魔物の目をまっすぐ見つめて)
(魔物のボス、エルドナに近づこうとする他の魔物を制し、ひと声吠えて森の奥へ消える)
エルドナ:・・・っく! はぁ・・・はぁ・・・
リルテ:エル!!!
エルドナ:僕はいい。このぐらいならすぐ塞がる。それよりガドを
ガドレン:いいや。もういい。・・・・・もういい。
エルドナ:そんなの駄目だ。治癒魔法を受けて、街まで戻ってちゃんと治療すればまだー
ガドレン:(前と被せて)エルドナ団長。
小さい頃からあんたのことを見て育って、騎士団に入って、いつの間にか俺ばっかり歳をとった。できるだけあんたと同じ時間を生きていたかったが、どうやら俺はここで退場だ。
エルドナ:・・・・・
ガドレン:あんたと騎士団にいられてよかった。今まで世話になった。ありがとう。
エルドナ:・・・お世話になったのは僕の方だ。ありがとうガドレン。
ガドレン:・・・なあ団長。他のやつらも。ちょっとここでシュームと2人だけにしてくれねえか。
シューム:え?
エルドナ:・・・・・わかった。リルテ、手当はもういい。他の皆も、街道のほうに行こう。
リルテ:・・・・・じゃあね、ガド。
ガドレン:へっ。達者でな。
(シューム以外の人がその場を離れる)
ガドレン:よっしゃ・・・シューム聞こえてるか?
シューム:・・・うん。
ガドレン:お前の父ちゃんの話をしよう。
ベイクネルのことはあいつが騎士団に入る前から知っててな。
シューム:うん。
ガドレン:畑の野菜勝手に食ったり、道に落書きしたり。。。やんちゃな奴でよ。懐かしいなあ。 そんなあいつが騎士団に入って、息子が生まれたって聞いて、自分のことでもねえのにすげえ嬉しくてよ。
シューム:・・・・・
ガドレン:・・・5年前。ベイクネルが魔物に殺された日。ベイクネルが逃がした団員の中に、俺もいた。
シューム:・・・え?
ガドレン:ベイクネルは家族を守らなきゃなんねえ。他のやつらも団に入ったばかりで力不足。だから俺がみんなを逃がすはずだった。。。
けど、団にはまだあんたが必要だと、ベイクネルが言ってな。
シューム:父ちゃん・・・
ガドレン:自分の家族はどうするんだって聞いたら、「ここでみんなを守れなきゃ一生後悔する。絶対生きて家族も守る。俺に任せろ。」って。真っすぐな瞳でよ。誰も、何も言えなくなった。。。
シューム:・・・・・
ガドレン:ごめんな、シューム。俺、お前の父ちゃんをお前のとこに返してやれなかった。
シューム:・・・・・
ガドレン:シューム、前に騎士にも「怖いことがある」って話をしただろ?
シューム:うん。
ガドレン:騎士が怖いことっていうのはな、「守れないこと」なんだ。
シューム:・・・!
ガドレン:家族とか、街の皆とか、自分以外の団員とか、そういう自分の大切な人たちを守れないかもしれない時、守れなかった時のことを考えると、怖くてたまらない。
シューム:守れないこと・・・
ガドレン:いいかシューム。ただ強くなるな。誰かの、何かのために強くなるんだ。
そのために、今はたくさん守ってもらえ。
シューム:え?
ガドレン:守られ方がわかんねえやつは、守り方も分かんねえ。そういうのは人に守られてだんだん分かってくるもんなんだ。
だから、俺たち大人にお前を守らせてくれ。
シューム:・・・父ちゃんがどういうふうに死んだのか、全然知らなかった。
・・・・おいら、嬉しいよ。父ちゃんは誰かを守るために死んだんだね。
ガドレン:あぁ。
シューム:父ちゃんのこと、話してくれてありがとう。おいらのことずっと守ってくれてありがとう。おいら、きっと父ちゃんやガドみたいな、何かを守れる騎士になるよ。
ガドレン:・・・!
・・・絶対なれるさ。
シューム:本当?
ガドレン:ああ。俺は今まで嘘は言ったことねえ。
「ガドレン・ローラディア」の名に誓ってな。
シューム:・・・・・うん!
