じゃあこれで最後にしますね



これは僕が派遣でポスティングのバイトをしていた時のこと。


業務の流れが、当日の朝にまず環状線の福島駅にある事務所に集合する。

そこから各班2〜4人に分かれて車に乗り込み、目的地まで向かうという形である。


その日も僕は指示されるがままに車の後部座席に名前も知らないおじさんと乗り込み、運転席と助手席に社員さんが座り出発した。

どうやら助手席の社員さんが運転席に座る社員さんに何やら怒られている。 


おそらく

運転席:先輩    助手席:抜けた後輩

という構図なのだろう。


この抜けた後輩の立場の人は何度か見たことがあって、見るたびに毎回何かしら注意を受けている人だった。

でも当の本人は何も答えることなく平然としている。



ポスティングの目的地は様々で、車で大体30分〜60分ほどかかる場所にある。


そのため高速道路に乗ることも多い。



車が出発してからおよそ10分ほど経った時、後輩社員がなにやらカバンからパンを取り出した。


すぐさま封を開け、口に入れようとする。


するとそんな先輩社員が後輩社員に対し口を開く。



「その助手席で朝飯食うの怒る人おるからやめて方がええよ。」


その言葉に後輩社員が驚く。


「ええ?あ、だめんなんですかこれ?」


「俺は別にどうこう言わへんけど、それしたらめっちゃ怒る人おるから助手席で朝飯は食わへん方がいいよ。」



なるほど、たしかにそうだ。


先輩が運転をしているのに、助手席で呑気に朝飯を食べる奴がいると腹を立てる人もいるだろう。

というか大半がそうだろう。

そういった注意喚起を後輩社員に促す。

これは後輩社員と納得せざるを得ないだろう。



ただしかし、その後の後輩社員の返答に僕は度肝を抜かれることとなる。



「分かりました。すみません、知らなかったもんで。……じゃあ、今日で最後にしますね!」




と答えた後に、すぐさま手に持ったパンを食べ始めた。


いやドえらい根性しとんなコイツ‼︎


普通その状況でパン進む⁇


常人ならもう諦めてパンカバンにしまうもんね。


この人にそんな教科書は無いんや。


他人目から見ても今の言葉の裏には、

"とりあえずパンをしまえ"

と書かれていたけどな。


今日で最後にしますね?


なんでお前に今日ラストチャンスがあるねん。


勝手に作るな!



パンを食べる手を止めない後輩社員に先輩社員が呆然とする。


言葉の心理が伝わらなかったことに嘆いているのだろう。


今彼が思っていることを僕が代弁しよう。



"お前持ってるパンごと顔面殴ったろか"



こう考えていたに違いない。




結局、相手に自分気持ちを伝える時は、ストレートが一番手っ取り早いのかもしれないですね。








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