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誰かを思い出す曲
たなばた / 酒井格
かつて私が通っていた大学、その側にある野球場では毎年高校野球の県予選が行われていた。
講義中に聞こえてくる、夏を感じさせる熱い声援とアナウンスは、ただレジュメを読み上げる退屈な講義中の良いBGMになっていた。
そこに重ねて聞こえてきたのは吹奏楽の定番曲『たなばた』。おそらく、応援の為に駆けつけた吹奏楽部が演奏していたのだろう。『たなばた』、夏の藍色の夜空と、輝く星達を思い起こさせる、なんとも美しい曲だ。夜空を流れ星が駆け抜ける様な疾走感が堪らなく好きだ。
講義終了後、学生達が食堂へ向かう流れに逆らってただ1人真逆の方へ歩いた。その演奏に魅せられて、吸い寄せられた先に、先客が1人。
「いやおるんかい!」
「絶対、林田も来ると思ったわ!」
フェンスによじ登っていた友人と鉢合わせ、大爆笑した。同じ木の蜜に吸い寄せられた虫の如く、我々は暫くフェンスに張り付き、お互いに感想を言い合いながらその演奏に耳を傾けていた。この異様な観客達の横を、あまり見ないようにして俯き加減の大学生が足早に横切って行った。そりゃそうだ。
かつて、私と同じテナーサックス奏者だった友人との吹奏楽談義はいつも楽しかったし、尽きなかった。
数年経った今でも、たなばたを聴けばこのエピソードを思い出して、口角が緩む。
蜜を存分に堪能した虫たちは、各々バイトを控えていたため、その場で解散した。
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