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藤放しの村取り(荒村)をする

1.はじめに

 この投稿を読んでいただき、ありがとうございます。
 弓に関わって35年目です。このたび、生まれて初めて藤放しから削り上げて弓にしました。正しくは新張ですが、ここでは藤放しと呼ばせていただきます。
 そして今回、藤放しを荒村するにあたり、機会を与えてくださった「島津家伝統弓師 播磨竹禅」 弓具工房 はざま(弓工房 播磨)の迫哲夫さん、ご指導をいただいた黒須憲先生に感謝申し上げます。

2.藤放しを手に入れようと思ったきっかけ

 竹弓を初めて使ったのは、十数年前(多分、初任校時代です)に買った一燈斎です。形がグラマラスで胴の強い薩摩弓です。
 わたしは、初任校時代から一燈斎を2張り所有しています。
 そのうち2張り目の一燈斎をちょっとした不注意で、鳥打ちより上部分が捻じれて出木にしてしまいました。
 確か、りゅーぞーさんが以前某SNSで播磨竹禅さんを紹介されていました。本職で竹弓を打ちあげる(弓を作ること)だけでなく、壊れた竹弓の修理もしているという情報を得て、捻じれた一燈斎を直してもらったのが、興味を持ったきっかけでした。
 どのような弓を打つのか見てみたい、と。
 さらに、宮城県蔵王町でお世話になっている黒須憲先生のもとで、藤放しをみんなで購入して削って仕上げよう、ということをやっていました。その時は藤放しを手に入れるところまでいかず、畳押しや弭切り、張り台を使った張り込みをただ眺めているだけでした。それでも、機会があればやってみたいという気持ちはありました。

3.藤放しを手に入れる

兵庫県姫路市飾西にある、播磨さんの工房。

 令和4年8月のお盆直前、兵庫県姫路市にある「島津家伝統弓師 播磨竹禅」 弓具工房 はざま(弓工房 播磨)にお邪魔させていただきました。藤放し(新張り)です。この時に購入した藤放しは外竹が真竹、側木が櫨、ヒゴと前竹がウサンチクの煤竹です。

 購入した直後はこんな感じでした。

上下の弭は切られ、裏反り23.5cmですでに弓として落ち着いた状態でした。
宮城県栗原市若柳の若柳総合体育館(アスパル若柳)弓道場で裏反りを計測しました。

4.削り始める

張込み弦を外して渡され、宮古市まで持ち帰って来ました(帰りの山陽・東海道新幹線が台風の影響で東京着が遅れ、東京駅の構内を藤放しを携えながら走り、乗る予定の東北新幹線に発車1分前に乗車)。
 9月からキソゲという急刄をつけた刃物で弓の横っ面を削っていきました。

 (0)作業全般にわたる注意事項

 勤務を終えて、弓の稽古をして帰宅したのが夜の9時。疲れが溜まり、集中力が低下している状況での作業がほとんどでした。
疲れていたり注意力が低下していたりしている時には、絶対に作業はしない方がいいです。
 うっかり削り過ぎてしまう危険性が大きいです。

 (1)切詰めを縛る

 手渡されたばかりの竹弓は、どんな素性を持っているのか、わかりません。
 弦を張ったあとにひっくり返る危険性があるため、切詰めのところで張込み弦を切れ弦で巻きつけて縛りつける。
 このときの張込み弦は、伸寸の結構太い合成繊維のものを使いました。

 (2)側木を削る

 キソゲを使って側木を削ります。
 藤放しの側木の面に平行に削ります。この時参考にしている弓と同じ寸法ギリギリまで削ると、村取りする余裕がなくなってしまうので先々の作業のことも考慮しながら進めていきましょう。
 ある程度削りが進んだら、内竹・外竹の角を少しずつ落としていきます(「面を取る」といいます。面取りが出来ていることにより握りやすく、手の内にかかる負担が少なく弓を引くことができます。

 鉋がけで削り方を進めると、一気に作業が捗ります。しかし、竹の繊維の方向によっては斜め内方向に一気に刃が入り込んでしまうので、鉋を使った作業は、削る材料の繊維の向きと鉋の刃の出し具合を考慮する必要があります。
 少しずつ進めるならばキソゲが良いが、削り始めに力が大きくかかるので、力の配分を均等にする必要があります。
 木工用のヤスリや目の荒い紙ヤスリでも良いと思います。
 わたしはメインがキソゲ。微調整で木工用のヤスリ、仕上げは紙ヤスリを使用しました。

 側木を削る時には、張込み弦を張って弓自体を落ち着かせます。削り終えた後は、弓は削った状況に応じて形が変化するので、形が落ち着くまで(削り終えてから3〜4時間)放置させます。

主に使う道具はキソゲ・ヤスリ。キソゲは歯を研ぎ上げてから使います。

 (3)上下弭を削る

 張込み弦を外したあとは、額木と関板を鉋やキソゲを使って整形する。額木の木目に注意しながら鉋がけをする。この時、大まかに形を作るために平鉋を用い、凹みが関わる整形には反り鉋を使用しました。
 上下の弦受けは弓の握りと同じ幅・太さにします。弭の肩は左三面右四面に削ります。

5.巻藁で射込む

 上下の切詰めと握り節に籐を仮巻きして、弦を張る。引く長さを徐々に大きくしていきながら、巻藁に向かって1,000射以上射込みます。矢を射込むことに弓を慣らしていきます。

岩手県宮古市民総合体育館弓道場の巻藁で慣らし引き千射です。
射場が団体貸切になった時には、暗闇の中、近距離発射で慣らし引きをしました。

6.仕上げ

 巻藁で射込むことによって、弓の強弱が形になってあらわれます。基本的には強いところを削ったり炙ったり踏んだりして弱めて、弱いところを助けるようにします。
(やりすぎは破損のもと。うっかり削りすぎや焦がしてしまったり、手形足形がついてしまいます)
 紙ヤスリを使う場合には250番(荒目)→600番と、一通り仕上げるに従って2倍以上の番号のものを使うようにします。

張り顔での上下のバランスは、弓の鳥打ち〜大腰と弦が下弭側から見て平行になるように。
うっかり鳥打ちを弱めてオデコ弓にしてしまう危険性が大きいので、鳥打ちあたりを弱めることは極力避けたい。
(これは大きな反省です。今は大丈夫ですが、やらかしてしまいました)

7.最後に

 これは強制するものでもなく、一通りやってみた上での状況と思ったこと感じたことを正直に書いただけです。
 現在、弓具店で売られている弓の大部分が荒村です。つまり、弓自体が矢を射込むことに慣れていません。弓はどうしても射込んで慣らし、曲げて踏んで削って炙ってをしながら形を整え、使いやすいよう調整をしていく必要があります。

 道具をいじってみることも勉強になります。やってみなければ分からないこともあり、何もしなければ気づかないこともかなり多いです。これからも少しずつではありますが、いろんなことに挑戦し、経験を重ねていきたいと考えております。

荒村作業は終了。宮城県気仙沼市での前任校の教え子との弓の稽古で初的前で初的中!
写真など公開すると、欠点が明らかになりますが、ここは恥を忍んで。

 読んでいただきありがとうございました。

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