井上梅次 監督「結婚期」〜戦後、都内に公園を作るもう一つの映画

シネマヴェーラ 「結婚期」1954年、井上梅次 監督。黒澤明「生きる」の2年後の作品で、同じく都内に公園を作る話。こちらはラブコメながら公園予定地にあるバラック住居の立ち退き問題がからむなど、世相がよく反映されている。

都の緑地部係長である若い鶴田浩二、、ピンチヒッターで急遽ラジオ番組でトークすることになる。対談相手のアナウンサーはまさかの憧れの女。上がってしまい、間違った資料でトンチンカンな応答をする。なんとし尿の海洋投棄の話である。

くみ取ったし尿をし尿船に乗せて東京湾沖まで運んで投棄する。し尿の海洋投棄について少し調べてみると、戦前からあったが、内湾投棄であったため、魚介類の汚染や赤痢の拡大などいろいろ問題となり、この映画の2年後、1956年から外洋投棄に変えられたという記事がある。本作で鶴田が間違って読んでいる資料はこの計画に関するものなのだろう。

鶴田はバラックの住人たちを訪問して立ち退き説得を行うが聞いてもらえない。バラックに住む高齢男性、台風で住居が倒壊しそうになるが、目を閉じてひたすら法華経の団扇太鼓を叩いてお祈りするのみ。

鶴田を結婚相手として狙う女性たち、職業はアナウンサー、女医、看護婦?、芸者である。住宅難の世相を反映してか、鶴田は医者の叔父宅に下宿している。また、バラックの住人の立ち退きが容易でない様子もその一端だろう。

井上梅次 監督というとこれまで観た作品ではあまりパッとしない印象であったが、本作はうまくまとまっている。フィクションながら戦後の世相の一端をうまく織り込んだであろうスケッチとしても興味深い。