遠足晴れのち大雷


忘れもしない、小学3年生の遠足。

僕は担任の先生に学生生活史上ダントツで怒られた。


行き先は大阪扇町にあるキッズプラザ。

関西テレビの建物内にある子供向け施設である。

入り口で学年3クラスが集合した後、グループ別で5人ずつに分かれて12時〜14時までの2時間の自由時間が与えられた。

グループごとに班長を1人決めることになり、低学年の我々は何故か皆班長になりたがる。

もちろん僕も立候補しており、ジャンケンか何かで決めた結果、僕はグループの班長になった。

各々好きな場所に遊びに行き、キッズプラザといえば子供には天国のような場所。好奇心をくすぐられるものばかりで夢中になって遊んでいた。

大きなシャボン玉、ジャングルジム、お店屋さんごっこ。1日遊んでも飽きないほどの工夫が施されている。

そんな色とりどりな施設が並ぶ中、僕たちのグループは"体験教室"と書かれた部屋を見つけた。

そこは日替わりで体験内容が変わる、いわゆる生活の知恵を学ぶための教室のようなものだ。

面白そうだと思い、我々5人はその体験教室の門を潜ることにした。


これが、後に担任の顔を真っ赤に染め上げることになるとも知らずに…


その日の体験教室は洋服作りだった。

おそらく従業員が捨てるでもなく、売りもしなかった不要な服たちが並び、好きに工作してくださいといった内容だった。

あまり面白くなさそうだな…初めはそう感じていた、しかし子供というのは単純なもので気づいたら洋服作りに没頭していた。

誰が着ていたかも分からない服を手に、ポケットを縫い合わせる作業をする。

子供が針を持つと危ないという理由で、ハサミで開けた穴に竹串のような貼り代用品でポケットを縫い合わせていく。

それが出来て何がええねん、でも当時の僕からしたら遠足にお土産ができただけで喜んでいたのだろう。

じぶんの作業を終えて周りを見渡す。

すると、まだ他の4人は作業を続けていた。

みんなが終わるのを待ってるか…と思いながらふと時計に目をやった。


その針が示す時刻に、僕は焦りを覚えた。


13:45‼︎


まずい、そろそろ集合場所に向かわないと間に合わない。

僕はみんなに声をかける。


「もうそろそろ行ったほうがええんちゃう?」


しかし、焦る僕をよそになぜか他の4人は能天気である。


「あともうちょっと〜」

「まだ行けるやろ〜」


なんでそんなお気楽なんだ?

もうあと15分しかないんやぞ?


その後も一向に出発の準備をしない班員達。

何をそんな余裕を持ってるねん。


時計に目をやる。


13:55


もうヤバいもうヤバい‼︎

今すぐ集合場所に向かうぞ!


そう決心して班員達に「もう行こう!もう行かないと‼︎」と声をかける。

それに対して班員は…


「もうちょいで終わるわ〜」


もうちょいで終わるやないねん!

集合時間間に合わへんねん!


もう行くぞ、行かへん、行くぞ、行かへんのやりとりをしている間に、長針は既にてっぺんを過ぎていた。


はぁーもう怒られるの確定やん。

なんで俺が怒られなあかんねん。

何回も忠告したって。


そしてようやく彼らの作業が終わった。その時点でもう時刻は14:05‼︎


とにかく急いで向かうしかない!


僕たち5人は必死になって走った。

少しでも早く集合場所に行かないと!


夢中になって向かっていると、気づいたら集合場所へと続く階段の前へと来ていた。


しかし、その階段の麓には"思い出スタンプ"というスタンプラリーのチェックポイントが置かれていた。

すると、1人の班員がふざけたことを言い始めた!


「俺最後にスタンプ押して帰ろー!」


なんでやねん。

なんで今この状況でスタンプ優先できるねん。

それに釣られて他の班員達も…


「俺も押すー!」

「俺も〜!」


次々にスタンプの元へ向かう班員達、だがやはり子供というものは単純なもので、みんなが押しているスタンプが羨ましくなり気づいたら自分自身もスタンプの元へ足を運んでいた。


みんなで仲良くスタンプを押した後、楽しくわーきゃー言いながらさあ階段を登ろうと上を見上げた途端、我々の顔は青ざめた…



その階段の先には、顔を真っ赤っかに染めた担任が立っていた。



「いつまで遊び歩いてるんじゃお前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」



キッズプラザ内に担任の大雷が炸裂した。



そして担任は我々に携帯の画面を見せつけて

「今何分や?」

と聞いてくる。


「14時10分です……」


泣きそうな声で答える。


「お前ら何考えてんのじゃこらああぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」


担任の矛先は、完全に班長である僕だけに向けられていた。

ケータイの画面を見せつけてきたのも僕だった。

僕はあんなに何回も忠告してたのに!

それを聞かなかったのは班員のコイツらだったのに‼︎


ああそうか、あそこで体験教室に入った時点で僕の負けは確定していたのか。

何故か班長を立候補していた時点で怒られることは確定していたのか。


僕が怒られることに納得はいかなかったが、その場ではただただ泣き尽くすしかなかった。

多分この経験が学生生活で一番怒られたと思う。

先生たちからしたら電車の時刻もあるから、時間を守れない奴に怒るのは当然な気がする。


その後、帰りの電車で自作した洋服を友達に見せ合っている班員達に本気で腹が立った、そんな小学3年生の遠足だった。











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