【第7回 講義概略】

第7回なにものゼミにお越しくださりありがとうございました。
第7回は、ALSという病を抱えながら日々精力的に講演活動をされている岡部宏生さんを講師としてお招きし、「ALSとこれから」をテーマにお話し頂きました。第7回講義を受講出来なかった方のために、講義概略を掲載します。

身体が動かないことは「尊厳」を失うことではない

安楽死を選択する人たちの中には、「人間の尊厳」を守って死にたいという主張をする人がいる。自分でご飯が食べられないことや、排泄を介助してもらうことは、「尊厳」を失うことだと語る患者がテレビでも取り上げられていた。しかし、「人間の尊厳」とは本当にそういうことだろうか。もしそうなら、私はまったく尊厳を失って生きていることになる。「人間の尊厳」というからわかりにくくなってしまうが、それは「その人にとっての尊厳」だということ。人によって「尊厳」は変わるのだ。私にとっては、身体が動かないことは「尊厳」を失うことでない。全ての生物の生命についての「生命の尊厳」はあっても、「人間の尊厳」はひとそれぞれに違う。

安楽死という名の自殺

安楽死・尊厳死を選ぶことは、その人が自分はこういう状態なら生きていたくないということ。つまり自殺そのものだ。この事件に関して、社会の中で安楽死を議論する場合は、より深く考えてほしいと思う。

いつでも誰もが差別されるかもしれない可能性にある

コロナ禍では、重症になれば自分が差別される側になってしまうかも知れない。「優生」だと思っていた人がたちまち差別される側になる。そうしたわかりやすい例を社会で考えてほしい。安楽死を安易に認めることは、自分や家族や友人を追い詰める可能性があるということまで考えて賛否を言って欲しい。

誰かが関わってくれるなら死ではなく、生につながって欲しい

日本でも有数な介護者に囲まれて暮らしている自分でも、文字盤等を使ってのコミュニケーションが難しい介護者に介護を任せ、何時間も舌を噛んだまま、よだれを流して過ごしているときには本当に辛くて悲しくなる。でも、いつもの介護者や、ALSによって発信ができなくなってしまった仲間の患者が心の支えになっている。

目の前に貼った自分では発信できなくなってしまった患者仲間の写真を見ると、「あなたはまだ発信できるでしょ?もし、私が発信をできたら、どんなに辛くても頑張るよ。」と叱咤激励をしてくれている気がするのだ。彼らを思うときに、今できることを120%やろうと決意を新たにする。どんなに辛かったとしても、発信できるならすると、彼らは思っているはず。そうして彼らが生きて、そこにいてくれていることで、私は「死にたい」から、「生きたい」に自分を変えていこうとすることができる。 
簡単に「生きようよ。」なんて言えませんが、誰かが関わってくれることで、生きる希望が湧く。私たちに関わってくれている皆さんがそうなのだ。誰かが誰かと関わることが誰かの希望になっている。だからこそ誰かが関わってくれるなら死ではなく、生につながって欲しいと私は思う。

Q.「これから」チャレンジしたいことはありますか?
 私のような存在が皆さんの隣で同じように生きて暮らしていることを知ってもらいたい。また、そういう人にあなたも関わって欲しいと発信することをライフワークにしたい。これはALSのような存在に対してだけでなく、障害のある人全体に対して思っています。

Q.なにものですか?
 「過去においてはビジネスマンでした。今は障害者です。未来は情報発信者であり、仏様になりたいと思います。」
 「私も死にたくなる時がある」この言葉を聞いた時、ひやっとするものがあった。学生時代には馬術に打ち込み、社会人となってからは自らの会社を立ち上げるほどの充実した生活を送っていた岡部さん。ALSを発症し、やがて体を動かすことは愚か、話すことまでできなくなってしまうと知ったときの絶望はどれほどのものだっただろうか。しかし岡部さんは常にこれからに向かって毎日を「生きて」いる。自分の生が誰かの生につながると信じて。

今回のゲストとしてお迎えした岡部宏生さんが演技指導をされている映画「十万分の一」は白濱亜嵐さんを主演に迎え、現在絶賛公開中です。全国の映画館で上映されていますので、是非ご覧になってください!

講義を終えて
「私はなにもの?」
講義のたびに自分自身にも問いかけていた。
けれどそれは逃げ水のように、追いかけても追いかけても掴めない。
私の「さがしもの」もいつか見つかるのだろうか。
「どうやって生きていくか」だけで自分や他人の価値を断定しがちだけれど、生存していることがその前提にある。岡部さんは講義中にそう語っていた。生まれただけで「もうけもの」なこの人生の中で、僕も自分のかけらをのんびり集めてみようと思う。
さて、あなたは「なにもの」ですか?
太田

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