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日本のヘンリー・ダーガーは一筋を刻んだ ~正体不明の着せ替え少女人形たち~
ほんとうに良いものを買った。
ここで言う良いものとは、歴史上に名を残した人物の資料では無く、栄華を極めた芸術家の作品でもない。
もっとアンダーグラウンドじみており、きっと本人は表に出すこともなかったであろう作品だ。
いわゆるアウトサイダーアートと言われてるブツですね。
この異様な良さは見てもらうしかない。
歳月を感じる木箱の中身はこいつらだった。
わあ。
囚われたるは紙製の少女人形たち。身長は11〜18.5㎝の間と、子供のおもちゃとしては手頃なサイズだ。
本体は紙、一部はセロファンや布にて装飾さてている。
一点には裏面に針金が添え付けてあり、下端には小さな輪っか状の部分が付いている。何かに刺して立てたのだろうか。
並べてみると、大きさや絵の雰囲気から2〜3種類には大別出来そうだ。
どの少女も可愛らしい装いをしているがこれは既製品ではない。
すべて手描きで手作りなのだ。
戦前の少女雑誌の挿絵のように可憐な少女たちは一体いつ頃作られたものなのだろうか。
文字情報などの直接的な記載は無い。戦前とまではいかないものの、雰囲気やセロファンの劣化から少なくとも半世紀は経過しているのではないかと思われる。
では作られた目的は何なのか。子供向けにしては非常に出来が良い。良すぎる。
どこが良いのか。どこかアンニュイな顔の造形はもちろんだが、さらに素晴らしいのが服装だ。
大半は少女本体に着せられており、いや着せられてと言うより被せられているのだが、別途に作られている凝りようだ。
じゃあその下は裸体が描かれているのか?
それとも子供向け玩具のお人形みたいにつるっつるなのか?
細部に神は宿るなんて話を思い出しつつ、はやる気持ちを抑えてそっと脱がせてみる。
わあ。
神は宿っていた。
肌の陰影、病的に細い腰つき、乳房に陰部の一筋。
これは子供が作ったお人形さんなんかではない、大人が産み出した癖の産物だと言うことを確信した。
ここで改めて身長の高い3体を見てみる。
顔は同じおかっぱの女の子だが体格が違う。左2体は痩せ気味で顔色も良くない。左端は心なしか表情も暗く、浮いた肋骨が数えれそうな青白さだ。
対して右端はどうだろう。血色は非常に良く、顔には悲壮感をまったく感じさせない。
特筆すべきは足だ。何と太ましい健脚なんだろう。膝には赤みもさしているあたり女体への強いこだわりがだだ漏れだ。これは癖ですね。
どの少女の裸体にも一切の妥協がないんですよ。
それは頭身の低く、戦後の婦人雑誌の子供服モデルのような絵でも変わらず発揮されている。
こちらは前者と違い、服は表裏ともに着せられている。
驚くべきはさらにその下、めくってみると…
わあ。
彼女はパンツまで穿かされていた。
パンツは脱がされないのだが、その下にはおそらく…。
この体躯に対して一切の妥協がない描写は何故か、それはもう自分の癖を体現したものに違いないのです。
癖を燃料にしたこの世に一つだけの傑作に違いない…。
この傑作たちも、作者が存命のうちは決して公表されなかったんでしょう。
作者の世界のみで生きていたのだろう。
彼はきっと和製のヘンリー・ダーガーだったのだ。
唯一の違いは股間に一筋を引いただけに過ぎない。
ここに公開して、せめて彼の作品を記録しておこうと思う。
これがもう存在しないであろう作者への、僕なりの供養である。
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