So We Beat on...

現地時間の八月九日、Fabrizio Romano、David Ornsteinなどの有力記者並びにボーンマス番記者のMark McAdamやAlex Crookから、Solankeのトッテナムへの移籍が合意に達したとの報道が出ました。かねてより噂されていたSolankeの退団の可能性は、今事実へと変わろうとしています。移籍金は£５５００mに最大£１０mのアドオン。２０２０年にマンチェスター・シティへと移籍したAkeの移籍金£41 mを超えるクラブレコードの売却金となります。

一週間ほど前から噂は毎日のように出ていましたが、移籍の焦点は初めから最後までスパーズが£６５mと言われるSolankeの違約金を満額支払うかというところでした。最終的には£５５m＋£１０mのアドオンというパッケージに。ボーンマスが満額払わせるまで引かぬ強気の交渉を期待していましたが、おそらく本人がステップアップを望んでいること、FFPやPSRの観点からどのみち近いうちに主力の売却が必要だったこと、ずるずる交渉を続けて代役の確保に失敗することを恐れたであろうことを鑑れば、少し譲歩する形になったのは致し方ないことであり、スパーズの財布の紐の固さを考えれば満足とは言わなくとも失望するほどの内容でもないと思います。

ビジネス面で良い交渉ができたとは言っても、やはりSolankeを失うことはすぐに受け入れられるものではありません。彼は我々をここまで引き上げた絶対的なエースにしてチームの核。強靭なフィジカル、高い技術、献身的なポストプレーや守備、難しい体勢からでもゴールにねじ込める決定力はどれもボーンマスの攻撃に必要不可欠なものです。

ですが当初は別人でした。Solankeがボーンマスに加入したのは１８−１９シーズンの冬市場。レンタル加入のClyneと共に、当時シティと熾烈な優勝争いを繰り広げていたリヴァプールから完全移籍で加入。世代でトップクラスのポテンシャルを秘めているとされていたプロスペクトの加入ということもあり、私はとても喜んだ記憶です。当時はSNSをやっていなかったので詳しくは分かりませんがこのクラブから一気にスターダムを駆け上がるSolankeの青写真を描くファンは少なからずいたのではないでしょうか。

しかし現実は厳しかった。順調に成長するのはゲームだけのお話だからです。加入シーズンの１８−１９の後半はノーゴールに終わると、翌１９−２０シーズン全体を通じて、Solankeはその才能を燻らせることに。Joshua King、Callum Wilsonという実績あるフォワード相手にスタメンの座を最後まで奪えない一方で、当時の指揮官Howeからは多くの試合で彼を途中起用しスーパーサブとしての活躍を期待されましたが……初のゴールが生まれたのはコロナ中断明けのレスター戦。シーズン全体では３２試合１６５１分に出場しながらわずか３ゴールという結果に、チームも降格の憂き目に遭いました。この頃になると£20m近い移籍金と２０％のセルオン条項という相手側に好条件だった取引も相まってSolankeへの批判も少なくなかったでしょうか。ただこのシーズンは主力、特に攻撃陣の多くが不調で、主な批判の矛先は別の選手に向いていたかもしれません。

続く２０−２１シーズン。長年指揮を取り続けたレジェンドHoweが退き、Ramsdale、Francis、Ake、Daniels、Surman、Fraser、Wilson、そして冬にKingと多くの主力やチームを長年支えたベテランが退団し、チームは大きな転換点を迎えます。そんな中でSolankeはトップのファーストチョイスとして４０試合に出場。１５ゴール８アシストを記録し一気にスタメンの座を確実なものとしますが、チームは当初は好調ながら失速し６位でリーグを終え、プレーオフではブレントフォードに敗れ一年での再昇格に失敗。しかし翌シーズンにSolankeは更に爆発。得点数をさらに伸ばしリーグ２位となる２９ゴール。Travers、Zemura、Anthonyといった若手の台頭やKelly、Lerma、Billing、Christie、Mooreらの活躍もありつつ、エースとして１年間コンスタントに結果を残しチームを昇格へと導きました。

