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間取りのゲームを作った話

こんにちは。子ども部屋の数が足りなくなるとわかっていたのにそのまま家を買った、計画性のないナナワリです。まぁ、足りなくなってから考えよう。オーケーノープロブレム。

この記事は、私たちが変な間取りをひたすら愛でる紙ペンゲーム「マドリーノを作った時の話です。

なお、ナナワリは夫婦2人でゲームを制作しており、この記事は妻が書いています。よろしくお願いします。

マドリーノを知らなくても問題なく読めますが、もしも先にマドリーノについて知りたい場合は、こちらからどうぞ→🚪 

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1. 間取りのゲームを作りたい

突然ですが、みなさんは家の間取り図が好きですか?
私は好きです。

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Photo by Steve Johnson from Pexels

間取り図の持つ不思議な魅力については、「間取りの手帖remix」という変な間取りばかりを集めた本の解説に南伸坊さんが書かれた一節を紹介します。

 なるほど、間取り図というものは、それを見る人の想像力を刺激してやまない。著しく刺激してやまないものらしい。
 見る人が見れば、間取り図は将来の希望だったり、憧れの舞台装置だったり、夢の場所だったりするし、そこからストーリィが始まったり、映画が動き出したりする引き金かもしれない。
間取りの手帖remix / 佐藤和歌子著, 筑摩書房, 2007)

間取りを見て、想像を膨らませて、ワクワクする。そんな魅力ある間取り図をゲームにしたら面白そうですね。小さい頃に、砂の上に線を引いて間取りを作り、その中でおままごとをした人もいるのではないでしょうか。

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2. 変な間取りとは

実は、世の中には変な間取りというジャンル(?)があって、先に紹介した「間取りの手帖Remix」を始め変な間取りばかりを集めたサイトもあるくらいなので、そこそこ好きな人がいそうです。

そこに載っているのは例えばこういう間取りです。ちょっとだけスクロールを止めて、眺めてみてください。

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suumo.jp/article/oyakudachi/oyaku/chintai/fr_room/madori_unique/より

ああ、想像が膨らみますね。

なるほど玄関を入って左に風呂。右手に部屋があって……待って、この物入れどうやって使うんだ…あーバルコニーが細いけどとても長い。これは何かに使いたいな

…………ボーリング?

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自分が住むならどうかな?どんな人が住みそうかな?生活はどんな感じになるだろう?こうやって使えば、意外と住みやすいかも!

間取りのゲームを作るにあたって私たちが大事にしようと決めたのは、この、間取りを見た時(それがどんなに変テコであっても)そこから思わず暮らしを想像し、語ってしまう時間でした。

3. ゲームの結論

このゲームは間取りを見て暮らしを想像する時間を大切に作りましたと偉そうに言ってみたものの、この軸にたどり着くまでには時間がかかりました。実は、ゲームの結論ともいうべき勝敗のつけ方は、笑っちゃうくらいに決まらなかったのです。
まぁ、大丈夫。どこかに収束するよ。計画性のなさは思い切りの良さという長所!オーケーノープロブレム、カタログには載せとこう。

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※リリース時のゲームマーケットカタログ

勝敗のつけ方というのは、ゲームというストーリーの中の結論だと言えます。読みが鋭いと勝つのか、運がいいと勝つのか、面白いこと言うと勝つのか、早いと勝つのか。とっても雑に言えば、このゲームという世界の中ではどういう人がエラいのか、ということです。

では、間取りのゲームでは誰が一番エラいのでしょうか?
いちばん良い間取りを作った人?

そうですね、私たちの最初の設定もそれでした。しかし壁にぶち当たります。

4.「良い間取り」とはなにか

勝敗のつけ方はゲームの中でどういう人がエラいのかの基準と言いましたが、そのエラさを測るためによく使われるのが得点です。

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マドリーノも、最初は得点をつけるゲームでした。トイレやお風呂は家の中に収まっていてほしいね。各10点。収納は多めがいいな。リビングは広めなら30点、日当たりが良くて……当然ですよね!いい家ができました。

いやいや、でも待ってください。トイレが外にあったらダメですか?古い日本の家屋は、トイレが離れていましたよね。衛生的にはメリットもある。
とある高層ビルではわざわざ開放感を楽しむために、トイレの窓をガラス張りのデザインにして、それを売りにしています。

風呂が外ですって? 
わ た し は 露 天 風 呂 が 大 好 き で す ! ! ! 

