生徒会より、ご連絡です。


芸人になる前からネタを披露することに興味があった。



人生で初めてのコントは、おそらく小学五年生のことだった。


当時、爆笑レッドカーペットやエンタの神様などのネタ番組が横行していたお笑いネタブーム


学校では、昨日のレッドカーペットの話題で持ちきりである。


担任までもが、昨日のレッドカーペット見た人ー!
と話を切り出した。


いや、せめてお前だけはまともに授業進めてくれよ。



そして、僕もそのお笑い波にどっぷりハマってしまった1人である。


元々人を笑わせることが大好きだった僕は、小学校のお楽しみ会という長期休みが入る前に開催されるイベントにてコントを行うことにした。


コントといっても小学5年生が作るネタだ。たかが知れてる。


今でも覚えている、車屋のコントだ。


しかも仲良い友達みんなと披露したので4人によるまさかの団体コント


ドラゴンボールの自由帳というスケッチに思いつくままに自分の世界を書き記した。


そして、クラスのみんなの前で披露


これが、ものすごくウケたことを覚えている。


もしかしたら、この時から未来の進路は決まっていたのかも知れない。



時は過ぎ、高校生になった。



初めての漫才は高校2年生でのことだ。


2泊3日の修学旅行での漫才初舞台。


2日目の夜にレクリエーションがあった。


ホテルの大部屋を借りて学年全員でゲームをして楽しんで、いい思い出を作るという素敵な時間だ。


そのレクリエーションに花を添えるべく、何か出し物をしてくれる人はいますか?という募集が修学旅行の前日にあった。


これはチャンス!


学年全員に面白い人と思ってもらえる絶好の機会だ!


この頃の僕は、学年全員に名前を知ってもらえているほどの生徒ではなかった。


なんなら、同じクラス、同じ部活、同じ中学だったやつ以外に僕のことを知っている人はほとんどいなかったように思う。


そんな奴が学年全員の前でネタをする、だいぶリスキーな話だ。


こういったものは基本的に、学年中の人気者、サッカー部の奴らが主役の舞台なのだ。


ハンドボール部の僕が調子に乗って立つ場所ではないのかもしれない。


ハンドボール部は運動部なので少し陽キャ寄りだが、でしゃばってはいけない立場なのだと重々自覚していた。


しかし、僕はこの有志企画にエントリーすることにした。


もちろん1人ではない。誰か相方が必要になってくる。


同じハンドボール部には、いじられ役担当の佐伯という男がいた。


彼は気が優しくて、とにかくただのいい奴。コイツなら僕と一緒にネタをやってくれるかもしれない。


ある日の練習終わり、佐伯にその話をふっかけてみた。


すると、なんと佐伯の答えはOK!


早期に相方をゲット。


よし!じゃあ早速明日、エントリーしに行こう!


後日、僕と佐伯はレクリエーションの企画を担当している先生の元にエントリーの意思を伝えに行った。


するとその場には僕たち以外にも、2組がエントリーに来ていた。


この顔ぶれは、案の定2組ともサッカー部中心のメンバーだった。

しかも、女子からの人気が高いイケイケの奴らばっかりだ。

そいつらが僕たちを舐めた目で見る…

そんなこととは別に、僕は気になることがあった。


なんと、先生が僕たちのことを煽るような目で見てくるのだ。


「あなたたちに学年全員を笑わせることなんて出来るのかしら?」


みたいな雰囲気を醸し出してくる。


え?先生がその顔する?


余談だが、その先生は男子生徒に対してぶりっ子口調で話すめちゃくちゃ気持ち悪い女教師だった。

ブサイクではないが、可愛くもない。しかし彼女は自分のことを可愛いと思っている。

何故なら、男子生徒がよく話しかけにきてくれるからだ。

メリットは若い女教師ってだけ。

僕はこんな勘違い野郎が1番嫌いだった。

可愛くもないのにぶりっ子、最悪な化学反応だ。

今すぐにでも顔面にロケット花火を発射させたい。



すみません、話を戻します。



その日から僕と佐伯の漫才稽古が始まった。


まず第一にどんなネタをやるのかが問題となってくる。


この時から僕にはある考えがあった。



プロの芸人のネタを完コピするというのは絶対に違う。



高校生が人前でやるネタなんて、それでもいい気がする。


だが、芸人がテレビでやって爆笑をとるネタを、僕たちが完コピをして受けを取れるのは当たり前だ。


それで得た笑いは、自分たちの手柄ではない。


人のネタをやって爆笑を取り、女子からの


「面白かったー!」


の声に鼻の下を伸ばすそんな連中に吐き気がしていた。


だから、ちゃんとオリジナルのものをやりたい!

