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深夜1時の缶ビール

終電が近づいた駅前のコンビニ。酔っ払った仲間の顔を、見るともなく眺めて無駄な時間を噛み締めていた。その場の雰囲気だけをやりとりして、誰のことも何も知らない。

職場の愚痴も、誰かの恋愛話も失敗談も、あの時はあんなに大事だったのに、今はちっとも覚えていないのはなんでだろう。

だったらこのやるせなさも、いつかは忘れてどうでも良くなるのか。どうでも良くなるなら、今はどうしたらいいんだろう。やけになったらいいのか、抱え込んで蓋をしたらいいのか。

缶を持った手が冷たい。でも、春が近づいていることも知っている。今年の冬がもう終わることを、セールになったニットで気付いた。いくらかくたびれて見えたのは気のせいだろうか。あんなに欲しかった服も、もういらない。

あんなに会いたかった人も、今は何をしているのか知らない。あんなに好きで泣いた夜も、もう誰にも喋る必要がない。あの夜も、君の匂いも、優しさも、LINEのやりとりも、もう全部過去のこと。だって、もう好きじゃないから。

好きだったことすら言えなかった。これが最後になると思わなくて、またね、と言った。いや、最後になる予感はしてた。それでも繋いでおきたかった。そんなことをしても無駄だと、子どもの私でも知っていた。

また冬が終わる。春の匂いがする。春は嫌い。


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