NSC42期リタイア記録簿 めじろ編



NSCには毎年、大阪だけでも200人近くの入学生達がいる。

しかし、そんな中で卒業まで残る人数は半分程となる。

中には養成所の雰囲気に合わず辞めていく者、自信をなくし消えていく者など色々な奴が存在するのだ。


そんな中から今回は、「めじろ」というコンビを紹介しよう。


彼らは、ボケの撰(えらぶ)とツッコミ(名前知らない)からなるコンビである。

入学当初からコンビを組んでいて、ネタ見せ授業には必ず出席するほど真面目なコンビだった。

また、2人ともおそらく関西出身では無かったのだろう、お互い標準語で漫才をしていた。

その漫才スタイルがどう考えても吉本っぽくはなく、どちらかというと浅草にいそうな雰囲気を漂わせるコンビであった。


授業では積極的にネタ見せをしていた彼らだったが、1つ大きな問題があった。


それは、ネタ見せ授業の時に毎回ネタを飛ばすのである。

毎回は言い過ぎやろ?…いやいや、本当に、本当に毎回飛ばしていたのである。

NSC入学当初はネタを飛ばしてしまうコンビも正直少なくはない。

だが彼らは当初、百発百中でガン飛ばししていたのだ。

目を何度もぎゅーーっとしてネタを思い出そうとしている姿を何度も見せられた。

明らかなる練習不足なのだ。


しかもまた、ネタを飛ばす方も毎回同じなのである。

ボケとツッコミでは、ネタを飛ばしやすいのはどちらかというと話を進めていくボケの方だったりする。

だが、このめじろの場合は毎回ツッコミ(名前知らない)がツッコミセリフを飛ばしていた。

彼がネタを飛ばすたびに教室から流れるおいおいまたかよ…という空気。

ボケが飛ばすならまだしも、ツッコミならなんとかなるだろ。心の中で思っていた。


また、ネタを飛ばす箇所も一言目ではなく二言目なのだ。


「いやー僕、実は〇〇でねー」

「なんでやねん!〇〇やろーーー!」

↑この〇〇やろーーー!の部分を飛ばすのである。


だからこそ、そこはなんとかなるやろ!心の中で思っていた。


彼らの特徴はそれだけではない!


披露するネタのテーマがいちいち渋すぎるのだ。

NSC入りたてといったら、やはり"ヒーロー"や"デートの練習"などの定番テーマが多かったりする。

しかし、彼らがやっていたネタのテーマはそういったポップなものではない。


精肉店だ。


もう渋い、渋すぎるぞ!

それ落語家がやるネタのテーマやろ。

NSC生の設定やあらへん。

そしてまた、彼らの漫才の入り方も古臭いのだ!


「いや〜私ぃ〜精肉店を開きたくてねぇ〜」


もう「私ぃ〜」言うてるし。

しれっと一人称「私」でいこうしてるし。

普段お前の一人称どうせ「俺」やろ。

まだペーペーの我々なら絶対、「僕」でいいし。

漫才協会の期待のホープなんかお前らは。


このような特徴からか、彼らは我々のクラスの中でも異彩を放っていた。



ある日の授業。


その日は某芸人さんが講師となり、1分ネタを見ていただく授業の日だった。

もちろん、そのネタ見せにはめじろも出席していた。

色々な同期たちがネタのアドバイスをもらっている。

そんな中、とうとう彼らの出番が来た。


コイツ今日は大丈夫なんやろか?おそらく全員が思っていただろう。


そしてセンターマイクの前まで歩いていく。

「どーもーめじろですお願いしますー」

彼らの1分間の漫才が始まった。

テーマは今日も精肉店。

もうええわ。何回やるねん。


着々とネタが進んでいく…かのように思われた。


例によってまたツッコミ(名前知らない)がネタを飛ばしたのだ。

数秒間続く沈黙…

しかしネタを思い出すことができず、1分間という短い時間だったということもあり彼らのネタ見せは終了した。


そして講師からのコメントが飛ぶ。


「ネタ飛ばしちゃったの?」


そりゃ当然そう聞かれるだろう。

明らかに沈黙していたんだから。

また目ぎゅーってやってたし。

そんな講師の質問に対して、ツッコミ(名前知らない)がゆっくりと頷く。

その後、彼の口から出た一言。


「すみません今日僕、夜勤明けでして…」


絶対に言ってはいけない一言を口にした。

もうめちゃくちゃ言い訳し出したやん。

この場でその様な言い草はご法度である。


静まり返る教室内。

悪い意味での緊張感が、空間を支配する。

昔学校で、2日連続で忘れ物したやつが今日も忘れ物をしてしまい先生にブチギレられている時、こんな空気だったな…


夜勤はお前が勝手に組んだスケジュールであって、そんなこと講師には全く関係ない。

夜勤明けを口実にしてしまうようなやつ、どう考えてもお笑いには向いていない。

もし将来、芸能界でブレイクしたとしたらどうするのだろう?

劇場でネタを飛ばしてしまって、「すみません、今日年越しカウントダウンライブ明けで疲れてるので〜」なんてことを言うのか?

そんなこと通用するわけがない。

師匠に顔面ドロップキックお見舞いされろ。

さすがにこの言葉には講師も呆れ返ったのだろう。


「あーそう、はい次ーー!」


と冷たくあしらわれて、彼らのネタ見せは終わってしまった。 



…てかそもそも、今日だけに限らずお前ら毎回飛ばしとるやないか!

何を今日だけは調子悪くてみたいな雰囲気出しとんねん。


そんな、ネタぶっ飛ばし漫才コンビ"めじろ"。

この2人は7.8月頃に解散をしてしまった。


それを機にツッコミ(名前知らない)の姿を見ることは無くなってしまった。

一方ボケの撰君は、ネタ見せにてピンで漫談に挑戦していたこともあったが、数ヶ月後には授業に顔を出すことは無くなっていった。


一説には、撰君は現在落語家を目指しているのだそうだ。

彼がもし座布団に座るようようなことがあるのならば、是非その芸を聴かせてもらいたい。




NSC42期 リタイア記録簿


コンビ名 めじろ

ボケ 撰 
ツッコミ 名前知らない

代表ネタ:精肉店

特徴:・毎回ネタをガン飛ばしする
         ・目をぎゅーってする
   ・ボケの一人称が私
         ・浅草の漫才臭が漂う
   ・めちゃくちゃ言い訳する
         ・実は、撰は元自衛官 


主なネタ中の会話

「あそこの肉団子くれえー!」
「あれは私の妻だよぉ」










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