ガドレン:ふぅ・・・・・
なあシューム、俺はここにいるから、エルドナ達に「ガドは寝ちまった」って・・・伝えてきてくれるか?
シューム:っ!!・・・・・・・・・うん。
ガドレン:・・・頼んだぜ。
(シューム、駆け出す)
ガドレン(M):ああ、団長。すまねえなあ。誰よりも優しくて、誰よりも人との別れを経験してきた。そんなあんたと出会えて、騎士になれて本当に良かった。
ガドレン(M):よおベイクネル、お前の息子は立派に育ってるよ。お前の守りたかったもの、守ってやれてよかった。今そっちに行くから、また酒でも飲みながら話そうぜ。
エルドナ:・・・!シューム、ガドレンは?
シューム:・・・・・・・ガドは・・・・・寝ちゃった・・・
リルテ:(口元を抑える)
エルドナ:っ!!・・・・・・・・そうか。わかった。
シューム:・・・・・・ふっ、うぐ・・・
うあぁぁああぁぁぁぁあぁぁ!!!!!!!!!!
語り部:エインシャグナで密かに行われていた、「魔物狩り」。エルドナ達の確認によれば、街はその事実をひた隠していたが、国内から声が上がり、厳しい監視がなされ、今後再発することがないよう、徹底していたとのことである。しかし魔物がそんなことを知る由もなく、人間に対するドス黒い感情だけが残っていた。
語り部:森での騒動の後、魔物は街道の人間を襲うことはなくなり、森は以前の平和な姿に戻りつつある。あの時の騎士たちの言葉と姿は、たしかに魔物に届いていた。
(ガドレンの葬儀も終わり、数日後)
シューム:おはようエル!!
エルドナ:ん!おはよう!
シューム:ねえ、傷はもう大丈夫なの?
エルドナ:ん?ああ、もうすっかり治ったよ。
シューム:そ、そうなんだ!?よかった・・・すごい血が出てたから・・・
エルドナ:あはは・・・心配してくれてありがとうね。
シューム:ねえ、エルドナ、どうして魔物を倒さなかったの?
エルドナ:・・・恨みの連鎖をあそこで終わらせるためさ。人間の身勝手のせいで魔物たちは苦しんでいた。
・・・魔物が憎い?
シューム:ううん・・・悲しいけど。でも憎くないよ。ガドも、森の魔物は悪くないって言ってた。だから大丈夫。
エルドナ:そうか。
シューム:・・・ねえ!おいらガドに絶対騎士になれるって言われたんだよ!
エルドナ:へえ!!そっか、そんなことを話してたんだね!
シューム:うん!へへっ!頑張らないとなあ・・・!
エルドナ:・・・もう騎士団に入れてとは言わないの?
シューム:言わないよ。おいら、まだ守ってもらわないといけないから。
エルドナ:そっか・・・。
ねえシューム、昔、ガドの名前の話になってね。
「ガドレン」って古い言葉の「ガド」と「レティシェン」を合わせた名前なんだってさ。
シューム:へえ・・・どういう意味なの?
エルドナ:「ガド」は固いさま、「レティシェン」は決意っていう意味。だから、ガドレンはそのまんま「固い決意」っていう意味の名前なんだって。
シューム:固い決意・・・
エルドナ:ガドは名前の由来を知ってから、それに恥じない生き方をしたいって、嘘をつかないようにしてたんだよ。そんな人が絶対騎士になれるって言ったんだ。だから大丈夫。シュームは立派な騎士になれるよ。
シューム:・・・うん。おいらが騎士になれなかったら、ガドに嘘をつかせることになる。だから絶対騎士になってみせるよ!
エルドナ:うん。僕も楽しみにしてるよ。
語り部:死ねない男エルドナ。数えきれない苦悩を経験しても、彼は自分の人生に絶望することはなかった。消えていく命と、新しく出会う命。終わりと始まりが絶えず交差する世界で、一人の人間であることの矜持を持って。
移ろう時間の中で、見出した光を心に灯し、在りし日の思い出と共に生き続ける。
少年がたくましく成長し、父と恩人の意志を引き継いで、団内随一の騎士としてエルドナと並んで立つのは、もう少し後のお話。
了
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