NSC42期リタイア記録簿 栗田大輝編






NSCには毎年、大阪だけでも200人近くの入学生達がいる。

しかし、そんな中で卒業まで残る人数は半分程となる。

中には養成所の雰囲気に合わず辞めていく者、自信をなくし消えていく者など色々な奴が存在するのだ。


今回はそんな途中敗退者の中から1人の男を紹介しようと思う。


栗田大輝(多少仮名) 24歳


彼は入学当初、Sサイズというコンビを組み、授業にも積極的に参加する真面目な奴だった。

僕自身よくお笑いの話をして仲がいい友達の1人だった。


しかし、ある日を境に彼は授業に来なくなった。

NSCから姿を消したのだ。

あんなに真面目だったやつが急に来なくなる。

その原因は一体何だったのか?

正直、僕の中には1つ心当たりがあった。


それは、授業が休みだったある日のこと。


その日は栗田ともう1人、武田という奴との3人でウチで桃鉄をすることとなった。

最近とてつもないブームが起きている桃鉄だが、僕はスイッチバージョンが発売される前からこのシリーズの大ファンであった。

それに関しては栗田も同じ意見だったらしく、授業終わりに「またいつか桃鉄をしよう」という話になっていた。

そこに同じクラスで多少仲が良かった武田を誘ったというわけだ。


3人はそれぞれ住んでいる場所がバラバラなので、ウチに来るには2人とも電車を乗ってくることとなった。

そうなると普通は駅まで迎えに行くのが妥当だろう。

だが、僕は極度のめんどくさがり屋である。

せっかく来てくれる2人を迎えに行くことすら面倒だった。

なんとか家から一歩も出ずに彼らをウチまで来てもらう手段はないか?
そう考えた僕は、紙一枚に簡単な地図を書いて2人のLINEに送った。

「これ見て来てー」

なんとも投げやりな歓迎。

わざわざ足を運んでくれる人にする仕打ちか?

するとその数分後、ケータイに通知が来た。

栗田からだ。


「なるほど!もう既に桃鉄は始まっているってことか?」


うわ、ダルぅ…

なんか苦手なノリやわコイツ…


自分でやっときながらそう感じてしまった。

やけにテンションが高いな。

まあ休みの日に友達とゲームをする、小学生の時は当たり前のように出来たことだが、大人になると数倍楽しさが増すものだ。

コイツもそのワクワクが高まっているだけなのだろう。

この時はそこまで気には止めていなかった。


そして、ようやく1人目がウチに到着した。


武田だった。

いらっしゃーいと軽く挨拶を済ませて、軽く雑談をしながらもう1人の訪問者、栗田を待っていた。


すると、間もなくして栗田が到着。


手にはスーパーの袋を持っていた。

ウチでゲームをするのに差し入れを買って来てくれていたみたいである。

これには僕も感謝の一言、わざわざありがとう!

そう言って渡されたスーパーの袋の中身を見てみた。


・うまい棒30本入り
・アルフォートの大袋
・ポッキー(しかも極細)


うわぁセンスねぇ……

終わってんなコイツ。

アルフォート、ポッキーはまだ分かる。

うまい棒30本入りを選ぶあたりが壊滅的。

このラインナップからお前の人間性を疑うわ。


そして案の定、うまい棒を食べるとカーペットに粉が舞う。

コイツ何考えてんねん‼︎


表には出さないまでも、僕の中では確実にイライラゲージが溜まっていった。


でもまあ、ゲームが始まったら楽しく過ごせるだろう!

そう考えていた。


皆さんは桃太郎電鉄をやったことがあるだろうか?

もちろんこのゲームは長年ファンから愛される屈指の名作シリーズなのだ。

しかし、1つだけ欠点がある。

それは、プレイ中にそいつの人間性がはっきりと映し出されるのだ。


案の定、この時も3人の人間性が現れ始めた。

武田はあまりルールを熟知していないのでそこまで現れなかった。

問題は栗田だ!

コイツだけは本当に腹が立った。

ゲームの進行に対してイライラしたわけではない。

ゲーム中にする軽いイジリを全て流したり無視したりするのだ。

なんやねんコイツ‼︎

別に面白おかしく返せとは言っていない。

何でもいいから何か返してくれたらいいだけなのに!

