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怒りの代弁者

カフェで読書をしていたときのこと。トンカントンカンと釘を打つような一定のリズムが聞こえてきました。どうやらその音は、同じフロアにある楽器店から聞こえてきます。一人の少年が、ドラムスティックを試している様子。制服を着ているので、おそらく学校帰りでしょうか。とっくに夕ごはんを食べていてもおかしくない時間帯に、彼はひとり、さまざまな種類のスティックで練習用パッドを叩き続けています。よーく聞いていると、決して一定のリズムを刻んでいるわけではなく、特徴的なリズムの断片を切れ切れに叩いています。わたしたちにはトンカチ音にしか聞こえませんが、彼の頭の中では、憧れのアーティストの曲が鳴り響いているのでしょう。

彼くらいの年頃のころ、わたしも軽音楽部で青春を謳歌していました。ちょうどハイスタが流行った頃で、今でも聴くたびに当時の記憶が蘇ってきます。うるさい音楽ばかり聴いていました。 イヤホンから流れる大音量の音楽で耳を塞ぐと、イライラしていた頭が軽くなる感じがした。思春期の鬱屈とした気持ちを、彼らが代わりに放出してくれていたのだと思います。学校帰りに人が降ってきたり、上を転がっていくようなライブに行って、汗だくで飛び跳ねて。ステージで大暴れする憧れのアーティストを、一筋の光のように感じていました。

10代に支持されているバンドの曲を聴くと、当時の自分も好きだろうなと想像します。高校以来バンドをやろうなんて一度も考えなかったけれど、信念を感じる同世代のアーティストに出会うと、胸が熱くなる。彼らに救われる子どもたちがたくさんいると思うから。

自分に何もなさすぎて、ひたすら無力感を感じていた「17歳」という年齢は、今でもわたしの大テーマのひとつです。悩んだときはいつも、過去の自分が今のわたしを見たらどう感じるだろうかと考えます。当時の自分に軽蔑されるような大人になってしまわないように。音楽という方法じゃなくても、あの頃の憧れのバンドマンたちのように、鬱屈とした気持ちを抱える17歳の旗印として生きていきたいと思うのです。

ひとり練習パットを打ち続ける少年の背中を見ながら、昔の自分を思い出したのでした。

また明日。

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