これ、僕悪いすか?





「これ、僕悪いすか?」




僕はギャンブルをやらない。


そもそも、ギャンブルをするお金の余裕がない。


だから今は無縁の生活を送っている。



しかし、全く経験したことがないわけではないのだ。



今から5年ほど前のこと


社会人として働いていた頃の話だが、休みの日に興味本位でスロットをうちに行ったことがあった。


働いているので懐に余裕がある。


実家暮らしだから尚更だ。



スロットを打つといっても僕には、"ジャグラーはペカったらチャンス"ぐらいの知識しかなかった。


それだけのチャンスを頼りに実機を打ちにいくのはなかなかリスキーな話である。


単純にパチンコ屋とはどういうものなのか?それが気になった。


半ばある意味、社会勉強の一環としてパチンコ屋に訪れてみた。




自動ドアに導かれ入店する。



騒がしい店内。



店員の声も聞こえたもんじゃない。


インカムをつけてはいるものの、果たして彼らはちゃんとお互いの声が聞こえているのだろうか?


爆音の空間の中で台を選ぶことに。


機械の上に表示された数字達、これは一体何を表しているのか?


何も分かっていない。


とりあえず、適当に台を決めて座ってみることにした。



ジャグラーの赤いやつ


イオンのゲーセンで見たことあるやつ


"お札投入口"


なるほど、ここにお金を入れるのか。


僕はサイフに3000円しか持ってきていなかった。


あまり多く入れていると知らないうちに無くなってしまうかも、という危険性を抑えるためだ。


財布から1000円を取り出して投入してみる。


吸い込まれていく千円札。


あーいとも簡単に入っていった。



お金を投入後、ある疑問が生じる。



あれ?ここからどうすんだ?


投入したのは良いものの、機械になんの変化も起きない。


ボタンを押してみる、レバーを下げてみる。


何も起きない。


えー?これどうしたら良いの?


機械の前で慌てふためく僕を見かねて、隣に座っていたおっさんが話しかけてきた。


「ここのボタン長押ししたらメダル出てくるねん。そのメダルをこの投入口に入れて遊ぶんやで。」


えらく親切に教えてくれた。


僕の挙動不審加減を見て、コイツ初心者やなと思ったのだろう。


パチンコ屋に来るおっさんたちなんて、ケチ野郎の集まりだと思っていた。


親切に教えてくれるおっさんもいたのか。


勝手な偏見を持っていてすみませんでした。


僕は思わずおっさんに「ありがとうございます。」とお礼を言って、その後ようやくスロットを始めることができた。


レバーを下げる。


左から右にボタンを押していく。


えらく短調な時間が過ぎていく。


ルールも分からずただただペカるのを待って打ち続けた。


なんの変化も起きることなく、最初の1000円分はあっけなく溶けてしまった。


いや早っ‼︎


パチンコ屋の千円札ってこんな一瞬で無くなんの?


30,000円が一時間持たなかったって話聞いたことあるけど、それってほんまやったんやな。


すかさず2000円目を入れてみる。


また短調に打ち続ける。


すると間もなく、GOGO!の文字がペカリ出した。



来た!


これもイオンで見たやつー!


GOGO!ランプがつくと、スリーセブンの内2つ目までは、簡単に揃う。


しかし問題は3つ目。


3つ目のスリーセブンのちょうど下にBAR BARという文字がある。


このBAR BARを出してしまうと小当たりで終わってしまうのだ。


これは大当たりとはかなりの差がある。


いわばハズレのようなものだ。


それが7のちょうど下にあるところがまたいやらしい。


だからペカった際には、3つ目のボタンを慎重に押す必要があるのだ。


僕も例のごとく、2つ目までは7が揃った。


そして肝心の3つ目!


いけえええーーー!


その一押しに全集中を込めた。


ポチっ!



………ダン‼︎



777‼︎




大当たりのファンファーレ♪




おおーーー!来たあーーー!


スリーセブン揃ったあーーー!



初めて味わう大当たり!


メダルが次から次へと出てくる出てくる!


気づけば僕の手元には、大量のメダルが増えていた!


なるほど!こうやってメダルを増やしていくのか。


よし、ここでもうやめておこう!


