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2023年に読んで面白かった小説をご紹介

今年読んで面白かった小説をざっくりとしたジャンルに分けてご紹介します。今年は他者からの評価に翻弄される若者たちの悲哀を描いた「タワマン文学」と、『地図と拳』で直木賞を受賞された小川哲さんの出版されている作品をすべて読んだことと、17年振りの新刊が話題になった『鵺の碑』が印象に残りました。


タワマン文学

麻布競馬場著『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』

不健全な本だなぁと思いながらも、東京に住んでいると何となくわかる内容が多く、結構言いたいことが出てきたので3回にわたって感想を書いてみました。色々言いたいことが出てくるってのもいい本の一つの形なんじゃないかと思います。

小川 哲著『君が手にするはずだった黄金について』

ぶっ刺さったんので別記事にまとめました。

文学

小川 哲著 『地図と拳』

ラストシーンが美しすぎるんだけれどもそれ以上に、作中に出てくる「日華青年和合の会」やら「仮想内閣」のシーンで満州やら当時の日本なんかの情勢を巡る複雑な状況を鮮やかにそして分かり易く描写しているところが本当にすごい。この説明を見るためだけにでもこの小説は読む価値があるなぁと思わされる。

参考文献の数とその情報を頭に入れたうえで大きな齟齬なく、心動かすストーリーを紡ぐってのはマジですごい。

キャラクタも非常に魅力的で、無敵超人の細川はもちろんのこと、高木の人間臭さも、明男や丞琳のおぼこさも、中川の哀愁も、安井の弱さも、石本の強さも、孫悟空の奇妙さもいずれも印象深い。
個人的には町野軍曹の「俺に言われたから撃つんだと自分に言い聞かせろ」という台詞が好きです。あと、明男の船のシーンも高木との対比でご飯何杯でもイケるぐらいよかった。

小川さんの作品は初めて読んだのですが、この人凄いのでは?と思いました。非常によかったので別途まとめたいところです。

宇佐見 りん著『かか』

何がどう転べばこんな物語が書けるんだろう。
真摯でシビアでグロテスクで、重くて痛くて切ない。
もうね、読んでる間ずっと真顔。
なんだろう、文章の圧力が凄い。

個人的には『推し燃ゆ』の方が好きだけど、
これはこれで相当にぶっ飛んで凄い。
上手く言い表せない私の実力不足が非常に残念である。

辻村 深月著『傲慢と善良』

ネタバレすると嫌なので前提知識を入れずに読んでみました、ミステリだと思って読んでたのですがどうも大恋愛小説だったようです。

私は恋愛小説が余り好きではないです。なんか読んでいてもイマイチ乗り切れないというか、「わかるぅ」とならないからなんじゃないかと思うんですが、『傲慢と善良』はかなりわかりました。それはもう首を縦に振り過ぎてクラクラするぐらいにはわかりました。

それは、あとがきで朝井リョウ氏が書いているように、人の思考を詳らかに描いているからと、人がなぜそういった行動をとるのかという、ロジックが確り説明されてるからなんじゃないんじゃないかと思います。

まぁ、逆に言うと今まで読んだ多くの恋愛小説はロジックが理解できなかったわけですよ。多分恋愛小説のリテラシーが低いのよねあっしは。

小川 哲著『君のクイズ』

競技クイズをやっている人は、ほとんどのクイズの答えはわかるので、問題文が読み上げられるなか出来るだけ早く問題を確定させる勝負をしているというのが面白かった。

人は死なないが、クイズプレイヤーの早押しと言う魔法のように見えるものを、主人公の人生と共に紐解いていくミステリー。オチにリアリティが有って好き。


SF

劉 慈欣著『三体0【ゼロ】 球状閃電』

『三体』以前に書かれていた本作を日本語訳して出す際に、『三体0』とリブランディングして出された本。三体世界は関係ないのですが、『三体』で活躍した丁儀が出てきますし、実際『三体』でもこちらの話に触れられているので前日譚とするのは無茶ではないと思います。『三体』はSFの中で最も好きなシリーズなのでこちらも楽しく読むことが出来ました。

読み終わった後、『三体』の第34章「虫けら」を読み返してみました。最初に三体を読んだときには多分マクロ原子についていまいちイメージ出来ていなかったんじゃないかと思うのですが、こちらを読んだ後では鮮明にイメージすることが出来、自分も原子の中にいるような不気味な感覚を味わいました。

これは、どっかのタイミングで三部作を再読せねばなぁ。

ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』

縦横に広いストーリーも魅力的なんだけど、個人的には宇宙船でガニメデに向かうシーンや、ガニメデから木星を仰ぐシーンがお気に入りです。こういった日常からめちゃくちゃ目線を離させるのがSFの魅力なんじゃないかと思ったりします。