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もうお分かりかと思うのですが、間取りの良さとはとても主観的なものです。気候や文化、育った環境や嗜好、立地、用途によってぜんぜん違います。どの価値観も、その人にとってのベストなはずです。

もちろんゲームなので、この世界ではこういう間取りが評価されます!と言ってしまえばそれまでですが、自分は納得できなかった、という話です

間取りの良さが主観によるなら、主観を得点に反映させればいいのかもしれません。最初にプレイヤーが基準を決めたり、住む人の人物像を設定したり。

でも、実は得点の問題はこれだけではありませんでした。

5.間取りを楽しみたい

"間取り"をひとつの物差しで得点化する不自然さに加えて、得点をつけることで見えなくなるものがありました。

間取りです。

マドリーノはそもそも「サイコロの目に翻弄されながら自分で間取りを描く」というそれだけが、本当に面白かったのです。その面白さは、間取りを描くという面白さであり、見て想像するという面白さでした。
得点をつけた時、それが失われたと感じました。

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どういうことかと言いますと、得点があると得点のことを考えるんですね。ゲームなので。当たり前ですね。勝ちたいので。
この時の頭の中は、

トイレにドアをつけると得点が高いぞ!よし!
窓が来たからここにくっつけると得点が高いぞ!よし!

です。一方、得点がない時の頭の中は、本当に間取りのことを考えているんですね。

トイレのプライバシーは絶対守りたい〜
窓が来たからここにサンルーム作っちゃお〜

こんな感じです。
間取りのことを考えていると遊んでいる間も間取りの話をするのですが、得点制にするとその会話が明らかに減りました。これ、なんか違うね。テーマが間取りである意味がないゲームになっちゃった。

自分たちの作りたいものは一体なんなのか、マドリーノで何を体験してもらいたいのか。そもそもゲームとは何なのか。そういう哲学的?な問いの真ん中をぐるぐる回り続け…

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その結論が、得点ではなく出来上がった間取りをいい感じにプレゼンできた人の勝ちとするマドリーノとなりました。

一応、話し合って勝ち負けはつきますがオマケのようなもので、私たちの中では「間取りを一番楽しんだ人が勝ち」ということになっています。とにかく間取り自体の持つ面白さをみんなで楽しむことができるゲームになったと自負しています。

具体的に書くと長くなるのですが、大雑把に言えば得点がないこと、プレゼンテーションがあること、同じ事務所の同僚による社内コンペという設定が大きく寄与しています。
また、それを生かすための理不尽さ、プレイヤーが選択できる幅・・・最終的にはいろいろ噛み合ったなと思います。機会があったらぜひ遊んでみてください。

6.マドリーノという作品

結果として、2021年4月現在、ナナワリ作品の中では1番のヒット作となりました。本人たちが一番驚いていますし、その分だけ地球上に楽しい時間が増えていると思えるのが何よりの喜びです。

遊んでくださる方、いつも本当にありがとうございます。

発売後、すごく楽しんでくださる方も多かったですが、「もっと好きなように間取りを作りたい」「点数をつけたい」「ゲームじゃない」というような声を見かけることもありました。

わかります。

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なぜなら私自身、パズルゲームが大好きで、大喜利的なものは苦手だからです。もっと上手に間取りを作って褒められたい(高得点が欲しい)という強い気持ちを持って、最前線(?)で夫と粘り強く話し合ったからです。

それでもやっぱり、突き詰めて考えれば私たちの作りたい体験はこういうものでした。そしてそれが本当に多くの方に楽しんで頂けていることを幸運に思います。

7. おわりに

こういうわけで、マドリーノができました。計画性がないので思いつくまま書いていたら、うっかりすごい長さになっていました。でもオーケーノープロブレム。公開しましょう。

理不尽さの度合いについても夫婦で激論したとか語り尽きないですが、さすがにおしまいにしたいと思います。ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。

このゲームの中で、最初は「いい間取り」を作ろうとするものの思ったように行かず、途中から「今できている間取りにコンセプトを立てて、それと辻褄が合うように持っていく」というふうに思考が切り替わる瞬間が、私は好きです。
人類が初めて出会う間取りに、どういう人が、どう住めばフィットするのか。あなたの創造性が掻き立てられる瞬間です。

〜 面白き事もなき世を面白く すみなすものは心なりけり  (高杉晋作)

マドリーノの面白さの核は、変な間取りそのものが既に面白い、ということ。だからマドリーノは、とにかく変な間取り自体が持つ面白さを邪魔しないで楽しめるようにする。
そのために、とても理不尽だけど、理不尽さの中でなんとかできあがったものに魅力を見出すゲームにする。
そうやって半分以上はゲームのルールに従って、残りの半分は創造する思考を刺激したい。変な間取りというちょっとしたお膳立てがあるおかげで、ふだん「創造」って苦手な人でもうっかり創造的になっちゃう。ゲームというか、仕掛けというか、楽しい時間のための道具です。

マドリーノのご購入は・・・

遊ぶ人数が増やせるセットもあります・・・