見出し画像

かけ算をやりたいと言われたのでたし算のゲームを作った話

こんにちは。70点取れたら合格、としておくとメンタルが安定しやすいなと思うナナワリです。私たちは夫婦2人でボードゲームを制作しています。

初めて2人でボードゲームを作ったのは2018年の11月で、その時のゲームがゲームマーケット大賞キッズ賞をいただきました。ありがたいことです。

この記事は、キッズ賞をいただいた「ポラリッチ」というゲームができた経緯の話です。ボードゲームをまあまあ遊ぶくらいの人間が、ちょろっと思いついた遊びから「ゲームのルール」を作るまでのことなので、漠然と何か作りたいと思っている方の背中をちょびっとくらいは押せるかな、と思っています。
なお、これを書いているのは妻の方です。よろしくお願いします。

画像1

1. かけ算やりたいボーイ

私たち夫婦には子どもが2人います。上の子はマイペース笑わせたがり調子乗りやすいボーイで、下の子は自分中心よく笑うガールです。

調子乗りやすいボーイが6歳の時、「ぼく、たし算はもうできるから、かけ算をやりたい」と言いました。小1の夏です。この時の彼の言う「たし算できる」は、「一桁のたし算が時間をかければできる。よく間違えるけど」でした。

ううん、やる気は買いたいけど、かけ算とはつまりたし算だから、たし算の練度をもう少し上げて欲しいなぁ。九九はどうせ最後は暗記なので早めに覚えても良さそうだけれど、調子乗りやすいボーイのことだから理解せずに九九を覚えただけで「かけ算がわかった」と言い出しそうで、モヤモヤ・・・

2. たし算の反復と5のまとまり

そうだね〜と躱しながら私は調べます。かけ算の準備としてのたし算。今やっている「単純な計算の反復練習」から脱却しつつ、もう少したし算を繰り返す面白いやり方はないか

そしてこんな言葉を見つけます。

5のまとまりを意識することが大事

たし算、繰り上がりのあるたし算、かけ算、と理解が進んでいく時に5のまとまりが捉えられるかどうかが鍵になると。なるほど、分かる気がする。そろばんでも5の玉あるし、手の指も5本だもの、5は大事。うん。

画像2

3.ポラリッチの原型

5がパッと捉えられるようになればいいのであれば、計算練習としてこんな遊びはどうだろう、と考えたのがこちらです。

🐧 2人でそれぞれ計算ブロックを何個か見えないように持つ
🐧 せーので掌を開けて見せ合い、5個だったら「ドン」と早く言えば勝ち

画像7

これがポラリッチの原型で、6歳(当時)に教えて一緒に遊ぶとけっこう夢中になってやってくれました。嬉しい。そうこうするうちにかけ算のことは忘れた様子。しめしめ。

ちなみに計算ブロックを使ったのは、担任の先生が話していた次の言葉が脳裏に蘇ったからです。現実の、触れるものを使うアナログゲームと相性がいいですね。

(入学時点で)もう既に計算が十分できる子もいるけれど、ものと対応させてきちんと体感として『数がわかる』ことが大事なので、学校ではしばらく計算ブロックを使って学習します

4. ポラリッチは半日にしてなる

その日、帰宅してすぐの夫を捕まえて得意気に「こんな遊び考えたよ!面白くない!?」と報告。私は調子乗りやすいボーイの母なので調子に乗りやすいのです。

「いいね!面白いね!!」

褒められたのでますます調子に乗ります。

「でもね、これちょうど5になる時が少なくて、なかなか『ドン』て言えないんだよね〜。『ドン』て言いたいのにね〜。そこが上手くいけばすごく面白いと思うんだけどな〜!」

なかなか『ドン』と言えないのが原型の最も残念なところでした。1個から4個のブロックを2人で隠して持つとき『ドン』になる確率は25パーセント。4回に3回は手を開いたままし〜〜〜んとなります。体感にすると10回に9回くらいは出ない。あまりに『ドン』が出ないと間延びして飽きてきます。

すると夫が、それなら「5じゃない時」にも何かすればいいんじゃない?と言いました。なるほど。それはいいね、じゃあドンの代わりにコマを取ることにして・・・あれよあれよという間に3つのコマをコップで取るゲームができあがります。