２２−２３シーズン。昔のようにベンチからではなく、すでにエースとしてチームを引っ張っていく役割になったSolanke。しかしプレミアリーグの壁は高い。チャンピオンシップほどチャンスはやって来ず、ボールを収めてもすぐに孤立してしまい、ディフェンダーとキーパーのレベルも段違い。結局このシーズンは５ゴールに終わりました。しかしそれでもアウェーフォレスト戦でのオーバーヘッド同点弾や、ホームフラム戦での逆転弾、アウェースパーズ戦での一時逆転弾など、要所要所で勝ち点につながるゴールをもぎ取りました。むしろ光ったのはチャンスメーク。フィジカルを活かしたポストプレーで時間と空間を味方に与え、巧みな技術でファウルを誘発しボールを前進させ攻撃を活性化、７アシストはチームでトップの数字でした。特に２１−２２から引き続きトップ下で組むことの多かったBilling（７ゴールでチームのトップスコアラー）との好相性は本当に助かりました。

そして２３−２４シーズン。序盤はチームは不振に喘ぎながらも、新監督Iraolaの求めるハイプレスをきちんとこなし、昨季から引き続きポストプレーでも違いを見せつけます。そして得点面でも、Solankeはついにその才能を開花させます。周りの選手の質向上もあり、開幕からコンスタントにゴールを積み重ね、１１節のホームニューカッスル戦では２ゴールを決め、ここからチームは一気に上昇気流に。１８節のアウェーフォレスト戦では一人少ない相手に先制されながらも、同点弾、そして逆転弾を立て続けに叩き込み、追いつかれ試合が間も無く終わろうとする最終盤に、値千金の再逆転弾、キャリア初のハットトリックを達成。次節フラム戦でもPKを沈め、この頃からSolankeへの注目が増してきました。年が明け後半戦に入っても得点ペースは落ちず、ホームユナイテッド戦のゴールでクラブでKingの持つプレミアリーグ最多得点記録（１６）を更新。最終的に１９ゴールを決め得点ランキングでは４位に入りました。ボーンマスでのラストゲームとなった最終節アウェーチェルシー戦では後半ATでの大チャンスを決められず、結果的にあれがボーンマスでのラストプレーになってしまうのは少し残念ではありますが、最後までチームのために戦い続けました。

５年半過ごしたボーンマスで出場した試合は２１６試合、そして決めたゴールは７７。いつの間にかKingやWilsonの数字をゆうに飛び越え、クラブ歴代４位の得点数。もはや上にいるのはSteve FletcherやBrett Pitmanといったファンの誰もが知るレジェンドです。

確かに当初は苦しみました。ファンの期待を大きく裏切ったかもしれません。きっと周りにとってもSolanke自身にとっても、思い描いていた輝かしいキャリアとはかけ離れた場所にいたことでしょう。しかし、Solankeは過去を引きずらず、不貞腐れず、日々練習に打ち込み、変わりゆくチームのためにプレーを続けました。そしてチャンピオンシップで活躍し出した時も、昨季プレミアで覚醒した時も、彼は決して調子に乗ることなく、タスクを怠らず、自分にできる最大限をこなしました。歴代の監督は皆、Howeも、Tindallも、Woodgateも、Parkerも、O'nielも、そしてIraolaも、多くの出場時間を与え、彼への高い期待と信頼を見せました。私たちファンもそうです。ピッチ内でのプレーで私たちを魅了しては、ピッチ外でも眩しい笑顔を見せるSolankeを嫌うものは誰もいないでしょう。最近は親日家として、多くの日本人サッカーファンがその名を知るようになったのではないでしょうか。

そんな誰からも愛されるSolanke、しかしお別れの時はもうすぐそこまで来ているようです。今までに見せてきていたクラブ愛や、ここ２季連続で契約延長していたこともあり、ファンには残留の期待が少なからずあったでしょう。かくいう私もつい昨日までは各種報道をそこまで信じていませんでした。ですがそんな私たちの楽観主義は見事に砕かれたわけです。

とはいっても、主力の流出というのはボーンマスのような中小クラブにとっては逃れられぬ運命のようなもの。ここ数年を見てもRamsdale、Ake、Rico、Danjuma、Lerma、今年もすでにKellyといった主力選手を見送ってきたのです。別れとは毎回寂しいもの、しかしずっとそうは言っていられない。数日のうちに悲哀や寂寥をなんとか胸の奥へとしまいこみ、代わりにやってくる選手に心を躍らせるのは、サッカーファンあるあるでしょう。実際既にボーンマスはSolankeの穴を埋めるべく動いているそうです。

切り替えるとはいえ、もちろんSolankeのことを忘れることなど出来ましょうか。５年半もいたんです。大学生になった私が中学一年生の頃からいた、存在自体は小学生の時から知っていた選手です。特に最初は苦しんでいましたから、よくここまでの選手になったと上から目線ながら思いますし、だからこそようやくビッグ６のクラブに求められるほどにまで成長したことはとても嬉しい。

