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誰かを思い出すsong

SUMMER  SONG/YUI

新緑が映えるよく晴れた日。我々弓道部一年生は、まだ弓を引かせてもらえず、ひたすら筋トレとランニングに励んでいた。

それは高校一年生の6月。水分を含んだ空気が夏の蒸し暑さを加速させる。ソフト部とサッカー部、野球部が使う第二グラウンドの周りを弓道部一年生一同、ぱつんぱつんの体操着姿でランニングしていた。山側の小道は木漏れ日が差していた。くそ暑い16時、西陽が我々を激しく照らす。
「なんかさ、歌おう。気が紛れるかも。」
誰が言い出しっぺなのかは忘れた。夏だし、という事でYUIのSUMMER SONG を選曲。知ってる人間だけで、取り敢えず、走りながら熱唱。

思い出は美化される。
木漏れ日が差す小道を現役高校生達が夏らしい曲を口ずさみながら、仲睦まじくランニング。その姿は正に青い春の象徴だ。

現実では、全員汗だく。1人は倒れタンカーで運ばれた。それを見送り、仕方がないから走るのを辞め、とぼとぼウォーキングを称したサボりを全員できめれば、他の部活の他学年が弓道部の先輩へ「サボってたよ」と告げ口。その後一年生皆で先輩から絞められる事になった。一体どこが青い春なのか。残ったのは日焼けした肌と、足元の披露だけだった。この灼熱ランニングは、一体弓道という武道にどう通ずるのかは、今でも謎のままだ。

夏は先生からアイスの差し入れがあった。バニラアイスか、ソーダアイス。私は決まって後者を選んだ。袴姿で射場にしゃがみ、足を投げ出し、道場に吹き込む熱を帯びた風にあたりながらアイスを頬張る。神棚の前で、なんとも行儀の悪い。腐っても武道家の我々は、それ以前に高校生、更に10代だった。神も、礼も、先輩も関係ない、ただその瞬間を楽しんでいた。何気ない、土曜日練習の午後の思い出だが、今でも形を美しく保ちながら、記憶に残っている。


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