そんな思いが強くあったのだ。


そうとなると、ネタを考えなければいけない。


その日の夜、勉強で使ったことなどほとんど皆無に等しい勉強机に向かい、必死にネタを考えた。


後日、僕は一晩で考えてきた漫才ネタを佐伯に渡した。


ルーズリーフ5枚分

そのネタの内容は、街で芸能人を見かけたら声をかけてみたいといった漫才コントだった。


ボケ、ツッコミ両方自分で考えたものだとは言いつつも、今思えば某漫才師のシステムによく似ているものだったように思える。


たかが高校2年生が作った漫才なんだから、別にそれに対してなんの問題もない。ネタの作り方なんて一切知らないのだから。


佐伯が渡されたルーズリーフに目を通す。


5枚目の紙をめくり終えた。


さあ、どうだ?


佐伯の反応は、思ってた以上に好感触だった。


よかった。やりたいことができる!


その日のうちに配役を決めて、佐伯がボケ、僕がツッコミとなり、部活の練習終わりや休みの日など時間を見つけてはひたすら漫才の練習をした。



そして、いよいよ修学旅行の日がやってくる。

2泊3日の台湾旅行だ。


レクリエーションが行われる日は2日目の夜


1日目は何も気にすることなく気楽に過ごせたのだが、2日目のお昼を過ぎた頃から僕の心拍数はずっとスヌーズを起こしていた。

何度も平常運転に持って行こうとしたが、心臓のアラームは鳴り止まない。
無論、鳴り止んだら終わりなのだが

夜のバイキングの時間も全く食欲がなく、ポテトフライやナゲットくらいしか食べないというめちゃくちゃ勿体無いことをした。



夕食の時間が終わり、とうとうレクリエーションの時間がやってきた。


司会役の男子2人が最高潮に盛り上げてくれる。


このレクリエーションの演目は


ゲーム
1組目発表
ゲーム
2組目発表
ゲーム
3組目発表

といった進行だった。


我々の出番は2組目だった。


1つ目のゲームが終わり、1組目の有志が舞台に立つ。


彼らはサッカー部、バスケ部、ウチのハンドボール部で成り立つ三人組


トリオ名 「脱臼ズ」


確か、3人とも肩を脱臼したことからつけられたトリオ名である。

今思うと軽く名付けのセンスを感じる。


そんな彼らのネタとは…


初め3人が会話の中で ウィ・ウィル・ロック・ユー を歌い出し

最後ロックユーのとこを脱臼に言い換えたつかみをした。


これがかなりの好感触

会場が笑いに包まれた。


やるなあ脱臼ズ


しかし、その後は…

某トリオ芸人のネタを完コピして披露していた。


やはり出ました僕の嫌いなパターン


しかし、その3人をみんなが知っているからこれがウケるウケる。


舞台の3人は満足そうな表情で舞台を降りた。


このパフォーマンスを見て、僕と佐伯は顔を見合わせた。


この時の佐伯は何を思っていたのだろう?



近くにいた友達が僕に煽りをかけてくる。



「これ超えられるかあー?」



馬鹿にすんな。


こんな芸人のネタで笑い取ってるだけのやつなんかに負けるかい。

おもろいんはお前らやない、そのネタを作った芸人や。


僕の闘争心に完全に火がついていた。

だが、体は正直で2つ目のゲームが終わりを迎える頃には手と足がガタガタ震えていた。


その足で舞台横まで移動する。


学年全員がスタンバイする僕らのことをガン見している。


知ってくれている女子の頑張って!っていう顔

同じハンドボール部のあいつは大丈夫か?っていう顔

僕らのことを全く知らない、なんか知らん奴出てきてんけど?みたいな顔


極度の緊張の中、僕はなんとか頭の中でセリフを復習していた。


そして、司会が進行を進める。


「さあ、次は2組目の有志の発表です。それではどうぞー!」


合図がなった!もうやるしかない。


「はいどーもー!よろしくお願いしまーす!」


舞台に上がった瞬間、僕にまさかの事態が起きる。



ネタが飛んだ…



一言目のセリフが全く出てこない。

落ち着いてその場で佐伯に、次なんやったっけ?
とセリフを聞いた。

そしてなんとか思い出して、そのままネタを始めることができた。


飛ばした箇所が序盤も序盤だったため、特に支障をきたすことがなく進めることができた。


甲子園には魔物が住む、舞台にも魔物が住んでいるのかもしれない。あんな練習したネタが簡単に飛んでしまうのだから。


その後僕と佐伯はなんとか約5分の漫才をやり切った。


結果はどうだったか…




これがかなりウケた!


