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【交換note】『留守』を関西弁にした理由。

こんばんは。いよいよ稽古も佳境になってまいりました。演出として脳みそフル回転させてるたかつです。

昨日のお富ちゃんからの交換ノートのお題は
「冬に食べたい夜ご飯は?」
と、
「今日までの留守の稽古で一番○○な一言」
でしたね。

今食べたいのは「おでん」です。稽古帰りにみんなで「おでん食べたいねー」って言いながら帰ってきたんで。
おでんって自分で作るのはめちゃめんどくさいんで、基本的にはコンビニおでんですね。冬の稽古終わりにおでんか肉まんを食べるのって、なんであんなに美味しいんでしょうね。

さて、もうひとつ。
「今日までの留守の稽古で一番○○な一言」
そうですねえ。せっかくなので、ひとりずつの「一番」を選びましょうか。

とある稽古での、お富ちゃんの「あんたがゐてくれた方がいいの」のいい方がとてもしっくりきたことがあります。「お八重」という役のもつ可愛らしさや、シーンとして必要な「相手を勘違いさせてしまう要素」があったのが良かった点だと思います。これを聴いて「ああヒロインだなあ」としっくりきました。また、京都出身の彼女の京都弁のイントネーションが可愛さを倍増させていたんですよね。表と裏の顔が同時に存在する感じが、勘違いを加速させていくんです。

村井さんは「かまわんとって頂戴」が秀逸ですね。言葉の意味と全く正反対の気持ちを全力で載せている台詞で、「おせんべいどうぞ」という状況で「かまはないで頂戴」と言いながらめっちゃ喜んでいます。「おしま」という役を通じて村井さんの魅力そのものがギュッと凝縮されています。しかも安定している。本心から煎餅が好きなのだと思います。どこのがどう美味しかったかを語らせると生き生きしていますよ。

イシゲくんの「まあ、まあ。……。」も、とても馴染んでいていいですね。喧嘩の仲裁をする台詞ですが、役本人の「それどころじゃない感」や「ややないがしろにされやすいキャラクター性」が重なっており、いい味を出していると思います。これは進化を遂げている最中な気がする。イシゲくんは意味のある言葉よりも、とっさに出てくる嘆き声とかがいつも面白いんですよ。だからこそ、こういう台詞の方が本人と役のフィット感が高いのかもしれません。

今回の台詞は、役者たちに「言いやすい関西弁などがあればそれに直してください」というオーダーを出しています。
それぞれの出身地等を反映させてくれ、ということですね。
お富ちゃんは京都、村井さんは大阪北部、イシゲくんは転勤族でいろんな土地を転々と育ったらしいので標準語に近いのかな?
当時のことを調べていると、「田舎の農家出身の女性が花嫁修業として都市部へ行き女中として働く」ということがポピュラーだったようです。
舞台を京都の中心部だと仮定して、それぞれの役がどこ出身か?等は役者の持つ事情を反映してもらいました。そのほうが、等身大でリアルになるな、と思ったからです。

『留守』を書いた岸田國士さんも、時折方言を使った脚本を書かれていますし、方言について人間の面白さを伝える上で重要だと考えておられる文章も遺しています。

私は方言の専門的研究家ではないが、人一倍その魅力に惹きつけられる。(中略)それぞれ、その地方に生れ、育ち、住む人々の気風を伝へることに於いて、これくらゐ微妙で、正直なものはない。
 人間といふものは、兎に角、面白いものだ。どんなに単純な性格だといつても、そこには、いろいろの影響が、二重三重に浸み込んでゐて、一見同じ型の気質のうちに、意外な陰翳の相違を発見し、またこれと逆に、どう見ても正反対だと思はれる人物の輪廓を通じて、どことなく共通の感じが迫つて来るやうな場合がある。
岸田國士『方言について』青空文庫https://www.aozora.gr.jp/cards/001154/files/44507_36700.html

また、今回の戯曲は約100年前に書かれています。もちろん現代と当時では全く違う価値観だったり、言葉使いも難しい耳慣れないものがたくさんあります。けれど、登場人物たちは女中や八百屋という職業についている平凡な市民たちです。なかなか主役として取り扱われない人たちで、当時の暮らしの資料探しが大変です。ただ、脚本の中で彼女たちは人の噂話に右往左往したり、友人と楽しんだり喧嘩したりと、約100年後を生きている、私たちと同じだと共感するところも多々あります。

約100年前の戯曲を、今演じてみる。そこには文化的価値はもちろんですが、人間というものを描くと出てくる面白さが、ともすると現代と変わらないものがあるのではないか。その等身大の人間らしさ、そういったものが現代と通じる気がして、その可能性を模索したく、台詞の一部を関西弁など普段役者が使っている馴染みある方言に代えさせていただいています。

私の中では、違和感なく馴染んでいるというか、この戯曲の持つ面白さを邪魔してないと思っています。もしよければ、朗読劇バージョンはもうチケット販売していますので、そちらでぜひ確認してみてくださいね。

村井さんへのお題は継続して
「今日までの留守の稽古で一番○○な一言」
にしておきましょう。よろしく。

「ええな」と気に入ってもらえたら、「ちょっと気なるな」と思ったもらえたら、サポートいただけるととても励みになります!よろしくお願いいたします!