画像9

下の動画は完成版のルールですが、この時点でルールの9割ができていました。

ポラリッチのタネが生まれ、9割完成するまでなんと半日。この最初の勢いがあったから、最後まで突っ走れたようなところがあります。調子乗りやすい遺伝子に感謝。

振り返れば、この辺りでもう6歳(当時)の計算力向上という目的はどこへやら、面白くしたい!というだけになっていましたね。親としてはアレですが、すべて調子乗りやすい遺伝子のせいということでひとつ・・・

画像6

5. 面白さの核(コア)

ポラリッチはとても単純なゲームです。ルール説明を読んだだけだと「これってゲームになってるの?」という方もいました。単純すぎないか、という点についてはたくさん議論したところです。

ポラリッチの面白さの核は原型の「5個でドン」であり、これは期待し、判断し、成功する喜びだと言えます。いわば、ミクロな成功体験です。

画像8

もっと複雑にしたら、要素を増やしたら、もっと「面白くなる」かもしれない。例えばキューブをサイコロに変えたら?色を変えたキューブを混ぜたら?ブラフ(嘘をつく)要素??

でも色々試した私たちの結論は、複雑さを増すことでたどり着けるのは、5個でドンとは違う面白さであるということでした。このゲームでは、5個でドンで掴んだミクロな成功体験という面白さの核を守ることにし、複雑化の道は捨てました。

蛇足ですが、短さと単純さも重視していました。プレイ時間やルール説明が長くなる要素は子どもの集中力と相性が悪いからです。パッと遊んで、パッと終われる。そして繰り返し遊べるゲームを目指しました。

6. そしてゲームマーケットへ

別チームでゲームマーケット出展経験が既にあった夫に背中をガンガンゴンゴン押されて、振り返る暇もなくデザイン・発注・製作を行いゲームマーケットへ。「5個でドン」をやった日から3.5ヶ月でした。

ゲームマーケット当日のことは、開場の拍手に感動したこと以外、夢中すぎてほんとうにほとんど記憶にありません。お渡しして、説明して、休憩して・・・でも、自分で作ったものを説明して目の前で「面白そう!買います!!」と言っていただくのはとにかく素晴らしい体験で、その勢いで4作目まで出してこられたと言っても過言ではありません。

VIVA、調子に乗りやすい遺伝子!!🙌

画像10

ちなみに初版のポラリッチはキッズ賞の受賞が発表された後に完売し、現在は下の写真のように中身のグレードアップした新版を販売しています。

画像4

画像5

7. ありがたきキッズ賞

まっっっったく想定していなかったので、受賞の連絡を見た時はびっくりしすぎて手が震えて皿洗いができなくなりました。ありがたいことです。ありがたついでにありがたすぎる審査員評を紹介させて頂きます。(ゲームマーケット2020春のカタログから抜粋)

作り手の遊び手への愛の感じられる作品と思いました。(草場純さん)
とにかく盛り上がるゲームです。ポラ・・・・・リッ・・・・・チ! という掛け声で、瞬時に計算し、あるいは目測で目当てのトークンを取りに行くのはシンプルながら、それ故にストレートな面白さがあります。(秋山真琴さん)
「一瞬でものを数える」という新しいタイプのパターン認識ゲーム。ドイツの出版社が発売して欲しいような内容だ。(小野卓也さん)
そのコンポーネントの可愛らしさ、それに見合った手軽さの中に瞬時の判断力を求められる、数を数えさせるだけではない素晴らしい作品です。(ふうかさん)

8. まとめ

🐧 たし算もおぼつかないのにかけ算をやりたいと言い出した調子に乗りやすいボーイのために「5個でドン」という遊びを考えました。

🐧 調子に乗ってもっと面白く、と考えていたらゲームになりました。

🐧 ゲームマーケットに作品を出し、ありがたくも賞をいただきました。

この話はここでおしまいです。長文を最後まで読んでいただきありがとうございました!もしあなたが初版ポラリッチをご購入下さった方でしたら、腹の底から出した大声をお届けしたい。「ありがとうございました!!!」

▪️ 新版のご購入は