その大量のメダルをカゴに入れ替えて、換金しに行った。



景品交換所


ここの店員の声も全く聞こえない。


とりあえず適当に頷く。


するといくつかの駄菓子と棒のようなものを渡された。


その棒のようなものを店の前の窓口に持っていく。


するとお金が1万円になって出てきた。


おおーー?こんなにもらえんの?


そう、僕はスロットに勝ったのだ。


ギャンブラーからすると大した額じゃないかもしれないが、確実にお金は増えたのだ。


初めてスロットを打って初めて勝った!


その喜びを噛み締めてその日は帰宅した。




そしてまた別の日




なんの予定もなく退屈だったので、この前行ったスロットをまた打ちたくなってしまった。


とりあえず、以前とは違う店に足を運んでみた。


時間はまだ午前中だった。


オープンしてまだ時間がたっていない。


店内はほとんど人が入っていなかった。


僕はまたジャグラーの台を探して座った。


その空間にいるのは、1人のおばあちゃんだけだった。


このおばあちゃん、朝っぱらからスロット打ちに来てんのか。


それはお互い様なのだが、そんなことを考えつつただただペカるのを待って打ち続けた。


そんな時間が数分続いた頃だろうか、何者かが僕の背後に立っているのを感じた。


おっさんか誰かが僕の台を見ているのかな?そんなふうに思っていると、その人が僕に話しかけてきた。


「ちょっとちょっと、お兄ちゃん」


声がする方に振り返ってみる


するとそこには先ほどから1人で打ち続けているおばちゃんが立っていた。


「これこれ、これ打って」


おばあちゃんが指さす方向を見てみる、どうやらジャグラーがペカリ出したようだ。


あーええやん、チャンスやーんなどと適当に返していると、違う違うそうじゃない。


どうやら、このおばちゃんは3つ目のボタンを僕に押して欲しいと言っているらしい。


いやいやなんで?


俺がおすのリスクしかなくない?


そんな大事なボタン押されへんよ。


ましてや見知らぬ老人の打ってる台のボタンを。


いやいやおばあちゃん自分でやりーやー!と言っても、いやいやお兄ちゃんが押してーなーとなぜか引けを取らない。


どうやら、自分で押すより若いのが押した方が当たりやすいと思っているらしい。


なんとも責任転嫁なババアである。


しつこく催促してくるので仕方なく僕はボタンを押してあげることにした。


押すからにはちゃんとスリーセブンを狙ってあげないとな…


雑にやって外すのは良くないな…


てかなんでこっちが気遣わなあかんねん。

  
なんでスリーセブンのボタンを自分で押さへんおばはんの心配せなあかんねん。


もうさっさと終わらせよう。


よぉ〜く狙って、よぉ〜く狙って、よぉ〜く狙って……



ポチッ!



ダン‼︎‼︎



そこの現れたのはベルのマーク!


この状況ではハズレである。


しかし、ペカリはまだ続いている!



もう一度



よぉ〜く狙って、よぉ〜く狙って、よぉ〜く狙って……



ポチッ!




ダン‼︎‼︎






3つ目に現れたのはBAR BARの文字だった。



小当たりのファンファーレ♪



そして、横から漏れてくる声


「ああ……」


もう何やってんの? 

と言わんばかりのため息。



いやいやいやいやいや!


押させたのあんたでしょーが?


何でその態度取れるううーーう?


はーあ、コイツ私のチャンスを無駄にしやがった。 


そうとでも言いたいのか?



てかそもそもなぜ僕にスリーセブンのボタンを押させたのだ?


そこって自分で押さないと絶対に納得いかんくない?


何が正解やった?


まあそら、揃わせんのが正解やったんやろうけど?


人のせいにしてる感じおかしくない?


なんやコイツ



チャンスが小当たりで終わってしまい、おばあちゃんごめんなあーと軽く謝って自分の台に戻った。


おばちゃんは僕になんの言葉を発することもなく、そのまま続きを打ち始めた。


そのババアが打っていた台からは、もちろん小当たりの量のメダルしか出てこない。


その後、どうやらなんのチャンスが起きることが無い。


つぎ込んだお金を取り返せることなく全てすったらしい。


あの時、あの兄ちゃんが当ててくれていたら今頃もっと増えていたかもしれないのに。


あの子に頼むんじゃなかったわ。


朝っぱらから大損した挙げ句、肩を落として店を出る羽目になっていた。


僕に何の声もかけることなく…




「これ、僕悪いすか?」















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