ミステリ的な要素も魅力だとは思うのですが、肝となる部分が中盤で何となく読めてしまったのが残念でした。
以下の記事にSF小説が好きな理由などを言語化してみました。

小川 哲著『ユートロニカのこちら側』

こちらにまとめてみました。

小川 哲著『ゲームの王国』

グロテスクな表現が多いですが、泥の戦闘後の解放よりも、どんどん処理されていく、ロベーブレソンの住民よりも、秘密警察による拷問の数々よりも、描かれている出来事の多くががルール設計によって起こっているってのがグロテスクだと思うわけですよ。

私は記憶力が悪いからなのか、自分の記憶をあまり信用していないところがあります。反芻した記憶は勝手に改竄されてしまっているんでしょうし、実際のところ、反芻していない記憶はどんどん消えていってると感じています。

上巻から半世紀がたった下巻では、登場人物たちの記憶も怪しくなっている箇所が多かったりする、でも、私からするとそんなもんだよなぁと思ったりするわけですよ。こっちは前日に上巻読んだところだから色々覚えてるけど半世紀もだったら大抵のことは忘れてるか、誤って覚えてるんじゃないかと思うわけです。

そんな概念の塊であって事実の塊ではない、フワフワした記憶の上に我々は立って生きてるわけです。なので物語ってのも記憶と同じように私を形作るパーツ足り得るわけですよ。これからはこんな甘酸っぱかったり、苦かったり、芳醇だったりする物語の上に立って生きられるわけですから、私は幸せだなぁと思ったりするわけです。

小川 哲著『嘘と正典』

もっと読みたい話ばかりで、良い短編集だけど、物足りなさも感じました。
・魔術師
これはうまい。マジックショーでも見させられたかのような読後感
・時の扉
なんか、王と地下室と銃でそれかなぁと思ったらそれだった。
・最後の不良
私はおしゃれとは対極にいて、ジーンズと白シャツとかジーンズとパーカーという作中に出てきた人たちのような恰好をしているので、そこまで見た目で自分を表現したいという感覚自体が良くわからん。でもなんとなく理解できてしまう話ではある。
・嘘と正典
最近「Steins Gate;」をクリアしたので、「まさにこれはDメール!!」とか思った。因果の詰まりとか、分岐した世界のせいで計算量が増加し、時空が不安定にって辺りが急にSFでよかった。

ミステリー

京極 夏彦著『鵼の碑』

歓喜日光!詳細は以下の記事にまとめました。

綾辻 行人著『Another』

非常に良かった。
読んでてひっかかってるけど、答えに結び付いてない色々が、一つの仕掛けでグワッと最後に結び付くので気持ちよい。個人的にはこれこそがミステリーの醍醐味なんじゃないかと思う。

浅倉 秋成著『俺ではない炎上』

『Another』の時にも書きましたが、この違和感が繋がる感じがミステリーの醍醐味だなぁと思うわけです。にしても、前半怖かったなぁ。殺人とまではいかんまでも語られて炎上するって可能性はありますよね。

個人的には、主人公が足の痛みで肥大化した自尊心を抑えるシーンが非常に良かったです。周りからの評価で人間は自尊心を持ったり失ったりするわけですが、あまりに周りからもてはやされると自分を自分以上の何かしらと勘違いしてしまう。そこで、痛みから自分を取り戻すってのはなんかリアルでよいですよね。

白井 智之著『名探偵のいけにえ―人民教会殺人事件―』

それほどミステリーを読まない私が古典的だと感じるぐらいなので、おそらくトリックに工夫がある部類ではないんだと思うのですが、見せ方が兎に角面白い。探偵が複数いるので、ミスリードが上手くされていたり、世界をどう認識しているかで物語の解釈が異なると言う仕掛けは、京極先生の百鬼夜行シリーズに通じるものもあり、趣味に合ったミステリーだった。

サスペンス

伊坂 幸太郎著『777 トリプルセブン』

いやぁ、面白かった。
『マリアビートル』の時には初めましてだった天道虫も、2作目になると良く見知ったキャラクタになるわけで、前作と比べると彼の特異体質もスムーズに飲み込めたのでシンプルに楽しむことができました。個人的には『マリアビートル』と比べてスッキリとしたエンタメ小説と言う印象です。

ホテルの中でドタバタする天道虫やマクラ・モウフと、静かなレストランでコース料理を楽しむ蓬の落差が良い緩急になっていて、読み疲れることなく楽しい3時間を過ごすことが出来ました。そういう意味では甘いの後にしょっぱいが来たら永久に食べられるという理論を体現したような小説とも言えるのではないでしょうか。

今作では、真莉亜の現場力が見られるシーンがあったりココや、マクラ・モウフなどの良いキャラクタが登場したので、次回作以降にも期待してしまいます。

2023年に読んで印象深かった本をご紹介


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