見出し画像

犯人探し

 私には、すぐに犯人探しをしてしまう癖がある。
といっても探し出して責め立ててやろうというのではなく、なぜ失敗したのか原因を突き止め、再発を防止したいからだ。
自分に対してそういった姿勢でいることは、仕事において大いに役立ってきた。
しかし、他人に対してもそれでいいのか、すこし疑問に思う。

 連日わたしがnoteを投稿しているのは、明らかに弟の不注意で自宅待機を余儀なくされたからだ。
そしておそらく私も感染している。
幸い軽症中の軽症といった具合で、本を読んだり軽いストレッチをする元気は十分にある。
ただ、息苦しくなったり胃が痛くなったりするなど、ストレスによる不調が出ている。
加えて生理が始まり、私の精神面含む体調はかなり悪い。

 一方元凶である弟は快方に向かい、リビングとひと続きになっている彼の自室から、テレビを観て楽しそうに笑う声が聞こえてきた。
時折両親と話す声も聞こえ、彼の存在を感じる音が耳障りだと思った。
私の部屋はリビングから一番遠いので、誰かがわざわざ私のためだけに部屋を訪れなければ、姿を見ることもできない。
今まで細心の注意を払って感染対策をしてきた私が、なぜこんな目に遭わなければならないのか。
この件に関する私の疑問や怒りには、必ず「悪いのは弟なのに」という枕詞がつく。
果たしてこれでいいのだろうか。

 確かにどう考えても弟が悪い。
ワクチンを拒否し、連日友だちと飲み、泊り、好き放題した挙句にウイルスを持ち帰ったのだから。
それはもう動かしようのない事実だ。
対策を行ったうえで感染してしまった人とはわけが違う。

 また、隔離中の生活というのは、想像の何倍も窮屈だ。
朝起きてコップ一杯の水を飲む、それすら自分ひとりではゆるされない。
毎朝の日課であるスムージーを作ることも、テレビで動画を流しながら丁寧にストレッチすることも、何もできない。
トイレに入浴、洗顔や歯磨きに至るまで、自室の外での行動すべてを注意深く行わなければならず、それだけで相当のストレスだ。
家族とのコミュニケーションすら必要最低限に減らされた私と違い、弟はこまめにコミュニケーションを取っている。
親の愛情の差などではなく、間取りのせいだ。仕方がない。
しかし、唯一のこちらからの連絡手段であるLINEには気付いてもらえず、お腹がすいても食事をすることができなかった。
ここまで来て、私のメンタルはまたしても限界を超え、泣いた。

 夜YouTubeを見ていると、instagramの通知が来た。
美容家の神崎恵さんが、インスタライブを始めたという通知だ。
スマホの画面で動画を見続けるのが苦手なため、インスタライブを見続けたことがない。
なんとなく見てみると、神崎さんはハッピーオーラ全開だった。
「今日は水曜だっけ?皆さんいかがお過ごしでしょうか?あれ、木曜なの!?」
「(マスクを着けた状態で)私は今、何色のリップを塗ったでしょうか?」
「大事な報告があるのにすっかり忘れてた!来月新刊が出まーす♪」
不思議と彼女のライブを見ている間は、マイナスな思考が一切消えていた。
きらきらと輝く彼女につられ、こちらまで幸せな気分になる。
マスクで見えなくても、リップを塗ることで自分のスイッチが入り、雰囲気や佇まいに表れるという。
確かにその通りかもしれない。
マスク生活の前はリップ主役のメイクが多かったので、リップは特に好きなアイテムだった。
アイメイクに重点を置くようになり、アイメイクの知識や技術は身についてきたが、やはりリップを塗ってようやくスイッチが入る気がする。

 一瞬で私の気持ちを引き上げてくれた神崎さんを見て、私もこんな風になりたいと思った。
だとすれば、いつまでも「悪いのは弟なのに」と言っていていいのだろうか。
その言葉の続きは、必ず不満だ。少しも満たされない。
もちろんマイナスな感情だからといって、全部を抑え込まなくてもいい。
そうしてきた結果、ストレスを溜めこむ性格になってしまったから。
ただ、どこかで切り替えることは必要なんだと思う。
他人の行動は制御できず、犯人を探して原因を突き止めたところで、改善してくれるかどうかはその人次第だ。
少年漫画の主人公のように、分かり合えない人とも本気でぶつかってみれば、何かが変わるかもしれない。
しかし、今の私には真向から対話する精神力などない。
自分を癒すことを最優先に、まずは楽しいこと、好きなことで、頭をいっぱいにしよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?