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Day5】ss6 そのジンライムが意味するは

「あああああああああもう!あのくそ上司!」

今日の君はお怒りモードらしい。

「何だかわからないけどずっとくそ上司の愚痴を聞かされて仕事進まなかったのに、『俺が仕事教えてやるよ~』とか適当なこと言ってきやがってさ。いや時間あればすぐ終わるから俺を解放してくれっつーの!!」

とかなんやかんや。「今日どう?」とラフに誘える関係で、世間話や最新の技術の話をしたり、今日のように上司の愚痴を言いあったり。大学の入学式で意気投合してからずっとこんな関係を続けている。

「なぁ…………前に好きな人で来たって言ったじゃん。
………また振られちゃった。」

知ってたよ。普段の君は愚痴なんか言わない。
格好よく仕事をこなして、俺と腕を磨くことを楽しむところしか見せない。今日みたいに愚痴や悪口を言うときは大体振られたって話題が後ろに隠れてる。全くそうやって自分を悪人に見せようとしたり自分を傷つけるのは本当にやめて欲しいんだがな。

今日もまた君は思ってもいない言葉を口にし、傷ついた顔をして、好きだった人の話をするんだ。そうして最後に君は琥珀の酒をぐっと飲み干して、突っ伏して、こう言う。

「なんでかなー、お前とこうやって話してるのが一番気楽で楽しいや。
なぁ、キスしてみない?」

こっちの気も知らないで。悪い男だよほんと。
どうせ明日の朝には忘れるくせに。

『………君が酔ってなかったら考えるよ。』

視線をそらし、声が震えないよう気を付けながらそう答えることしかできない。鼓動が落ち着いてから視線を戻すと、君はもう寝息を立てている。それがいつもの繰り返し。

僕はジンライムを一杯頼んで、寝息を立てる君を眺める権利を噛みしめる。いつもの表情を作れる自信ができてから君を家まで送り届けるんだ。

『ほら、もう帰るよ。明日には格好いい君に戻るんだろう?』




酔ってなんかいるもんかよ………


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