修学旅行のテンションなども左右したのか、完全アウェイの僕たちでも会場を沸かすことに成功していたのだ。


最後、僕たちを知らない人たちがみんな笑顔で拍手をしてくれた。


ネタ終わりに、全く面識ない人たちまでもが賛辞の声を送ってくれて、一緒に写真まで撮ってくれた!



結果は大成功!

舞台に立ってよかった!そう思えた瞬間だった。


舞台終了後、ホテルの部屋に戻り、撮影していてもらった僕らの漫才をルームメイトと見返して、嬉しさに浸ったまま眠りについた。




時が進み、高校3年生を迎える。



文化祭の時期がやってくる。


修学旅行の時と同じように、文化祭でも有志の募集が発表された。


修学旅行と違うのは、学年中ではなく、学校中の生徒の前で披露することになるという点だ。


修学旅行での実績がある僕からしたら、この募集を断る理由がどこにもなかった。

なんなら待ってましたと言わんばかり


早速、佐伯に応募の連絡をすることに

すると、佐伯も迷うことなく有志に承諾。


修学旅行の時のような快感がまた、また味わえるかもしれない。


出演が決まってから、僕は授業も上の空で必死に漫才のネタを考えた。


そのおかげでこの学力になったのだが、それはまた別のお話。


時間を費やして、ついにネタが完成した!


よし、舞台は整った。これから本番に向けてガッツリ練習だ!







…と思ったのと束の間。ケータイを確認すると、あるメッセージがラインに入っていた。




さえき…




「ごめん、俺やっぱり有志やめるわ」








んんっつつつつ??



何だこれは?



幻か?



俺は今まだ枕元に首を添えている途中だったっけ?



何が起きているんですか?




それは本番二週間前のことだった。


おそらく、高校三年生の文化祭の時期だ。大学受験を控えている奴らがほとんどだろう。


それで我に帰り、こんなことをしている場合ではない。そう思ったのかもしれない。


僕は、進路が就職だったので、すでに内定が決まっていた僕はそんなことを全く気にしていなかった。


もう既に出演は決まっている。


といってもたかが文化祭だ。キャンセルなんて簡単にできる。


だが、ここで逃げてしまうのがとてつもなくダサい。そんなふうに思ってしまった。



窮地に追い込まれた僕が下した決断、それは…




1人コント




もうこれしか無い。1人でやるんだ。


こうして出来上がったのが音響コント。


高校3年生のガキが一丁前に音響コントを作ったのだ。


ちゃんとCDに音源を焼いて、準備万端。


1人コントなので練習は家でいくらでもできた。


さあ、やるぞ!




そして迎えた本番当日


文化祭のくせに、どこの学校でもリハーサルなどはしっかりと行う。


ここで1番心配だったのが、CDがちゃんと体育館のデッキで流れるのか?