でもやっぱり寂しい。好きだった個人チャントが歌われなくなる。あの弓矢ポーズがディーンコートで見れなくなる。赤黒のユニフォームに身を包んだ、見慣れた９番がもういなくなる。自分はボーンマスというチームが好きで応援しているのであって、数人を除いて選手には周りのファンほど思い入れがないと思っているのですが、こんなことを書いていると、本当に好きな選手だったんだなぁって。寂しい。本当にいなくなっちゃうんだ。メディカル引っかかんないかなぁ。Zabarnyiもっと強く足ふんどいてよ

まあでも、スパーズ行っても怪我だけはするなよ。タイトルの一つや二つ取らせるくらいの活躍して懐疑的なファンの手首を全部捻じ切るくらい活躍しちゃいな。でもボーンマス相手にはお手柔らかに。

最後、５年半もいてくれてありがとう。プレーも人間性も何もかも最高でした。

本当に、本当にありがとうございました。

最後に：Solankeがいなくなっても

ここからはSolankeではなくクラブにフォーカスしていきます。

この２年でボーンマスは変わりました。新オーナーBill Foleyの就任が全ての転換点です。今年で８０歳を迎えるにも関わらず、このアメリカ人は首脳陣やスカッドへのメスだけでなく、スタジアムや練習場の新築を敢行し、ボーンマスを土台から変革させ、欧州の舞台にこのクラブを持っていくという壮大な夢を持っています。

ところでみなさん"The Great Gatsby"(和訳：華麗なるギャツビー)という小説を知っていますか？急激な経済成長、それに伴う民衆の生活向上とアメリカンドリームという考えの発展、はたまた黒人文化の萌芽とアメリカ社会に大きな変化のあった「狂騒の20年代」を題材とした小説です。その最後の文章ではこんなことが書かれています。

"So we beat on, boats against the current, borne back ceaselessly into the past."

「だからこそ我々は、前へ前へと進み続けるのだ。流れに立ち向かうボートのように、絶え間なく過去へ通し戻されながらも。」

この引用での「前へ前へ」というのは未来のことを指しています。常時逆流にのまれながらも、人間は必死に前へと進んでいきます。ボーンマスもまた、野心的なプロジェクトの下で前へ、上へと進んでいこうとしています。Solankeの流出は確かに痛いでしょう。否、大きな痛手であること間違いありません。しかし、先ほども言ったように、ボーンマスのような規模のクラブにとって主力の引き抜きは避けては通れぬ道。ただ進もうとすれば素直に進める世界でないのは当たり前のこと。特に中小クラブがビッグ６やそれに準ずる地位を維持するのは非常に困難なことです。ここ数年で躍進を果たしたチーム、レスター、ウェストハム、ニューカッスル、ブライトンなどは軒並みピークを維持できず、レスターに至っては降格の憂き目に遭いました。ボーンマスはそんな困難極まる目標に挑まんとしているのです。まずトップハーフ入れよというツッコミはなしです。

逆らう波に流されることなく、押し戻されることなく、前へ前へと進み続けることができるのか、それは全くわかりません。分かっているのは上に行くためにはそれをやるしかないこと、そしてそれにあのボーンマスが挑もうとしているです。１０年前までプレミア経験のなかったチームが、トップハーフに僅か１回しか入ったことのないチームが、残留は目標ではなく、もはや自然と達成されるノルマとし、欧州選手権の争いを夢見ているのです。

私はこのチームならばできると信じています。ただファンの盲信というわけではありません。資金力は桁違いに増え、選手層は昔とは比べ物にならないほど才能を持った選手がひしめき合い、監督にも昨季で絶大な信頼を置けました。新たなリーダー率いるフロントも頑張りが見て取れます。

だから、今回のSolankeの退団はポジティブなものにしたい。今までのようにただ主力選手を引き抜かれた悲しいお別れではなく、より強くなるための試練として、そして将来振り返った時の転換点として、ここからボーンマスはいろいろ乗り越えて、今を築いてきたんだよなと、ずっと前に進み続けてきたんだよなと、高いところまで飛んできたんだよなと、言えるようなものになって欲しい。

きっと私たちに限界はない。私たちなら一緒に、何だってできる。

なんかイタいですが最後にそんなことを思いながら今回の記事は以上となります。拙い文章ですみません。ご覧いただきありがとうございました。