こちらだって楽しくゲームをしたい。

楽しく遊びたい。

だからこそ場を盛り上げようとしてやっていることなのだ。

2人とも自分からテンションを上げるような奴ではなかった。

だからこそ僕が頑張ってその役割を担っているのに。

何やねんコイツ!

瞬く間にイライラが募ってきた中、ゲームは終了した。


その後は3人で雑談をしていた。

やはり話題はNSCの話になる。

コイツおもろいよな、やっぱりネタ作らなあかんなあーとか、たわいもない話が飛び交う。


プロを目指している我々、やはりトークも求められることがある。

だから喋る練習もしとかなあかんよな、という流れになった。


「栗田ってなんか自信あるトークある?」


とりあえず栗田から振ってみた。

順番に話をしていく流れにしよう。

すると、栗田が持ち前のトークを披露し始めた。


[親戚の男の子の話]

お盆休みに親戚の男の子と話をしていた。

親戚の男の子の名はユウくん。

栗田はそのユウくんと話をしていたらしい。

「ユウくんは、食べ物では何が好き?」

「にんじんが好き!」

「にんじんが好きなの?えらいねえ」

「うん!」

「じゃあユウくんは、にんじんを何で食べるのが好き?」

「お箸で食べるのが好き!」

って言ったから、可愛いなって思った。



…なんじゃその話?

何を聞かされてんねん俺たちは。

今遊んでるにしても暇ちゃうねん。

いい加減にしてくれ。


栗田の謎エピソードにより、場は凍りついた。

コイツまじか。

本気でそれがおもろい思ってんのか?

その後も僕は、栗田にあの手この手で振りを飛ばしていった。

何故か即興落語を強要したり、大喜利をさせたりと無茶苦茶だった。

何を振ってもちゃんと返してくれないのだ。

滑ることを怖がりすぎて守りに入っている。

武田に関しては何かしらやってくれるのに。

お前は何をしてんねや!

お前は何をしに来たんや。

マジで桃鉄しに来ただけなんかい。

うまい棒一回しっかり咥えてからかじるな、腹立つから。


こうして盛り上がらない時間だけが過ぎていき、その日は解散した。


そして数日後、NSCに通っている中僕はあることに気がつき始めた。

最近、栗田がNSCに来ていないなあ。

先日遊んだ日の直後にクラス替えが行われた。

それによって僕と栗田、武田の3人は別々のクラスになったのだ。

それにしても姿を見なさすぎる。


気になった僕はそのことを武田に話してみた。

彼はあの日以降、栗田から色々話を聞いていたのだという。

そんな彼から聞いた栗田の言い分はこうだ。


あの日から、"面白い"って何なんやろう?と色々考えてしまって、こんなとこで躓くようなら絶対にプロでは通用せーへんなって思って自信無くしたわ。


えええーーーー?

うそうそうそおおおおーーーーーー!

絶対にワタクシが原因ですやーーん?

こんなことってあるのーーーおおおーーー?

わーーーわーーわーー!


そう、おそらく…というか確実に、彼がNSCから姿を消したのは僕が原因なのである。

あの日、過度な無茶振りをアイツにぶっかけすぎた。

そのせいで栗田の精神は完全に崩壊してしまっていたのだ。


いやいや、あんなことで自信無くすなよ!


そう言ってやりたかった。

いやそれを言う筋合いないやろ。

お前が元凶で消えとんねん。


行き過ぎたちょっかいは、人をこうも変えてしまうんですね。

それ以降、栗田と出会うことは一度もなかった。

NSCをやめた今、どこで何をしているのだろう?  

彼のお笑い人生は、桃鉄とお菓子選びのセンスの悪さにより、終わりを迎えることとなった。



NSC42期 リタイア記録

栗田大輝 (24)

組んでたコンビ:Sサイズ、るるん

代表ネタ:ツンデレ講座

特徴:・老けた見た目の割に若い
   ・目がいってる
   ・エピソードトークをほっこり話と勘違  
    いしている
   ・お菓子選びのセンスは壊滅的
   ・うまい棒を一旦しっかり咥えてからか                   
    じる









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