そこが第一段階だった。


試しに先生がデッキの再生ボタンを押してみる。


すると、しっかりと家で聴いた音源が流れているではないか。


一安心


あとは、本番の時間を迎えるだけだな。



有志の本番、その前に自分のクラスの劇があった。


演目 「白雪姫」


高校3年生がやるタイトルか?これが


もっとみんなディズニー系とか、ドラマとかやりたがるやろ。


保育園で卒業せえそんなおとぎばなし


白雪姫、僕は小人役で出演した。

通常白雪姫の小人は7人だが、この劇では何と9人の小人役がいた。


エゴ出てるエゴ出てる。


無理矢理自分らがやりたいことを詰め込んでる。


誰か2人降りろよ。



結果、その白雪姫の劇は18歳とは思えないクオリティで幕を下ろした。


それはそれとして


1つ目の本番を終えた僕は、そのまま体育館に残り他のクラスの発表を見ていた。


僕はこういった劇を見ることは嫌いでは無い。

むしろ大好きだった。


毎年、全校生徒で近くの劇場に小劇団の公演を見に行くことがあった。


そのイベントをめんどくさがる同級生だらけだったが、自分だけは楽しみだった。


今見ているのは文化祭レベルの劇で、セリフも棒読み祭りだが、どんなに表現が下手でも1つの物語が約20分ほどの中で繰り広げられるのがワクワクする。

これに関しては、自分自身がただ純粋すぎて簡単に引き込まれてるだけかもしれない。

そんな学生劇団を何組か鑑賞したあと、一度お昼休憩が取られた。


ここで我に帰る。



もう本番がすぐそこまできている。



なんか緊張してきた…


それもそのはず、1人でやるんだから。




そして、お昼休憩が終了。


今回の自分の出番はまたしても2番目だ。


修学旅行の時と全く同じ香盤表だ。


いよいよ、有志による発表が始まる。



1組目、またもや脱臼ズ


まずは、お決まりの掴みを終えて、その後はまた某トリオの完コピだった。


しかし、言わずもがなこれがまたウケるウケる。

高校生なんてこれくらいの笑いしか求めてないのだ。

だから、これが正解なのだ。


難しいことなんて別にいらない。


以前はこのウケを見て、焦りなどは感じなかった。


だが、今回は1人である。


僕の手と足が落ち着かない感覚に陥っていた。


脱臼ズが舞台を降りてくる。


次は自分だ。


なんかやりたくなくなってきた…


お腹痛くなったって嘘つこかな?


いや、その方が返って大ブーイングだ。


もう後には引けない。


よし、行くか






「続きましては、ナンジョウコウタによるピンネタです。」


聞いたことのないようなアナウンス。


文化祭でピンネタ、なかなかリスキーである。


名前を呼ばれて、椅子の上に座った。


すると、音源が流れてくる。



いっぱい練習したし、まあ大丈夫だろう。


音源のボケに対して、一生懸命突っ込む。


はっきりいって、このスタイルは高校生にしては難しすぎる。


この形で受けを取ることって本当に腕がいることなのだ。


そんなことも知らない僕は、安易にこの手法に手を出してしまった。


序盤、嘘のようなややウケが続く。


観客の反応に、徐々に僕自身も心が折れそうになっていた。


だが、まだ時間は半分ほどある。

ここで頑張って巻き返してほしい!







しかし!、次の瞬間。




信じられないような事態が僕を襲った。




自分の音源が流れる中、



ピンポンパンポン



と、入れたはずのないSEが再生されたのだ。



嘘だろ?まさか?…



そのまさかだった。



「生徒会より、ご連絡です。ただいまより、屋外スペースにて軽音ロック部のコンサートがあります。皆さん是非見に来てください。繰り返します。…」



生徒会のアナウンスが僕の音源を完全に邪魔したのだ。



おいおい、待ってくれよ?



そんなことある?



それは想定してないわ。



ええ?どうしよう?ええー?


舞台上で完全に固まる僕



そして、その僕の反応を見た観客たちはこれがアクシデントなのだと察知したようだ。




会場は驚異の裏笑いを奏で始めた。



舞台上から聞こえてくる声



「なんじょーーー!笑笑」


「頑張れー!気をしっかり持ってーーーー!」


「お前ついてなさすぎやろーーー!」



その通り、ついてなさすぎる。


このアクシデントがおそらく、この日イチの笑いを叩き出した。


予期せぬ事態


回収できない、ある意味放送事故



後に分かったことだが、生徒会達はこの時間に放送を使うことは控えるように連絡されていたそうだ。

しかし、そのうちの1人が誤って体育館に放送を入れてしまったらしい。



地獄の軽音ロック宣伝カーが通り過ぎた後、一度静まり返る会場。



…で?これからどうするの?


そんな空気を感じた。



別にここでネタを中止することもできるかもしれない、だが何とか僕はネタを最後までやり切ることにした。



流れ出す音源の続き…



その後の客の反応がどうだったかなんて、もはや語る必要もないだろう。



なんだったら、あの時点でやめてしまうことも正解だったのかもしれない。



舞台を降りる。



周りの同級生達は、見てはいけないものを見るような目でこちらを見ていた。



そんな目で見るくらいなら見てくれるな。



この僕の舞台を、ハンドボール部のマネージャーの先輩も見にきていたみたいで、体育館を出た僕に話しかけてきた。



「お疲れー!滑っとったなー!」




殺すぞ




率直にそう思った。


相手は女の人だ。でも、この場合に関しては乱暴な返答も合法だったように思える。



ああ、早く帰りたい。



この日、文化祭が終わる時間が来ることを切実に願った。





文化祭が終わり数日間、悪夢のような日々が僕を襲った。



周りの目が明らかに同情の目つきをしている。


あれほどのアクシデントが起きたのだ。悲壮感が漂っていたのかもしれない。



同級生からの心ない声


「おっすー!滑っとったなー!」

「おはよーアクシデント男ー!」

「あれは…マジ見てられへんかったわ…」


最後やめろ。それが1番精神的に辛いねん。



修学旅行の時とは遥かに違う結果となり、僕は最大の屈辱を味わった。




高校3年間、もしかしたらこの間だけで僕はお笑いの酸いも甘いも味わっていたのかもしれない。



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